ミラノデザインウィーク2025レポート Vol.1

イタリアで4月8日から13日にかけて開催されたミラノデザインウィーク(一部、出展により会期は異なります)。DNPでは社員が実際に現地にて、150件を超えるブランドの視察・取材を行いました。このコラムではVol.1からVol.4まで4回に分け、DNPの視点で分析したトレンドのキーワードとともに、各ブランドの新作をご紹介いたします。

2025年のSalone del Mobileの来場者数は302,548人、 37カ国から2,103件が出展しました。また今年は会場内・外でさまざまな文化プログラムも開催され、未来への新たなビジョンを生み出していました。国別来場者ランキングでは、中国が1位、ドイツが2位、次いでスペイン、ポーランド、日本は13位となっています。
市内イベントFuorisaloneの出展イベント数は1066件と言われ、出展数としては昨年より微減ではありますが、街中の盛り上がりは過去一番ではないかと感じるほど賑わっていました。

2025年ミラノデザインウィークの様子、各ブランドの新作紹介

B&B Italia ブランドサイト
B&B Italiaは、「The Collection Amplified」を発表しました。画像左と中央はAntonio CitterioデザインのCocunです。柔らかく包み込むような形状で、空間とそれを使う人の両方に自然に適応するように設計されています。5つのモデュールで構成されているため、組み合わせによって用途に合わせた配置が可能です。画像中央と右は同じくAntonio CitterioデザインのFlat.C Frameです。2008年に発表された製品ですが、自立型の本棚兼収納ユニットとして使用することが可能になりました。住宅、ホテル、コントラクトなどさまざまな空間におけるソリューションを提供します。

Photos by B&B Italia

Maxalto
創業50周年を迎えたMaxaltoは、オランダ人アーティストのPatrick van Riemsdijkを迎え、彼のアートワークをプリントしたソファ「Lilum」を50台限定で発表しました(画像左)。彼の筆致に宿るダイナミックさと、日本の書道を彷彿とさせる流麗なラインは、力強くも洗練された印象で、Lilumの有機的なフォルムと調和しています。さらに、50周年を記念したもう一つの製品として、Antonio Citterioデザインのテーブル「Pathos」がイタリアンウォールナットとブロンズという新しいマテリアルで発表されました(画像右) 。こちらも50台限定。無垢材のナチュラル感とクラシカルな印象のブロンズの組み合わせが非常にエレガントなリミテッドエディションです。

Photos by Maxalto

Maxalto製品はB&B Italiaのリンク先からご確認ください。

Text by Chihori Kunito

Edra ブランドサイト
2025年のEdraは「素材が語る、かたちを超えた美しさ」をテーマに、素材そのものの個性を引き出し、視覚と触覚に新たな驚きをもたらすことをめざした展示となっていました。華やかな展示の中で、自然の造形美や異なる質感の融合、色彩の深みを通じて、"かたち以上"の美しさを表現しています。

展示では宝石のように輝く新素材のファブリックが目を惹きます。今回披露された9種類の新しいファブリックは、どれもまるで天然石の原石をそのまま織り込んだような存在感で、密度のある色と煌めく糸が生む光の層がEdraのソファやチェアの独特な曲線に寄り添うことで、その造形美を豊かに引き立てています。

Photos by Edra

自然が作り出したアラバスターのノジュールからなるコーヒーテーブル「Cicladi」。全ての天板が一点もの。ヴォルテッラ地方特有のアラバスターは、偶然が生んだ芸術品です。今年は新たにゴールドとカーネリアンの2色が追加され、ベースはゴールド、パラジウム、ルテニウムの3種類から、高さは異なる3種類から選択可能。唯一無二の輪郭と模様が空間を彩ります。

Photos by Edra

Edraは、美術品、芸術作品のような見た目から華やかで敷居の高い印象を感じますが、その背景にはトスカーナの職人の情熱が込められており、作り手のぬくもりを感じられるブランドです。Edraのデザイン哲学は単なる使いやすさだけではなく、そこから得られる体験価値を大切にしています。道具としてのソファに人が合わせるのではなく、ともに時間を共有するソファが人に合わせて形を変えるという独自の発想で作られているのです。

フィエラ会場では全面鏡張りの空間に大きなサイネージを複数用いることで、常に変化する展示空間が出現。Edraの家具がどんなシチュエーションでも存在感を放ちつつ、違和感なくマッチすることが表現されています。Edra 2025の展示は、独自の美学と職人技を体感できる貴重な機会となっていました。

