ミラノデザインウィーク2025レポート Vol.3
イタリアで4月中旬に開催された今年のミラノデザインウィーク。DNPでは社員が実際に現地にて、150件を超えるブランドの視察・取材を行いました。各ブランドの新作や、ミラノデザインウィークでの展示の様子について、Vol.1~Vol.4まで4回に分けてご紹介します。
2025年ミラノデザインウィークの様子、各ブランドの新作紹介
cc-tapis
ブランドサイト
インドとネパールにあるアトリエでの伝統的な製法と先進的な機器を用いたラグ製造の双方を行うcc-tapisは、本社社屋と市内ショールームの2カ所で異なるコレクションを展示しました。
工場をリノベーションした本社社屋ではRoberto Sironiによるコレクション、Hypercodeがそのインダストリアルな空間を生かしたインスタレーションの形で展示されました。本コレクションは、Sironiの神話のシンボルから現代のグラフィティに渡る広範なリサーチと記録をもとにしており、来場者は薄暗い空間に配置された作品に近づくと、ラグに刻み込まれたメッセージやシンボルを通してSironiが構築した視覚言語を体験することができます。
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一方市内のショールームで行われた「Ways of Seeing」は、11人のクリエーターとのコラボレーションによるコレクションが展示されました。ショールームには吊るされたラグ、そしてそのそばに真っ白なモニターが置かれています。来場者はそのモニターを手元のビュアーを通して見ることで、デザインや制作のプロセスを知ることができます。ラグの持つ存在感や、豊かな色彩やさまざまなテクスチャーを堂々と主役にしながらも、来場者の望む距離感で作品との対話を深めることができる展示でした。
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色彩的には正反対に見える二つのコレクションですが、クラフトマンシップとテクノロジー、伝統と革新といった相対する対象のそれぞれの役割の重要性の高まりと、歴史的にラグが持つストーリーテリングのメディアという役割への認識が共通する展示となっていました。
Text by Yuki Arai
FENDI Casa
ブランドサイト
FENDI Casaの今年のコレクションは、創業100周年を記念し、時を経て象徴的な地位を築いた新しいアイデアと作品を洗練された形で融合させ、最新の素材、カラー、仕上げによって新たな解釈を加えたまったく新しいムードを創り出しています。ブティック内は英国デザイナーのLewis Kemmenoeがコンセプトとウィンドウディスプレイのキュレーションをし、素材の裁断に使用される仕立ての技法やレザークラフトの技巧を想起させるパーティションが設えられていました。
画像のソファとラウンジチェアはCeriani Szostakによるデザイン新作のLater。モジュラー式のシーティングシステムはFENDIローマ本社ビルの建築からインスピレーションを得ています。金属で作られた硬質で四角いフレームが空間にインパクトを与え、張地に使用されているシープスキンの柔らかい質感とのコントラストがユニークでした。フレームはレザー、ファブリックも選択可能です。
Photos by FENDI Casa |
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画像左はベッドPeeksleep。FENDIのアイコニックなバッグPeekabooからインスパイアされたPeekasitシーティングシステムにベッドが加わりました。Controventoによるデザインです。専用のブランケットと組み合わせることが可能です。画像右はStefano Gallizioliによるデザインの新作チェアFF Twist。木製フレームで、アームレストはしなやかに波打つリボンのような曲線を描き、エレガントな渦巻き効果を生み出しています。
Photos by FENDI Casa |
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Text by Chihori Kunito
Kartell
ブランドサイト
Kartellの今年のテーマは「Future Perspectives(将来の展望)」。スタンドブースはエネルギー、愛、優雅さを表現するKartell Redを基調に、Kartell製品が喚起する感情を表現していたそうです。画像左はPhlippe Starckデザインの新作アームチェアBonheur Du Jour。フランス語でその日の幸福という意味をもち、究極の休息を促すウェルビーイングを体現したデザインです。画像右はPatricia Urquiolaデザインの新作LEPIDコレクション。パイピングのようにエッジにアクセントを感じさせるブロックを縦と横に組み合わせたデザインは、ダイナミックなリズムを空間に生み出します。ブックケース、シェルフ、サイドボード、コンソールテーブルが展開されています。
Photos by Kartell |
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さらにKartellはFIATとコラボレーションでコンパクトSUV「Grande Panda Kartell」を発表しました。スタンドにはKartell Redをまとった自動車が展示され、注目を集めていました。内装は再生可能な資源から作られたポリカーボネート2.0が使用されているほか、シートカバーにもKartell製品の製造時に発生する破材を再活用しているそうです。ポリカーボネイト2.0はセルロースと紙を原料に混合させた環境にやさしい素材です。
