近年注目を集めている「NFCタグ決済」とは?
普及に向けた取組みについてキーパーソンに聞く。

DNPは、株式会社ジェーシービー様および株式会社デジタルガレージ様と協業し、NFCタグ決済サービスをリリースしました。当サービスは渋谷区のデジタル地域通貨「ハチペイ」にも採用されています。
本コラムでは、今回は、NFCタグ決済の概要や普及に向けた取組み、実際の事例などをご紹介します。

目次

1.近年注目を集めている「NFCタグ決済」とは
2.NFCタグ決済の普及に向けた各社の取組み
3.NFCタグ決済の取組み事例
4.今後の取組みについて

1.近年注目を集めている「NFCタグ決済」とは

まず、NFCタグ決済の概要やメリットについて解説します。

技術の概要

NFCタグ決済は、NFC(Near Field Communication:近距離無線通信)と呼ばれる無線通信技術を活用した決済手段です。NFCタグの中には非接触ICチップが埋め込まれており、対応する機器同士を近づけるだけでさまざまな動作を実現できます。

活用分野

主な活用分野としては、店舗におけるキャッシュレス決済や情報配信などが挙げられます。NFCタグはスマートフォンをかざすだけでさまざまな処理が行えるため、今後さらに活用範囲が広がっていくと考えられます。

NFCタグ決済のメリット

NFCタグ決済の大きなメリットは「高いセキュリティレベル」です。遷移先アクセス情報の改ざんが容易にはできません。また、QRコード決済の場合、エンドユーザーが決済用のアプリケーションを探し、立ち上げてから読み込む必要がありますが、NFCタグ決済はタグに端末をかざすと決済画面に遷移するため、決済用のアプリケーションを探す手間が省けます。 ※QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

次の章からは、NFCタグ決済の普及に向けた取組みについて各社のキーパーソンへお話を伺いました。インタビュー形式でご紹介します。

2.NFCタグ決済の普及に向けた各社の取組み

インタビュー参加者

加盟店事業統括部門 ネットワーク部 ネットワーク開発グループ
主幹 小笠原 卓也 様

マーケティングテクノロジーカンパニー ファイナンス本部
ペイメントマーケティング部 部長
太田 裕介 様

同マネージャー 清水 理沙 様

情報イノベーション事業部 PFサービスセンター
決済プラットフォーム本部 企画・販売第1部 第1グループ
遠藤 久慶

同事業部 第2CXセンター 第3本部 第1部 第1課
伊達 竜輝


はじめに、3社で開発したサービスの概要や特徴をお聞かせください。

ジェーシービー 小笠原様
今回3社で構築したNFCタグ決済サービスは、「NFCタグにエンドユーザーのスマートフォンをかざすことで、セキュアな状態でWebサービスに接続し、決済を完了する」ものです。具体的には、3社で開発したNFCタグにエンドユーザーのスマートフォンをかざすことで、デジタルガレージ様が開発したWebサービスに接続されます。また、Webサービスにアクセスする際には、大日本印刷様の認証を通すことでタグの真贋判定を行います。

さらに、デジタルガレージ様のWebサービスには「モバイルオーダー機能」も付与されています。モバイルオーダー機能では、エンドユーザーが加盟店のECサイトに接続し、欲しい商品をカートに入れたあと、自ら決済することが可能です。

モバイルオーダー機能も含め、NFCタグ決済サービスは無料で提供しており、加盟店様は決済手数料のみで当サービスをご利用いただけます。


次に、3社での取組みについて、具体的な活動内容や役割をお聞かせください。

ジェーシービー 小笠原様
当社での取組みは、2021年の夏から実証実験という形でスタートしました。2023年は、過去2年の実証実験の結果をふまえて本格的な商用フェーズに移行しました。

3社の取組みとしては、渋谷区のデジタル地域通貨「ハチペイ」への参加が挙げられます。2022年3月に渋谷区が実施したデジタル地域通貨に関する公募型プロポーザルに当社からも提案を行い、その結果、NFCタグを利用した新規性が評価され採用に至りました。現在では、ハチペイの加盟店 約2,400店においてNFCタグ決済を利用できます。

デジタルガレージ 太田様
当社は、ジェーシービー様の実証実験やハチペイへの参加において、裏方としての立ち位置でお手伝いしました。具体的には、大日本印刷様の認証サーバーと決済を結びつける部分で、システムの開発と保守を担っています。

また、自動精算機の設置事業者へ向けて、NFCタグ決済の導入を提案しています。自動精算機とは、飲料自販機やゲームセンター、駐車場などで利用されている無人かつ自動で精算できる仕組みの総称です。この分野で、リード獲得からクロージングまでを担当しています。

さらに、決済の周辺で動作するアプリケーションの開発も手掛けています。周辺アプリを活用することで、決済完了の通知と同時に、他分野のサービスやサブスクリプションへの誘導が可能になると考えています。

大日本印刷 遠藤
今回の取組みにおいては、タグの真贋判定と認証を担うバックエンドサーバー開発に加えて、NFCタグの調達と供給、タグキット発送業務のBPO(Business Process Outsourcing)も担当させていただきました。

当社はNFC技術の国際的な標準化団体である「NFCフォーラム」に加盟しています。NFCに関しては、以前からさまざまな取組みを行ってきました。特に、決済認証におけるセキュリティの実現方法は何度も議論を重ね、安全性を確保した仕組みを確立しました。

メニュー選択型のPOP

金額入力型のPOP


NFCタグの普及によって、どのようなことを実現したいとお考えですか?