Text by Taisuke Watanabe

Flexform ブランドサイト
ミラノのモスコーヴァ通り33番地にあるフラッグシップストアにて”INTERIOR LANDSCAPES”を発表しました。優れたデザイン家具とは、空間を彩る存在を超え、屋内・屋外を問わず、視覚的にも感情的にも豊かな風景を形づくる一部である、というFlexformの思想を反映しています。ショールーム内は、イタリアで昔から親しみのある素材であるイグサを使用した天井高のパーティションで、空間をゆるやかにしきっていました。またアートやデジタル映像を融合させた空間を演出し、 ”INTERIOR LANDSCAPES”の世界に没入できる展示でした。
フラッグシップストアに入り、”INTERIOR LANDSCAPES” の一番初めのシーンに登場したのはAntonio Citterioデザインの新作ソファLOUNGESCAPE。その製品名の通り地形の起伏が風景の印象をつくるように、このソファが空間の中で主役となり風景を形作るイメージがされています(画像右)。

Photos by Flexform

昨年初めてFlexformとコラボレーションしたFumie Shibataは、Eriシリーズとしてサイドテーブル(画像左)を発表しました。Eriサイドテーブルの天板は無垢材のほか、裏面を塗装したガラスと突板仕上げを組み合わせたバリエーションがあり、ベースはメタル製でマテリアルの質感の違いを楽しめるデザインです。同じくFumie Shibata デザインのダイニングテーブルENN(画像右)は日本語の「えん」から名付けられ、円や縁など様々な意味を有しています。円筒形のベースはレザーでつつまれていて、フロアとの接触部はメタル製で非常にエレガントな設えです。

Photos by Flexform

またフラッグシップストアから歩いて10分ほどの場所にあるChiostro Sant’Angelo(キオストロ・サンタンジェロ)にて、新作アウトドアコレクションの展示も開催されました。この歴史的建造物は1920〜40年代のミラノ建築界を代表する巨匠、 ジョヴァンニ・ムツィオによって設計されました。美しい歴史的建築物と中庭に注ぎ込む光、そして爽やかに吹き流れる風を感じながら、Flexformのアウトドア家具を体験できる、素敵な空間になっていました。画像右はAntonio Citterioデザインの新作アウトドア家具のOASISから独立型のソファです。メッシュ状の編みこみが施されたメタル製のバックレストが特徴のデザインです。同じデザインでラウンジチェアダイニングチェアも展開されています。

Photos by Flexform

Text by Chihori Kunito

Molteni&C ブランドサイト
Molteni&Cはミラノのマンゾーニ通り9番地にPalazzo Molteniをオープンしました。この建物は19世紀に建てられた邸宅で、1920年代の改修を経て、この度最上層階に2フロアが新たに増築されました。これにより、過去と現在が見事に融合した空間になりました。ミラノの邸宅をオマージュし、 各階の踊り場にはコミュニケーションを促すような、家具とアートが設えられているのもポイントです。
クリエイティブ・ディレクター、ヴィンセント・ヴァン・ドゥイセンが監修した2025コレクションは、1970~1980年代の展覧会やプロジェクトを中心に、 Molteni&Cのアーカイブを参照したデザインのエッセンスが随所に取り入れられています。歴史的建築と現代のコスモポリタニズムの関係性を巧みに表現しています。

Photos by Molteni&C

今年、初めてのコラボレーションとなったフランス人デザイナーChristophe DelcourtはソファEMILEとコーヒーテーブルのODILEをはじめ、8点の新作を発表。EMILEは アルゼンチン生まれでイタリアで活躍した美術家Lucio Fontana からインスパイアされたデザインです。 「分割されながらも一体化した」ソファシステムとして定義され、傾斜を描く背もたれが特徴です。 ODILEは、コーヒーオークまたはブラックオーク仕上げのベースに、六角形の天板を組み合わせたモジュール式のコーヒーテーブルです。天板には、光沢ラッカー仕上げと、大理石をスチールの帯で縁取った仕上げの2種類があります。形やマテリアルのコントラストを楽しめるデザインです。 EMILEとODILEはシームレスに統合されるように設計されていて、機能性と視覚的な連続性を兼ね備えています。

Photos by Molteni&C

Text by Chihori Kunito

Natuzzi Italia ブランドサイト
Natuzzi Italiaは原点を再発見し、ブランドの歴史と核心的価値を称えつつ、未来への新たな推進力を示す「Rooted in Harmony」を発表しました。Natuzzi Italiaの創業の地であるプーリア地方を治めていたフレデリック2世を描いたアート作品「Puer Apuliae」からインスピレーションを得た製品を多数発表し、さらに地中海のライフスタイルを色濃く表現したショールームをお披露目しました。
数々の賞を受賞したMiraiに引き続き、Andrea SteidlがデザインしたAmamaは、フェデリカンスタイルの建築を思わせる直線的ですが、やさしさも感じるエレガントなデザインです。ゆったり幅をとったアームレスとバックレストが特徴です。背面にはシェルフが組み込むことが可能で、さまざまな角度から多用途で使用できるデザインです。中央に設えられたセンターテーブルHABITAは、非常に機能的なデザインで、円形のユニットが可動し、収納スペースが出現するうえ、ベースに車輪がついているため動かしやすい製品となっています。いずれもリビングのマルチファンクションに対応するデザインでした。

