London Design & Architecture 2026 レポート
Vol.1 London Design Festival

世界のインテリアデザインにおいて、春の大きなハイライトが4月のMilan Design Weekだとすれば、秋のヨーロッパでは9月~10月に複数の都市でデザインイベントが連続して開催されるのが特徴です。パリではParis Design Week 、Maison&Objet、ロンドンではLondon Design FestivalとOpen House Festival、さらにヘルシンキ、チューリッヒ、ウィーンなどでもDesign Weekが開催されました。一つの都市に世界中のデザイン関係者が集まるミラノとは異なり、都市から都市へとデザインイベントが連鎖していくのが9月のヨーロッパです。日本でもこの時期、DESIGNART TOKYO、OSAKA DESIGN WEEKが開催されるなど、秋は各都市でデザインイベントが盛り上がるシーズンとなっています。それぞれのイベントでは、その土地ならではの文化や歴史を背景に、自国のデザイナーやブランド、建築などにも焦点が当てられ、都市ごとに異なるデザインの個性を感じることができます。

今回、筆者はロンドンで開催されたLondon Design FestivalとOpen House Festivalを取材しました。その様子を、2回にわたるコラムでお届けします。Vol.1では、London Design Festivalをご紹介します。

London Design Festivalは、ロンドンを世界的なデザイン都市として発信することを目的に、2003年にスタートしたデザインフェスティバルです。24回目を迎えた2026年は、9月12日から20日までの9日間にわたって開催され、市内各所で350を超えるイベントが展開されました。

Framing LDF 2026, Courtesy Pentagram & London Design Festival

ここからは出展していたいくつかのブランドの展示やインスタレーションをご紹介します。

Graham & Brown

1946年創業の英国の壁紙・インテリアブランド、Graham & Brownは創業80周年を迎えました。会場となったのは、2025年のLondon Design Festivalに合わせてオープンした、Graham & Brown初のロンドン旗艦ショールームです。今年は、ブランドの歴史とクラフツマンシップを振り返る「80th Anniversary Gallery Exhibition」を開催。あわせて発表されたのが、毎年翌年を象徴するデザインとカラーを提案する「Design & Colour of the Year 2027」です。
Design of the Yearに選ばれた壁紙「Roselle Grove」は、インドの伝統的な更紗を英国らしい感性で現代的に再解釈したボタニカルデザインです。Colour of the Yearには、イタリアの粘土層から採取されてきた天然の鉱物顔料に着想を得た、温かみのあるアーシーなピンク「Rose Earth」が選ばれました。ショールームでは、壁紙とペイントカラーを組み合わせた空間として、その世界観を体験できる展示となっています。
多様なカラーやパターンを重ね合わせる、“足し算の美学”によるインテリア。異なる色や柄を大胆に取り入れながらも、重要なのはそのバランスです。異なる要素を組み合わせながら、色のトーンや柄のスケール、強弱を巧みに調整することで調和を生み出し、個性を感じさせながらも不思議としっくりとなじむ、まとまりのあるコーディネートに仕上げていました。

Photos by DNP

Baxter

Baxterは、セルビア出身のDraga Obradovicとドイツ出身のAurel K. Basedowによるクリエイティブデュオ、Draga & Aurelがデザインした限定カプセルコレクション「TILE」を発表しました。建築に使われる「タイル」という身近な幾何学的要素を起点に、ひとつのモジュールを反復・組み合わせることで、平面から立体的なボリュームを生み出す「建築的なシステム」へと発展。タイルが持つ硬質なイメージを、Baxterを象徴するレザーや多彩な仕上げ、テクスチャーによって柔らかな表情へと置き換えています。光によって変化する素材の表情と、幾何学的で厳格なフォルムとのコントラストも印象的です。コレクションは壁面パネル、キャビネット、サイドボードなどで構成され、家具と建築、アートとデザインの境界を横断するような立体的な表現を展開。異なる素材やカラーのモジュールを組み合わせながら、同じ空間に置かれたソファやテーブルの素材とも呼応させることで、個性的でありながら一体感のあるインテリアをつくり上げていました。

