ミラノデザインウィーク2023レポート Vol.1

イタリアで4月17日から22日にかけて開催されたミラノデザインウィーク(一部、出展により会期は異なります)。DNPでは社員が実際に現地にて、100件を超えるブランドの視察・取材を行いました。このコラムではVol.1からVol.4まで4回に分け、DNPの視点で分析したトレンドのキーワードとともに、各ブランドの新作をご紹介いたします。Vol.1では速報として、筆者が印象に残った出展情報や新作について紹介していきます。



ミラノ街並み・会場

ミラノ市内展示会場RhoFieraで毎年開催される家具の展示会Salone del Mobileの来場者数は2022年から15%増え、2019年ぶりの30万人超となる307,418人を記録しました。また、今年はパンデミック中は見られなくなっていた中国を中心としたアジア諸国からの来場者が復活。この記事をご覧になっている方の中にも、数年ぶりのミラノデザインウィーク訪問を実現したという方がいらっしゃるのではないでしょうか。また、昨今の大きな社会の変化はインテリアデザイン界にも影響を与えており、改めて住まいの価値を見直すような提案が多くみられたのもここ数年の特徴と言えます。



2023年ミラノデザインウィークの様子、各ブランドの新作紹介

Flexform ブランドサイトへリンク
RhoFira会場の展示では、2023年の新作とともに2022年の製品も大々的に展示され、Flexformの世界観を表現していました。右の画像は2023年の新作テーブル「Kobo」です。アフリカの家具からインスピレーションを得たPatrick Norguetのデザインです。ボリューム感のある天板とシンプルな曲線美を持つ脚が特徴のKoboは、サイドテーブルとコーヒーテーブルも展開されています。

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市内のFLEXFORM MILANOで開催されたPORTRAYING DESIGNでは、Flexformのストーリーとブランドを表現する写真を軸に、フォトグラファーとのコラボレーションの変遷を展示していました。

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Text by Chihori Kunito



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Molteni&C ブランドサイトへリンク
Vincent Van Duysenのディレクションによる2023年のコレクションは、古代ローマの中庭を中心とした居住様式 “Roman Domus”にインスピレーションを受けてつくられました。光、水、空気を居住空間に取り込むこのスタイルは、内と外が柔らかくつながる、優しく親しみのある空間コンセプトとして現代に再解釈されました。

Vincent Van Duysenデザインの”MATEO”は、中央のスリットが特徴的なベースと、テーパーをつけた天板があらゆる空間に溶け込むテーブルです。


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また、深澤直人とのコラボレーションにより発表されたシェーズロング”TUSCANY”の特徴は、その名が示す通りトスカーナの丘を思わせるゆるやかなシートの起伏。日本とイタリアの美意識の融合といえるデザインで、人間工学に基づいた優しく身体を包み込むクッションも特徴です。


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Text by Hidehiro Anzai



Poliform ブランドサイトへリンク
RhoFiera会場内のPoliformのブースでは、新作家具によるホスピタリティを感じさせる温かみのある空気感が来場者を優しく迎え入れてくれました。Emmanuel Gallinaによる“Monolith”は、薄く加工された石質材のトップと床に向かって柔らかく広がる脚による、軽やかで柔和なテーブルシリーズ。

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また、Poliformのインハウスデザインチームによるシステムキャビネット “Code”では、さまざまな素材や形状のカスタムオプションが用意されており、そのなかでもスリット形状のオーク材とガラスによるドアは、洗練された印象と抜け感のある親しみやすさの両方を含んだ印象的な素材です。

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また、ミラノ市内Brera地区では、15世紀に建てられたロマネスク様式の教会San Simplicianoにて、同ブランドの新作アウトドアコレクションによるインスタレーション “Percezioni”が展示されていました。「知覚」を意味する同展示では、溶岩石やアロマキャンドル、音楽による演出とJean-Marie Massaud, Emmanuel Gallina, Marcel Wandersデザインの家具やアウトドアキッチンによる没入感のある世界観がつくり出されていました。