Photos by Kartell |
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Text by Chihori Kunito
Moooi
ブランドサイト
MoooiはA Life Extraordinary 2025を発表し、今年はSalone del Mobileと新しくオープンした市内ストアの2カ所で展示を行いました。画像左はNicholas Baker デザインの新作Haybale Lounge Chair with Footstool です。 Nicholasが幼少期に体験した田園地帯のノスタルジックな雰囲気からインスピレーションを得て、牧草地の干し草が束になり積み重なった様子をイメージしています。張地は、ブークレ、スペクトラムレザー、シグネチャーワビサビファブリックから選択可能です。画像右はCristina Celestino デザインの新作Luminora Light。ムラーノガラスからインスピレーションを受け、黄金比の精緻さを融合させた、浮遊する光の彫刻のようなデザインです。展示会場ではBeta Living Pebbleというプロトタイプの照明システムを導入し、明るさを変えられるほか、軸が回転することで、自然物のように変化する息づく照明を楽しめる提案が行われていました。
Photos by moooi |
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またmoooiは世界で6番目のストアをVia Filippo Turatiに新しくオープンしました。スペイン人アーティストAndrés Reisingerによるインスタレーションが開催され、ピンクのカーテンで覆われたエントランスは、ミラノの古い街並みのなかで多くの人の目をひいていました。ストア内ではオランダ人デザイナーAntoine Petersの作品が展示されました。彼自身や息子の手足を表現する作風により、衣服、体、そしてその周囲の空間の関係を探求させるものです。
Photos by moooi |
Text by Chihori Kunito
Moroso
ブランドサイト
MOROSOの今年のテーマはNormal。普通という静的な概念に同調せず、「普通」を多面的で流動的な原動力としてとらえています。画像はPatricia Urquiolaデザインの新作ソファCuadra-softとZanellato/Bortottoデザインの新作CLAY。 Cuadra-soft はシンプルなデザインのなかで、快適性を追究し、温かみのあるデザインラインが引き立つフォルムです。CLAYは2024年発表のMangiafuocoコレクションから始まった、「希少な製造技術の復活を通して古代の素材との繋がりを再現したい」という思いで作られた製品の一つです。イタリアのヴェネト州にある歴史的な陶芸の町ノーヴェで培われている、釉薬やラスター彩によって装飾する陶板技術を使用しています。 CLAYの背面には、粘土という原始的な素材を昇華させた美しいグラデーションカラーのセラミック板が設えられています。
Photos by Moroso |
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画像左はPatricia Urquiolaデザインの新作ソファGruuvelot。1970年代の自由奔放なエッセンスを体現し、まるで生き物のような多様な形状のパーツが組み合わさったデザインです。画像右もPatricia UrquiolaデザインのSedonaコレクションから、ベッド、サイドテーブル、キャビネット。風と水によって浸食され、形作られたアリゾナの渓谷からインスパイアされています。
Photos by Moroso |
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Text by Chihori Kunito
カリモク家具
ブランドサイト
本会場Rho Fiera Milanで 8度目の出展となるカリモク家具。「空間から考える家具」をテーマとするライフスタイルブランド、Karimoku Caseの家具を用いた大規模展示となっていました。今回のテーマは「A Sense of Serenity」。ブランドコンセプトの原点に立ち返るべく、ミラノ初披露となる新作アイテムと既存のコレクションを織り交ぜながら展示することで、時間に左右されないデザインを体現しています。また、光と影のバランスを追求した演出により、触れずとも感じられる素材の豊かな質感を表現していました。会場はミッドセンチュリーへのオマージュを込めたインテリアデザインとともに、暖炉を模した造作なども設置されており、まるで突然現れた隠れ家のよう。Karimoku Caseのブランドコンセプトである“静謐な美への敬愛”、“素材の豊かな表現”、“時代に左右されない魅力”を存分に感じられる展示となっていました。
Photographer: Jonas Bjerre Poulsen |
