ミラノデザインウィーク2025レポート Vol.2

イタリアで4月初旬に開催された今年のミラノデザインウィーク。DNPでは社員が実際に現地にて、150件を超えるブランドの視察・取材を行いました。各ブランドの新作や、ミラノデザインウィークでの展示の様子について、Vol.1~Vol.4まで4回に分けてご紹介します。

2025年ミラノデザインウィークの様子、各ブランドの新作紹介

Cassina ブランドサイト
Cassinaは、カッシーナの哲学、ビジョン、そして現代の住空間に対する独自のアプローチである“ The Cassina Perspective”をさらに拡張し、 The Cassina Perspective 2025を発表しました。画像左はミラノのショールームの入り口に一番近い場所に設えられた空間です。ソファFIANDRAは1975年にヴィコ・マジストレッティがデザインしたもので、循環型経済を意識した設計で復刻されました。無駄な材料の使用を最小限に抑える前衛的なアプローチが取られています。サイドテーブルはオランダ人デザイナーのリンデ・フレイヤ・タンゲルダーによるデザインFluid Joinery - Side Table I(画像右)です。オーガニックで不規則なフォルムから生まれる光の反射と色の重なりが特徴で、カラーは、スモーク、アンバー、ブルーの3色が展開されています。画像左の奥に設えられているのはフォルマファンタズマによるデザインのブックシェルフFF. Spine。モジュール式の構成により、1 本の原木から得られる素材を最大限に活かす構造になっています。ミニマルなデザインで、素材の価値を強調した仕上げを提案しています。

Photos by Cassina

Cassinaはル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンが存命中だった1965年に、彼らがデザインした4つの家具モデルの生産を開始しました。これらの60周年を記念し、4つの家具を新しいカラーバリエーションで発表。同時に、ジョルジョ・ガベール・リリコ劇場にてフォルマファンタズマによるインスタレーションStaging Modernityをお披露目しました。モダニズムを流動的で開かれたものとして再構築し、「人間」と「非人間」、「モダン」と「野生」という二元論的な境界を曖昧にし、新しい視点からモダニズムをとらえ直しています。
演目がスタートすると、演者が一人また一人とステージや客席内に現れ、来場者と演者が一体となってストーリーが静かに展開されていきます。自然界に迷い込んだような没入感を感じながら、演者のコンテンポラリーなダンスと家具のデザインが融合し、モダニズムやデザインの本質を考えさせられるインスタレーションでした。

Photos by Cassina

Text by Chihori Kunito

Flou ブランドサイト
ガラスで構成された空間に寝室、リビング、そしてアウトドアスペースとさまざまな空間に対する提案を行っいたFlou。ディテール、プロポーションの探求、素材、仕上げ、ファブリックの融合を基盤に、機能性と意匠性を融合したデザインの家具を提案しています。
新作CHIARO DI LUNA(画像左)は金属素材の繊細さと煌めきを活かしたデザインで、カラー・仕上げのバリエーションも豊富です。ライティングデスクのベースは、アルマイトブロンズ、マットバーニッシュ、マットホワイト、マットブラック、マットグレージュ、グロッシーゴールドから選択可能です。そのほか、スモールテーブルやベンチ、サイドテーブルの展開もあります(画像中央、右)。

Photos by Flou

寝室に設えられていたのはMatteo Nunziatiデザインの新作ベッドELIA(画像左)。側面が2本の木製支柱で縁取られ、テキスタイル部分に組み込まれたデザインです。支柱はコーヒーステインアッシュかエボニーから選択可能です。ベッドサイドに置かれているサイドテーブルTHOSHIは日本語の都市から由来し、垂直方向に素材のコントラストを楽しめるCarlo Colomboによるデザインです(画像右)。チェストやハイチェストも展開されています。大理石やレザーをベースとし、光沢のあるメタルのリングも特徴です。また寝室の左側の壁に設えられたミラーBAMBOOも新作です。リモートコントロール可能なLEDが背面に内蔵され、壁面を柔らかに照らしています。

Photos by Flou

Text by Chihori Kunito

Living Divani ブランドサイト
アートディレクターのPiero Lissoniがキュレーションを手掛けた展示スペースは、3つの大きなゾーンに分かれ、インダストリアルで現代的な美意識を表現しています。画像左は新作ソファEchoo System とGalaです。好評のEchooがモデューラーシステム化し、多様な用途に合わせてコーディネートできるようになりました。 GalaはDavid Lopez Quincocesデザインで、しなやかで柔らかな曲線が際立つデザインです。画像右はGiacomo Moorデザインの新作アームチェアFillet。アウトドアバージョンではアルミニウム板、屋内バージョンでは湾曲した合板を使用し、軽さと堅牢性の完璧なバランスを実現しています。