Photos by James Harris

会場となったBaxter Gallery Londonは、2025年のLondon Design Festivalに合わせてオープンした、South Kensingtonに位置するBaxterのロンドン旗艦店です。築100年以上のネオ・バロック様式の歴史的建造物「Empire House」に、約370㎡のショールームを展開しています。地上フロアは、アートギャラリーのような展示空間。地下フロアの「The Apartment」は、その名の通り実際の住居を思わせる空間で、リビング、オープンキッチンを備えたダイニング、エレガントなベッドルームで構成されています。家具を単に陳列するのではなく、実際の暮らしの中での見え方やコーディネートを体感できるショールームとなっています。

Photos by Baxter

Molteni&C

Molteni&Cはリニューアルしたロンドンのフラッグシップストアで、Vincent Van Duysenがデザインしたモジュラーソファシステム「Julian」と、Cristián Mohadedによるアームチェア「Corsetto 」を英国で初披露しました。ストアに入ると、JulianとCorsetto に加え、コーヒーテーブル「Eter」を組み合わせたスタイリングが目に入ります。Julianは1970年代から着想を得たソファで、存在感のあるフォルムと奥行きの深いシートが印象的です。Corsettoはふっくらとしたフォルムをレザーのベルトで締めることで、コルセットのようなシルエットを形成したアームチェア。「締め付け」と「解放」、「端正なフレーム」と「柔らかなボリューム」の対比が特徴的です。

JulianとEterの組み合わせは、ミラノデザインウィーク2026の「Palazzo Molteni」でも展示されていました。ミラノでは、ブラウンを基調としたJulianに艶やかな木目のEterを合わせ、重厚で落ち着きのある印象に。一方、ロンドンでは、明るいニュートラルカラーのJulianにグレーのEterを組み合わせ、同じ家具でありながら、色や素材の選び方によって異なる世界観をつくり出していました。

またロンドンでは、建物のアーチ状の開口部と、JulianやEterが描く柔らかな曲線が響き合い、空間全体にエレガントな一体感を生み出しています。さらに、Eterの表面に施されたグレーの鏡面仕上げがシャープな光沢を添える一方、ソファやラグにはマットで柔らかな質感を採用。光沢とマット、硬質と柔らかさという素材のコントラストが、ニュートラルな色調の空間に奥行きとメリハリを与えています。

Photos by Luke Hayes

ロンドンのフラッグシップストアは、V&A Museumの向かい、Brompton Roadに位置する約700㎡、2フロアの空間です。Vincent Van Duysenが設計を手掛け、19世紀末の建物が持つ大きなアーチ状の開口部や空間構成を生かしながら改修されています。インテリアはウォールナットとトラバーチンを中心に、グレーからアースカラーの壁や木製天井を組み合わせ、歴史あるロンドンの建築に北イタリアを思わせる素材と色彩を融合。2フロアをつなぐ大階段にも、ウォールナットとトラバーチンが用いられています。店内は、リビング、ダイニング、キッチン、ベッドルームが連続する邸宅のような構成。間仕切りやアーチを抜けながら、さまざまな暮らしのシーンを体験できるショールームとなっています。

Photos by Luke Hayes

Tom Dixon

キングスクロスのCoal Drops YardにあるTom Dixon Global Flagshipでは、「Have You Seen The Light?」と題した展示が開催され、ミラノデザインウィーク、3daysofdesignでの発表に続くAW26 Collectionが披露されました。展示を特徴づけていたのが、“An Exploration of Materiality”というテーマです。異なる素材の照明や家具を組み合わせ、相反する質感を対比させながら、そこに光を加えることで、それぞれの素材が持つ表情を際立たせています。光そのものだけでなく、光を受けた素材がどのように見え、空間の中でどのような存在感を生み出すのか。Tom Dixonらしい素材への探究が感じられる展示です。

画像中央は、「BELL Portable Light V2」のHigh-Gloss Burgundy。2026年AW Collectionで登場した新仕様・新色です。AW26では、バーガンディとニッケルがコレクション全体を横断するキーカラー・フィニッシュとして用いられ、BELLだけでなく家具にも同系色が展開されていました。艶やかなバーガンディの表面は周囲の光を映し込み、照明でありながらオブジェのような存在感を放っています。