Photos by Natuzzi Italia

画像左は2人がワルツを踊っている様子をイメージしたテーブルValzerはアントニー・チェッカによるデザインです。CNC加工技術とグロスラッカー仕上げによる美しい曲線が、エレガントで可憐な空間を演出していました。ガラス&木製のドアを備えたサイドボードやショーケースも同時に展開されています(画像左)。ゼブラという新しい木製のマテリアルで構成されているそうです。

Photos by Natuzzi Italia

Natuzzi Italiaでは6つのムードボードがあり、ショールームではそれぞれを体現するような空間が広がっていました。今年はグリーンなど落ち着いた雰囲気のニュートラルなカラーをより多く取り入れ、空間全体にやさしい印象に包まれています。左の画像はグリーンの「Amama」、右の画像はアーストーンの「Memoria」です。
Natuzzi Italia独自の最高級の座り心地を追求する確たる技術力と、居心地の良さという心理的な側面を際立たせる質感とカラーの提案により、ラグジュアリーさを誇示せずとも感じられる真の上質さ・快適さを感じるショールームとなっていました。

Photos by Natuzzi Italia

Text by Chihori Kunito

ARMANI / CASA ブランドサイト
創設25周年を記念して、ジョルジオ アルマーニは”Oriental Inks”コレクションをミラノ コルソ ヴェネツィアのArmani / Casa本店にて発表しました。2023年、2024年のミラノデザインウィークではパラッツォ・オルシーニを展示会場としていましたが、今年はミラノの街中にある店舗での展示となり、より街に開かれ、多くの人がコレクションを目にすることができました。店内は、日本の障子を思わせるライスペーパーパネルで構成され、やわらかく光が灯る空間の中で、伝統的な技術と細部への徹底した家具がお披露目されました。水彩画や墨絵にみられる東洋美学が重視され、竹や龍、強さ・柔軟性・持久力の吉兆の象徴、そしてジャングルの密林などが描かれています。

Photos by ARMANI / CASA

画像左、中央のサテンやベルベットに手刺繍が施された限定作品群では、最大50種もの素材(スパンコール、シルクとメタリックファイバー、ガラスビーズ、ウールサテン、シルクオーガンジーなど)が用いられているそうです。画像中央に見られる、猿の刺繍は立体感と毛色の変化を絶妙に表現しており、近くで見るとその緻密さに驚くほどでした。猿1匹を描くのに70時間以上を費やし、職人の手で刺繍がほどこされているそうです。画像右のテーブル「TROCADERO」の天板は大理石のような艶を持つ黒漆に、真鍮フィラメントで幾何学模様を描いた繊細なデザインです。脚は、よく見ると畳のような質感で構成されています。リキッド・メタル・タタミというマテリアルで、レーザー加工とメタル塗装により畳とメタリックな表情が融合したユニークな質感を生み出しています。展示全体を通し、まるでオートクチュールのドレスがそのまま家具になったような、ARMANI / CASAらしい高い意匠性とクラフトマンシップを感じさせる展示でした。

Text by Chihori Kunito

編集後記

今年のミラノデザインウィークは、例年よりもさらにミラノ市民に開かれたイベントとなり、多くの人々に影響を与えたイベントであったことを強く感じました。ラグジュアリー家具・照明ブランドだけでなく一般生活者に身近であるGoogleやIKEAなどが引き続き出展していたほか、イタリアのコーヒーブランドのLavazzaやタバコブランドのPloomなどさまざまな業界の企業が積極的な出展をしていました。また、ミラノといえばファッションの街。ファッションブランドを中心に、市内にポップアップをオープンしていたのも今年の特徴でした。サンプルやエコバッグなどを無料で配るといったプロモーション施策が積極的に行われたこともあり、その情報はSNSを通じて拡散され、市内中心部は至る所に列ができていました。
また今年のミラノサローネのコミュニケーション・キャンペーンは「Thought for Humans. (人間のための思考)」と題し、さまざまな素材と人間の肌の関係性を示すビジュアルが展開されました。市内の展示でも、人間の身体にフィーチャーするものが多数見られました。テクノロジーがめざましく発展するなか、根源的な人間の在り方や、人とテクノロジー、人と自然・社会との関連性を改めて感じさせるコンセプトが多かったように感じています。
これらの潮流をより深く分析することで、デザインの表面的なトレンドだけでなく、その背景にあるライフスタイルのトレンドもしっかりと検討していきたいと思います。

Text by Chihori Kunito

Editor紹介

ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネート提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター

国内住宅内装分野を中心にDNPオリジナルの内装加飾シートWSシリーズの開発に携わる。
ミラノサローネ他、海外の展示会にも足を運びながら、国内インテリアの向かう先を見据え、
日々開発と発信を行っている。

  • 2025年5月時点の情報です。

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