Photos by Living Divani

市内ショールームでは、Frogチェアの誕生30周年を記念したインスタレーションが開催されました。草原のようなアトリウムには、爬虫類の皮膚を想起させるパターンをまとい、まるでカエルのような佇まいの新作Super Frogが展示されました。シートは、奥行きと視覚的なリズムを強調し水平方向に切り込みがあるもの、ダイナミックな視覚的効果のある複数の穴を設けた2つのバージョンがあります。またイマージブルームではFrogの流動的な形状とダイナミックなラインにフォーカスした映像アート作品がお披露目されました。

Photos by Living Divani

Text by Chihori Kunito

Minotti ブランドサイト
今年もミラノサローネ出展ブランドの中で、最大の面積を有し2階建てパビリオンで出展していたMinotti。2025コレクションは、5人の異なるデザイナーがデザインした5つのリビングコンセプトと5つの主要製品群を発表しました。
5つのシーンから、1つご紹介します。画像左はGiampiero Tagliaferriがデザインした新作で構成された空間です。カリフォルニアのミッドセンチュリーを基調に、1960年~1970年代を彷彿とさせる丸みを帯びたボリュームが重なり合う独特のシルエットの新作ソファCOUPEが設えられています。サイドテーブルLIBRAは、C型を反転したような天板の形状を有し、短辺に沿ってクロームメタルのバンドがアクセントになっています。天板の仕上げはさまざまありますが、画像ではGiallo Siena marbleを使用しています。ソファ、サイドテーブルともにGiampiero Tagliaferriのデザインです。

Photos by Minotti

続いてご紹介するのはnendoデザインの新作SAKI。その名の通り、花の開花を表現したデザインです。2 人、3 人、4 人掛けソファやアームチェア、ベンチ、アイランドなどバリエーションも豊富です。また背もたれはラッカー塗装やファブリックなどカスタマイズ可能です。ライフスタイルに合わせて、デザインやカラー、仕上げを選択できるコレクションになっています。またテーブルSAKI TABLEも展開されていて、エレガントな曲線を描いた脚部のデザインが特徴です(画像右)。Sakiシリーズはアウトドアバージョンもあり、室内から屋外にかけてシームレスな空間コーディネートを実現することもできます。

Photos by Minotti

Text by Chihori Kunito

Paola Lenti ブランドサイト
今年のテーマはRitrovarsiで、イタリア語で再発見、自分自身に向き合うことを意味します。目に見える糸と目に見えない糸が、素材、職人技、アイデア、価値観、文化、感情、人々をつなぎ、それにより自分自身を見つけ、「Ritrovarsi」が実現する空間をめざしています。
下の画像はアウトドアコレクションの新作です。画像左はFrancisco Gomez PazデザインのソファAlma。スチールフレームをロープで固定するモデュール式でサステナブルなデザインです。屋外用ファブリックのキルティングパッドや大型クッションをシートに組み合わせて、シートを完成させることも可能です。ミラノのフラッグシップストアでは、あたたかい日差しの下で、Paola Lentiの家具が植物や生花と見事に調和し、唯一無二の心地良い空間を作り上げていました。

Photo by Paola Lenti

ミラノのフラッグシップストアの室内では「Àlfa, the timeless home」が発表されました。その中から2つの製品をご紹介します。
画像左はRobi RenziデザインのサイドテーブルPalinsestoです。古代ローマを想起させるマテリアルの風合いですが、解体された建築物の断片など再生素材を使用したセラミックで構成されています。職人の手で作られたさまざまなサイズのブリックを組み合わせたデザインです。画像右はnendoデザインのSenkai。日本の屏風を現代風に解釈したデザインで、上部の縁は日本の衣紋掛けや衣桁の形状を想起させます。フレームは4つのトネリコ材の枠で構成され、内側にはねじれた布の帯がさまざまな方法で張られ、見る角度によって表情の変化を楽しめる製品です。

Photo by Paola Lenti

Text by Chihori Kunito

Poliform ブランドサイト
2025年のPoliformは広大な展示スペースを活かし、リビングインテリアから屋外空間までさまざまなシーンの提案が行われており、フィエラ会場で最も賑わっていたブランドのひとつとなっていました。ソファ、アームチェア、ベンチ、テーブルと、アイコニックなアイテムが美しく組み合わさることで、空間を華やかに彩りつつも、まとまりをもたらしています。また、近年トレンドのアウトドアコレクションは現代のライフスタイルを再解釈することで人と自然と風景をつなぐ、時代を超えたスタイルを体現していました。
新作のOWEN COLLECTIONはJean Marie-Massaudによるデザインです。OWENにはソファタイプとアームチェアタイプがあり、何れも流線形のアームレストと力強い木製の脚部が目を惹きます。まるで彫刻の様な特徴的なアームレストはメビウスの輪のようにひねりを加えながら背中を包み込み、もう一方のアームレストへとシームレスに繋がります。一方でトラディショナルでありながらモダンな脚部はまるで建築の様です。柔らかな曲線と堅牢な構造体が美しくに融合したOWENは、Poliformのアイコンとなるコレクションとなっていました。