画像右は、同じくAW26で登場した「JACK Object」。天然石を削り出した、小型のオブジェ兼ペーパーウェイトです。一点ずつ手彫りで仕上げられており、石そのものが持つ色や模様、質感の違いも魅力のひとつです。

Photos by DNP

英国の高級ベッドメーカー、Vispring(ヴィスプリング)とのコラボレーションもロンドンで披露されました。Vispringの創業125周年を記念して誕生したもので、Tom Dixon率いるデザインスタジオ、Design Research Studio(DRS)がデザインを手掛けています。2026年4月のMilan Design Weekで世界初披露されたのち、3daysofdesignのコペンハーゲンを経て、今回のLondon Design Festivalでロンドン初披露となりました。
Vispringは、ポケットスプリングのパイオニアとして知られ、天然素材と職人技をモノづくりの核としてきた英国のベッドメーカーです。今回のコラボレーションでは、そうしたVispringの伝統的なクラフツマンシップと睡眠への知見に、Tom Dixonならではのユニークなデザインアプローチを融合。上質な睡眠を支える機能性と、空間の主役となる存在感を兼ね備えたベッドへと仕上げています。
英国を代表する二つのブランドの個性が重なり、ベッドを単なる寝具ではなく、インテリアを構成する一つのデザインとしてとらえ直したコラボレーションです。

Photos by DNP

Sense of Place

Mayfair Design DistrictのAtelier Seventy-Sixで開催された「Sense of Place」。キュレーションを手掛けたのは、英国出身のセラミックアーティストのEmma Louise Payne。会場は、実際に暮らしの営まれている住居を活用したアトリエ兼展示スペースです。テーマは、デザインを「見るもの」だけではなく、五感すべてで体験するものとしてとらえ直すこと。光や音、テキスタイル、香り、食などを通して、見るだけでなく、触れる、聞く、嗅ぐ、味わうという感覚を呼び起こし、私たちは空間やモノをどのように感じ、体験しているのかを問いかけます。

Photos by DNP

Photo by DNP

テーマ「Touch」では、カメルーン出身でロンドンを拠点に活動するデザイナー、Amechi Mandiが、ガーナ南部の沿岸地域に暮らすFanteの人々の間で受け継がれてきた伝統的な組織「Asafo」の旗から着想を得たテキスタイルを展示。鳥や動物、人物などの象徴的なモチーフを、色鮮やかなテキスタイルで表現しています。素材に触れるという行為を、その背景にある文化や物語に触れる体験へと広げています。

Photo by DNP

テーマ「Scent」では、ロンドンのフレグランススタジオOmamoriがホームフレグランスを展開。香りを光や音、質感、食、オブジェと重なる空間のもう一つのレイヤーとしてとらえています。来場者が部屋から部屋へと移動するにつれて香りも変化し、空間の雰囲気を繊細に演出。香りと場所の記憶や体験との関係を探る展示となっていました。

Photo by DNP

テーマ「Sound」では、ロンドンを拠点に活動するクリエイティブスタジオ、Studio Above&Belowによる「Quantum Trace」を展示。レーザー光や音、プロジェクション、独自開発のソフトウエアを用いて、目に見えない量子コンピューティングの複雑なプロセスを、光や音、動きとして可視化・可聴化しています。テクノロジーを単なる情報として理解するのではなく、絶えず変化する空間として身体で感じる、没入型のインスタレーションでした。

テーマ「Taste」では、本インスタレーションのキュレーターであるEmma Louise Payneが、新作コレクション「Wasted」を発表しました。再生粘土や再加工した陶器、余剰釉薬など、本来廃棄される素材を用いてカクテルグラスやカラフェ、小皿などを制作し、食べる、飲む、集う場であるキッチン・ダイニングの空間で展示しました。バスルームやトイレの壁面タイルもEmma Louise Payneによるデザインです。さらに、アースカラーでまとめられた温かみのある空間全体をスタイリングし、作品と暮らしが自然に溶け合う世界観をつくり出していました。