ジェーシービー 小笠原様
当社がNFCタグ決済に取り組んでいる背景には、「キャッシュレス化を隅々まで行きわたらせることで、お客様が安全・安心にキャッシュレス決済をご利用いただけるようにしたい」という想いがあります。

とはいえ、すでにキャッシュレス決済はある程度普及しています。そのため、当社のねらいは、現在普及しているキャッシュレス決済を補完するシステム・サービスの展開です。例えば、イベントなど多数の人が一カ所に集中する状況では、お客様が決済のために「並んで待つ」という行為に時間をとられ、UXの低下を招いてしまいます。こうした課題への対応として、レジを増設する方法が考えられますが、端末代金や人件費等のコストの観点から加盟店様での導入は現実的ではありません。一方、NFCタグであれば、無料で必要な数を提供できますので、加盟店様のコストを抑えて行列を緩和することができます。

デジタルガレージ 清水様
当社では、さらなる「キャッシュレス化の推進」を目標としています。無人精算機の領域ではまだまだ現金を利用する割合が高いため、NFCタグ決済の導入がキャッシュレス化の推進に役立つと考えています。また、マーケティングに強みを持つ当社としては、企業のNFCタグ決済の導入に加えて、顧客誘導や集客を行える仕組みづくりもサポートしていく考えです。

大日本印刷 遠藤
当社は、NFCタグの安定的な供給という点で貢献したいと考えています。また、ジェーシービー様やデジタルガレージ様の仕組みに対して、新たな付加価値を付与できるような取組みを進めていきたいですね。例えば、QRコードのスキャンなどで行われているスタンプラリーなどに対しても、NFCタグを用いたタッチ決済を取り入れて、UXの向上を提供していきたいですね。

大日本印刷 伊達
NFCタグは汎用性がとても高く、スマートフォンをかざすだけでさまざまな情報を取得することができます。NFCタグの活用で決済のみならず、混雑時の人流のコントロールなどにも役立てることができるのではないかと考えています。


3社での取組みを進める上で苦労した点はありますか?また、どのように課題を解決されたのでしょうか?

ジェーシービー 小笠原様
最も苦労したのは、渋谷区のデジタル地域通貨「ハチペイ」のサービスインに向けた準備ですね。公募型プロポーザルでの採用が決まったのが2022年の3月末、プロジェクトの立ち上げが4月上旬、サービスインのターゲットが11月1日でした。タイトなスケジュールでしたが、アプリケーション開発、NFCタグの供給および加盟店への設置、配送の業務体制の構築などを急ピッチですすめていただき、おかげさまでサービスインに漕ぎつけることができました。実証実験から密に連携していただいたデジタルガレージ様や、高い供給能力を持つ大日本印刷様のご支援があったからこその結果です。

大日本印刷 遠藤
NFCタグの供給については、半導体不足の影響から市場でも枯渇気味の状況が続いていました。また、種々の事情から必要とされる量が日々変動していたため、試算が難しかったです。


3.NFCタグ決済の取組み事例

「ハチペイ」は、どのような取組みだったのでしょうか?

ジェーシービー 小笠原様
今回3社で取り組んだ事例は、渋谷区におけるデジタル地域通貨「ハチペイ」へのNFCタグ決済導入プロジェクトです。渋谷区は持続的な産業振興を見据えて、区独自のデジタル地域通貨事業「ハチペイ」の実施を決定しました。公募型プロポーザルにおいては株式会社カヤックが選定され、当社はカヤック社との共同プロジェクトという形で参画しています。

ハチペイは、渋谷区内のハチペイ加盟店での支払いができる渋谷区独自の新しいキャッシュレス決済アプリであり、エンドユーザーはハチペイアプリをインストールしたスマートフォンをNFCタグにかざすことで、アプリを探す手間なく、NFCタグ決済ができます。NFCタグ決済でハチペイが利用できるように、Webサービスの開発や認証方法の構築、加盟店への供給と設置などを行いました。


4.今後の取組みについて

今後の取組みについて、特に導入を進めたい分野など方向性があればお聞かせください。

ジェーシービー 小笠原様
3社それぞれの知見を持ち寄ることで、エンドユーザーの行動変容、NFCタグにかざす動機付け、加盟店の課題解決などにアプローチしていきたいですね。最大の課題は「NFCタグにかざすことで何かしらの価値が発生する」という認知の拡大だと考えています。この点については、大日本印刷様が提供する行動様式のデザインや、デジタルガレージ様のマーケティング戦略に期待しています。また、当社としては、加盟店に対してキャッシュレス決済導入のビジネス的なメリットを提示していく考えです。

デジタルガレージ 太田様
当社としても、エンドユーザーの行動変容については課題だと感じています。また、加盟店に対してメリットを明示する必要もあると考えています。このような課題を解決するため、3社だからこそ展開できる戦略を実行していきます。

大日本印刷 遠藤
エンドユーザーへの認知度拡大や行動デザインの提案とともに、行動変容も促進していきたいと考えています。特に、非対面や無人の状況で、どうすれば自分の意志でNFCタグ決済を使ってもらえるかを研究していく予定です。


※2023年4月時点の内容です。


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