Text by Hidehiro Anzai










ARMANI / CASA ブランドサイトへリンク
Giorgio Armaniはミラノ市との連携の一環として、歴史ある本社Palazzo Orsini(パラッツォ・オルシーニ)にて、ARMANI / CASA(アルマーニ / カーザ)コレクション の新作を発表しました。プライベートガーデンでは、チーク材の美しい彫刻を施したアウトドアテーブルやソファなどを展示。内部では壮大なフレスコ画の下、さまざまなコレクションが展示されました。連日多くの来場者が列をなし、Palazzo Orsini(パラッツォ・オルシーニ)内部に入ることができる貴重な機会と、ARMANI / CASA(アルマーニ / カーザ)の優美なホームコレクションを堪能していました。

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Text by Chihori Kunito



DIOR ブランドサイトへリンク
同社のアイコンである「メダリオンチェア」をフィリップ・スタルクが再解釈したディオール by スタルクから、アームチェア「ムッシュ ディオール」が発表されました。最先端のテクノロジーによりポリッシュまたはラッカー仕上げのアルミニウムやエクリュ(生成色)のブークレファブリック、ピンク、ブラック、蛍光オレンジの「トワル ドゥ ジュイ」など、さまざまな素材とカラーで展開されています。またインスタレーションでは、巨大なスクリーンを背景にハンギングされた「ミス ディオール」チェアが、音と映像にあわせて動き、まるでチェアが映像の世界に入り込み、来場者をも映像の中に惹き込むような、美しいインスタレーションが披露されました。

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Text by Chihori Kunito



Hermès ブランドサイトへリンク
Hermèsは、鉄筋の格子模様とコンクリートで構成されたジオメトリックな会場でインスタレーションを発表しました。華美な装いに対するアンチテーゼともいえる、交錯する無数のラインとグリッドが力強い空間を演出します。
空間の生み出すラインと、オブジェの持つライン、そして華やかなカラーと上質な素材が融合し、シンプルでありながらエネルギッシュなパワーを感じるインスタレーションでした。さらに、カクテルパーティーでは、4名のダンサーによるパフォーマンスが行われました。ラインやグリッドを表現したダンスは、会場全体の力強い空間に調和し、コレクションの美しい世界観を際立たせていました。

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左の画像はデンマークのデザイナー、セシリエ・マンツにより生み出された「アンセル・ドゥ・エルメス」。力強い無垢材のフレームに一枚のレザーシートを組み合わせ、軽やかで洗練された座面に仕上げられています。堅牢性とミニマリズムの融合という北欧の伝統を受け継いだこのアームチェアは、エレガントで構築的な佇まいを見せてくれます。右の画像はポーセリンのテーブルウェア・コレクションです。フランスのアーティスト、ジョシェン・ギャルネールは、障害飛越競技の国際大会「ソー・エルメス」にインスピレーションを得て、フェルトペンで自由で動きのあるモチーフをいくつも描きました。

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Text by Chihori Kunito

編集後記

2021年のミラノデザインウィークに比べ、今年は体感としても、従来の賑わいを取り戻しているように感じました。2021年は長引くステイホームの中で、各ブランドが空間や製品を通して、ニューノーマルのライフスタイルに対応した明るく、洗練された優しい印象のデザインを提案していることが目立ちました。今年はそのフェーズが一歩進み、各ブランドが改めてそのブランドらしさを追求しオリジナリティを表現しているように感じます。その一つの手法として、視覚的なデザインだけでなく、聴覚や嗅覚など五感にアプローチするような提案が多くみられました。デジタルとリアルの共存、そしてサステナビリティの追求の中で、空間を構成するモノ、あるいは空間の中に置かれているモノといった物理的なデザインだけでなく、空間の中に漂う空気感に対する感性的なデザインアプローチにも注目していきたいと思います。
(これらの展示については、後続してリリースするコラムでご紹介していきます。)
ミラノデザインウィーク2023レポート Vol.2

Text by Chihori Kunito



Editor紹介

ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネイト提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター

ドイツ・デュッセルドルフを拠点として欧州市場のデザインマーケティングを担当。現地駐在員として市場調査やデザイナーとの対話を通じ、ヨーロッパトレンド情報の収集、及びその発信活動に従事。

2023年6月時点の情報です。

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