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学芸員レポート
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山口県立美術館 平成大修理完成記念 周防国分寺展――歴史と美術/芦屋市立美術博物館のこと/「牛腸茂雄1946-1983(仮称)」展
山口/山口県立美術館 河野通孝
2004年担当の企画および抱負
 「なんだかくずれ落ちそうだな……」。平成6年、山口に赴任し、休みの日にはたびたび仏像めあてに周防国分寺を訪れていた私は、その金堂をみるたびに案じていた。
 なかなかにいいお寺である。山門をくぐると、がらんとした前庭のむこうに、左右に見事に張り出した大屋根を戴き荘重な姿をした金堂が座している。と書くと威圧感を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれないが、むしろその場にいるとひなびたような安心を覚える空間である。目に入るすべてに年季が入っているというか、「手入れは行き届いてますけど使い古しています」という感じがよい。瓦の重みで屋根が少々歪んでいるのも、なにかこう風雪を乗り越えた老将が泰然と座っているかのごとくで風情を感じさせた。で、ひと時この空間を楽しんだ後、拝観を願うべく裏手にあるご住職のご自宅兼寺務所にうかがうのだが、その時通る金堂の軒下が危なっかしい。立派に張り出しすぎてどうにも調子がよくないのか、いまにも崩れそうなのである。
 そんな心配をしていたところ、平成9年に大修理がはじまった。そして、あしかけ8年、ついにこの大事業も終わりに近づき、9月には復元された大金堂がその威容を現す。もちろん、奈良時代に建立されて以来の建築物というわけではないけれども、創建当初から寺地を移動することもなく伽藍を維持してきた全国でも数少ない国分寺ではあるし、大内氏、毛利氏といった有力大名の庇護を受け、平安以来の文化財を伝えてきたこの寺院は、山口における仏教博物館というべき存在である。そして、幸運なことに、私の同僚には、仏像をこよなく愛する仏教美術研究家がいる。そういうわけで、大改修完成を前に、仏像を中心とした周防国分寺の全貌を紹介する展覧会が実現することになった。
 さて、無事、寺務所にたどり着き、金堂裏の勝手口(とはいわないかもしれない)の鍵を開けてもらった私はというと、いつも金堂内部の薄暗く、広大な空間を独り占めしながら、祭壇にいならぶ仏さまとの時間を過ごしていた。わりに頻繁に訪れたのは、仏像が居並ぶその荘厳な光景を見たいというだけでなく、時代を超え連綿と続いてきた空間に抱かれているという感覚を味わえるのが多分好きだったんだろうなと自己分析するのだが、一方、そんなアプローチも雰囲気もない美術館で、どんな異次元空間を味わっていただくのか。岩井共二学芸員渾身の展覧会である。乞うご期待。
 ついでながら、写真、現代美術担当の私ではあるが、仏像好きを主張してなんとか企画の一員に参加させてもらった。ちょっとでも味付けになれば幸い。

2004年の気になる展覧会、動向
 ロサンゼルスのとある街角。美術館とおぼしき建物の看板に、館名を覆い隠すかのようにでかでかと「For Sale」という文字。「えっ、美術館、売りにだされてんの」と驚いたのが1998年3月である。ロサンゼルス出張から帰ってきた同僚に見せられた一枚の写真と、「美術館を運営しようと思ったら、やっぱり金がいるなぁ」という彼の一言はなかなかに忘れがたい。その4カ月前にオープンし何かと巷をにぎわせていたゲティ・センターを訪問した直後の光景だけに、両者の落差にゾッとしたというのである。
 あれから6年。ついに日本の公立美術館にも「美術館売ります」の波がやってくるのか。民間委託先が見つからなければ売却もしくは休館するという芦屋市立美術博物館のニュースには思わずのけぞった。4年目の駆け出しでまだまだウブだったあの頃ではない。行政運営美術館所属10年目ともなり、脅し文句のひとつもやっと言えるようになったはずだったのに、おもわず小指をたてて「きゃぁ」と叫んだ。「地域密着型小規模美術館の先陣を切っていると思えた芦屋の美術館ですらそうなのか」と落胆、そしてなぜか興奮。興奮冷めやらぬ間に、反対署名がまわってきて力んで署名。脱力した後、「美術館を売ってよいということは、所蔵作品を売ってもよいということかなぁ」などと、自分の勤める美術館にあてはめてアレコレ思う。
 しかし、行政運営美術館ゆえの欠点と利点を日々突きけられる公立美術館学芸員として考えるに、芦屋市の決断は、かえってコレクションの生死にとってはベターな選択かもしれない。極論だが、「金と愛」がなきゃ美術品は腐敗する。官が死蔵し手当てが遅れたらどうなるのか。「愛」はともかく、細々ながらも「金」だけはつけてくれてたパトロンに「金なくなった」と告白されたが最後、見捨てて次の金づる見つけるしかないじゃないか。いや、それとも新しい金づるともどもよろしくやることにするか。
 コレクションに見合った運営母体をどう構築していくのか。突きつけられた問題は困難を極めるものと思われるが、今後の美術館運営のプロトタイプとなる可能性を秘めている。私は、とりあえず腐れ縁のパトロンにまとわり付いて手練手管を磨くのみだが、先陣切った芦屋の行く先がとても気になる。
 気になる展覧会は、8月6日の新潟市美術館を皮切りに、三鷹市美術ギャラリー、山形美術館(11月28日まで)と巡回する「牛腸茂雄1946-1983(仮称)」展です。
プロフィール
1994年より山口県立美術館に勤務。「ユルゲン・クラウケ」、「ジャン=マルク・ビュスタモント」(以上共同企画)、「井川惺亮」、「長谷川繁」、「野村佐紀子」、「ナン・ゴールディン」、「ヨーク・ガイスマール」展など、おもに写真・現代美術の個展を企画。
[こうの みちたか]
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