Photos by DNP

MADE × Barbicon

英国の家具・インテリアブランドのMADEが、ロンドンを代表するブルータリズム建築Barbican Estateの建築や住空間を、現代のインテリアへと再解釈したコレクションを発表しました。MADEのデザインチームは、Barbican Estateに加え、コンサートホールや劇場を実際に巡り、建築の構造や素材、特徴的なフォルムをリサーチ。さらにアーカイブ資料や当時の住戸のレイアウトを紐解き、バービカンが提案した「新しい都市生活」そのものをデザインの出発点としています。画像中央の「Plinth Large Sideboard」は、横方向に反復する木製のフロントが特徴。Barbican Estateのバルコニーの形状を取り入れた取っ手や、コンクリートの柱を思わせる脚部により、Barbicanの建築的な構成を家具のスケールへと置き換えています。画像右の「Plinth Round Coffee Table」は、2つの半円形テーブルを組み合わせるモジュール式。円形はもちろん、ずらしてS字状にしたり、それぞれを単独で使ったりと、自由なレイアウトが可能です。Barbican Estateの湖の周囲にある、円形に掘り下げられたベンチスペースから着想を得て、建築の造形を暮らしの中で楽しめる家具へと再解釈しています。

Photos by DNP

Barbican Estateは、第二次世界大戦後の再開発によって誕生した大規模な集合住宅群です。1960年代に建設が始まり、1982年に全体が完成しました。住宅だけでなく、庭園や学校、教会、文化施設などを一体化した「都市の中の都市」として計画され、打ち放しコンクリートによる大胆な造形で、英国のブルータリズム建築を象徴する建築のひとつです。その中心に位置する文化施設Barbican Centre内の「Level G Hub Space」が、今回の展示会場となりました。

Barbican Centreの前には大きな人工湖が広がり、その周囲にあるLakeside Terraceには、「Plinth Round Coffee Table」のデザインの着想源となった半円形の噴水や、掘り下げられたベンチスペースが見られます。

編集後記

毎年4月に開催されるMilan Design Weekが、世界的な家具ブランドによる新作発表を中心に、ファッション、自動車、テクノロジーなど幅広い業界の企業が、デザインを通して未来の暮らしや社会へのビジョンを発信する場であるのに対し、London Design Festivalは、よりアートや文化、実験的なデザインに軸足を置いたイベントという印象を受けました。家具やインテリアにとどまらず、アート、工芸、テキスタイル、デジタルテクノロジーなど多様な分野のクリエイターが参加し、完成された製品だけでなく、素材の可能性や制作プロセス、五感を通した体験そのものを作品として提示しています。また、世界的に著名なデザイナーに加え、新進気鋭のアーティストやデザインスタジオにも発表の機会が開かれていることが特徴的でした。企業がデザインを通して未来へのビジョンを発信するミラノに対し、ロンドンではクリエイター自身の視点から、デザインの新たな可能性を探求する。 両都市の異なるアプローチから、デザインという領域の広がりを感じることができました。


2026年のLondon Design Festivalでは、
・素材そのものの価値を見つめ直す「Materiality」
・視覚だけでなく五感を通して空間を体験する「Sensory Design」
・伝統や歴史を現代のデザインへと再解釈する「Heritage × Contemporary」
という3つの傾向が印象的でした。

素材の質感や手仕事の痕跡を生かした表現、光や音、香りによって空間の体験を広げるインスタレーション、歴史的な建築や文化を現代の家具やテキスタイルへと展開する試みなど、さまざまなアプローチが見られました。また印象的だったのが、多様なカラーやパターン、素材を重ねながら調和を生み出す、英国らしい「足し算」の感覚です。その背景には、ヨーロッパの宮殿や貴族文化における装飾の伝統に加え、海外貿易によってもたらされたインド更紗や中国の壁紙、産業革命による装飾文化の大衆化など、長い歴史があります。異なる色や柄を大胆に取り入れながら、トーンや柄のスケールを巧みに調整し、個性と調和を両立させるコーディネートにも、そうした文化の蓄積が感じられました。完成された製品の美しさだけでなく、その背景にある素材や文化、歴史、そして人が空間で何を感じるのか。 デザインの価値をより多角的にとらえ直す動きが感じられたフェスティバルでした。

Editor

ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネイト提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター

2026年10月時点の情報です。

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