Photos by Poliform

新作のLAGOON SOFAはEmmanuel Gallinaによるデザインです。水辺を想起させるラグーンの名の通り、海や帆船からインスピレーションを得ており、その優雅さを表現しています。ベースに使用されているチーク材は船舶の材料として古くから使われてきた木材で、伝統の職人技による見事な仕上がりとなっています。また船舶の索具から着想を得たロープ編みの背もたれは、ソファのフォルムとしての美しさとアウトドア家具としての機能性を両立していました。

Photo by Poliform

Text by Taisuke Watanabe

Poltrona Frau ブランドサイト
今年のテーマはThe Fifth Season。春・夏・秋・冬という四季に、個人の感情や記憶といった“内なる季節”を重ね合わせ、感覚や自然の要素、そして普遍的な美意識が融合したコレクションが発表されました。日本文化における「ご縁」という概念にインスパイアされ、人と人、自然、そしてデザインとの“意味あるつながり”をテーマにしています。
画像左は、今年新たに楕円形の天板とホワイトカラーラを採用したダイニングテーブルMesa Ellipse。合わせてコーディネートされているのは、大城健作デザインのチェアLeplì。2018年発表したスツールが進化し、回転式のダイニングチェアバージョンとアームチェアが登場しました。しなやかなカーブは女性らしいシルエットやワンピースにおけるウェストを引き立てる細いベルトを彷彿させます。

Photos by Poltrona Frau

画像左にはLudovica SerafiniとRoberto Palombaによるデザインの新作ソファBlisscape、Jean-Marie Massaudデザインの新作アームチェアDowntown Loungeがコーディネートされています。全体的に明るいベージュやホワイトを基調にした明るくエレガントな雰囲気に、上質な素材感を感じる空間でした。
またPoltrona Frauは今年初めてモジュール式ワードローブシステムであるDress Cove Night Systemを発表しました。引き出し、ボックス、仕切りなど、洗練されたアクセサリーも豊富。アルミニウム、木材、Pelle Frau®レザーを美しく融合させ、細部までPoltrona Frauのクラフトマンシップを感じられる製品です。

Photos by Poltrona Frau

by Chihori Kunito

編集後記

イタリアの有名家具ブランドはパンデミックを境に、自社の市内ショールームでのみイベントを開催する動きが加速し、今年はその傾向がさらに強まっていました。一方で、Salone del Mobileへの出展ブランド数としては増加し、また独自の文化イベントを開催するなど、既存の枠にとらわれない国際家具見本市へと進化しているように感じます。市内のFuorisaloneについては例年以上に開かれた雰囲気で、地元の人と世界中から集まる人で活気に溢れていました。特に今年は各ブランドの個性が光った展示が多く、人気の展示は1時間、2時間待ちも珍しくありません。日差しの強いミラノで長時間並ぶことは決して楽ではありませんが、それでも人々が並んで展示を見るのには理由があります。それは、そのブランドに愛着があり、展示を通じてブランドの「息遣い」を感じながら、好きなデザインに囲まれた空間で心を満たすことに、多くの人が価値を見出しているからです。今の時代、新作情報を手に入れるのは簡単ですが、実際に自分の体で体験することには特別な意味があります。デザインに直接触れることで、ただの新作情報ではなく、感情やストーリーを持った存在として受け取ることができるのです。
さらに、今年の展示ではクラシカルなデザインの家具が多く見られ、どことなく温かみを感じるアイテムが際立っていました。多くのブランドは「愛着のある家具を永く使い続けることこそが、最もサステナブルである」と謳っています。この考え方は、環境への配慮だけでなく、使い手と家具との関係性を深めることにもつながります。クラシカルなデザインは時を超えて愛される魅力を持ち、使い続けることでより深い愛着が育まれるのです。
ミラノはデザインの街として、デザインを通じて得られる感動や、価値観を発信し続けており、多くの人々が心を動かされています。デザインの力を感じることができるこの場所で、愛着のある家具が人々の生活にどのように溶け込んでいくのか、これからも注目していきたいと感じるミラノ取材となりました。

Text by Taisuke Watanabe

Editor紹介

ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネート提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター

国内住宅内装分野を中心にDNPオリジナルの内装加飾シートWSシリーズの開発に携わる。
ミラノサローネ他、海外の展示会にも足を運びながら、国内インテリアの向かう先を見据え、
日々開発と発信を行っている。

  • 2025年5月時点の情報です。

未来のあたりまえをつくる。®