ここからは2点の新作をご紹介します。画像左のN-ST03は非対称なフレームを特徴としており、自然と隙間ができるようにデザインされています。これにより軽やかで繊細なフレームのテーブルに、有機的でダイナミックな要素が加わります。テーブルトップにさり気なく取っ手がおさまっており気軽に動かせるので、幅広いインテリアでアクセントになってくれます。画像右のA-ST01はソファテーブルとしてコーヒーや本を置いてゆったりとした時間を過ごせるようデザインされています。他にもベッド脇や玄関のサイドテーブルなどさまざまなシチュエーションで使えるシンプルで美しい仕上がりとなっています。シンプルな構造と厳選された素材、そしてカリモク家具ならではのクラフトマンシップにより、まるで彫刻のような存在感を放つ、そんな魅力的な新作となっていました。
Photos by Karimoku Case
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Text by Taisuke Watanabe
Time & Style
ブランドサイト
ミラノのブレラ地区に日本の家具ブランドとして初めて常設のショールームをオープンしてから4年目を迎える今年、3つあるスペースのひとつ、Time & Style Largo Trevesが日本の手すき和紙の壁面とイタリアのアンティークストーンの床を擁する空間へとリニューアル。新たな空間となったTime & Style Largo Treves、そしてTime & Style San Marco、Time & Style Balzanのそれぞれのショールームで、日本の美意識を通じて生まれたプロダクトに世界中が注目していました。
Photos by Time&Style |
下の画像はYoshino table。日本の釘を使わない宮大工の技術とデンマークのエッセンスを融合させた新作のテーブルです。奈良県吉野産の杉材は150年以上かけて育まれた美しい柾目が特徴で、密植、枝打ち、間伐など手入れされた植林は細やかな美しい木目を生み出します。テーブルは森へのオマージュであり、杉材の美しさを讃えているのです。脚や幕板の接合部は、日本の伝統的な木工技術からインスパイアされた仕口構造が用いられており、デザインの重要な要素となっていました。
新作からもう一点、椅子のご紹介です。KouryuはNoma Kyoto 2024のためにデザインされました。日本語の「交流」に由来し、異文化の美しい出会いを象徴しています。日本とデンマークの美意識や職人技を表現し、見た目だけでなく五感で楽しめる椅子となっていました。座ると柔らかな木目と優美なカーブが身体を包み込み、畳の座面からは、い草の香りが楽しめます。欅の独特な木目と色合い、そして京都の畳職人による高い技術で生まれた立体的な座面が、使うときの快適さと見た目の美しさを両立させていました。
Photos by Time&Style |
編集後記
筆者は2025年が初めてのミラノデザインウィーク取材となりましたが、他のデザインウィークや展示会との違いが非常に印象に残りました。
展示内容では、ブランドの製品にフォーカスを当てるのではなく、よりコンセプチュアルな部分をビジュアルや体験に落とし込んでいるものが多く見られる点が特徴的でした。近年出展数が増えている自動車メーカーを例に挙げると、各国で行われるモータショーでも各社の方向性を見て取ることはできますが、各ブランドのコンセプトのより深い部分や思索していることを感じることができるのはミラノデザインウィークならではの魅力です。
また、これまで取材したことがあるロンドンやパリの各種デザインウィークと比較しても、街全体の盛り上がりが段違いであると感じました。ミラノの街が他のデザインウィークが行われている都市と比べコンパクトであるということを差し引いても、その楽しさあふれる雰囲気には、デザインに関心がなくとも無関係ではいられないのではないかと感じました。飲食店などの展示会場ではない場所も活気にあふれており、デザインとアートがこんなにも人々と街に活気を与えることができるということ改めて認識したミラノデザインウィークの視察となりました。
Text by Yuki Arai
Editor紹介
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- Chihori Kunito(大日本印刷 生活空間事業部)
ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネート提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター
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- Taisuke Watanabe(大日本印刷 生活空間事業部)
国内住宅内装分野を中心にDNPオリジナルの内装加飾シートWSシリーズの開発に携わる。
ミラノサローネ他、海外の展示会にも足を運びながら、国内インテリアの向かう先を見据え、
日々開発と発信を行っている。
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- Yuki Arai(大日本印刷 モビリティ事業部)
自動車内装加飾を中心に種々のサーフェスデザインを手掛ける。所属組織が発信する未来のきざし=FUTURE-SPECT®(デザインコンセプト)の編纂を編集長として牽引。
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- 2025年7月時点の情報です。