【金融保険DX】 情報の森で迷子にならない!
“見える化DXプロジェクト”のススメ

業界や企業規模を問わず、社会のあらゆる分野でDXによるビジネス・業務改革が進められています。デジタル化の必要性は感じながらも、膨大な業務マニュアルや社内に散らばった情報をまとめきれずに悩んでいる…、そんな企業も多いのではないでしょうか。今回は、DNP コミュニケーションデザインの相馬あきこが 、DNPが考える理想的な金融保険業界向けDX(※)プロジェクトの進め方について語ります。
※金融保険業界向けDX:当コラムでは、金融保険業界の申込・契約手続き業務DX(略して金融保険DX)として使用

2023年4月25日 公開

株式会社DNPコミュニケーションデザイン
第2CXデザイン本部 第1部 第2課
主幹企画員

専門分野: ブランディング、CI。おもに金融業界向けの情報コミュニケーション分野におけるコンテンツ・メディア企画制作に従事。DNPデジタルマーケティング時代のデザインメソッドIGUD®、DNP UXコンテンツシリーズ UXパンフレット®のメソッド開発等も担当
保有資格: AFP(日本FP協会認定39472519)2級FP技能士、知的財産管理技能士2級、ユニバーサルデザインコーディネーター2級

  • 所属・肩書などは、2023年4月時点のものです。

なぜ今、金融業界でDXが求められるのか?

—さまざまな業界がDXに取り組む中、DNPでは特に金融や生命保険業界におけるDXプロジェクトを推進しています。それはなぜでしょう?

相馬: これは業界というより無形商材特有の課題でもあるのですが、金融や生命保険は「商品を買って終わり」「瞬時に手続きが完了」というケースが少なく、申し込み後に膨大な手続きが控えていることがほとんどです。

そのため窓口の受け付けはオンラインやデジタルに切り替えても、その先はいまだに紙ベースが主流。さらに最近はコンプライアンスの問題から、商品説明ひとつに対しても「お客様の意向に沿ったものか」などの意向把握同意書をはじめ、申込書に至るまでの書類を何枚も残さなくてはなりません。

―ペーパーレスが叫ばれながらも、コンプライアンスを順守すると書類が膨大に…

相馬: そうなんです。また、手続きが多いということは、いろんな部署や組織をまたぐことでもあるので、なかなか統一してデジタル化を図ることが難しいのも現状です。

でも昨今の環境問題やコロナ禍による非対面接客の流れを考えると、DXを進めないままでは顧客との接点を失いかねません。

—まさに急務の課題といった感じですが、実際に金融・生命保険会社からの相談は増えているのでしょうか。

相馬: はい、年々デジタル化への課題をお聞きする機会は非常に増えていますね。みなさん危機感を感じていらっしゃいます。しかもツール単位ではなく、全社プロジェクトとして業務DXに取り組みたいという声が多いです。

全体最適を考えるという点では、全社プロジェクトとしてDXに取り組むのは非常に大事なことだと思います。

DXも「コンテンツファースト」と「顧客体験」で考えよう!

―ではここから、DXプロジェクトを進める際に大切な視点や考え方について聞かせてください。
 DNPでは「DXにおいても“コンテンツファースト”が重要だ」としていますが、そもそも「コンテンツファースト」とはどういった考え方なのでしょう?


相馬: 従来のツールやマニュアル制作は、アウトプットする媒体ありきで作られる「メディアファースト」が主流でした。例えば紙のカタログ、会社案内、LPサイト…、それぞれの媒体で担当部署が分かれていて、十分に情報共有ができないまま個別に制作して終わり。

でも同じ商品であれば、当然同じ情報がカタログにもWebにもDMにも出てきますよね。それなのにバラバラのチームで作るため、デザインや言葉が統一されていないという問題がありました。

―確かにそれでは受け手であるお客様も戸惑いますし、制作工数やコストも非効率ですね。

相馬: それに対して「コンテンツファースト」とは、軸となるストーリーや表現をまずしっかり固め、それをベースに統一された情報を各媒体へ展開していく、コンテンツありきの発想です。膨大な業務マニュアルやドキュメントをデジタル化していく場合も、闇雲に情報をデジタルに置き換えるのではなく、まずは情報を整理して軸をつくらないと始まりません。

部分的な業務のDXや単独ツールのデジタル化を受注する場合もありますが、制作をしていく中でクライアントの方も「これは無駄が多い、全部ひとつにまとめたい!」と気づかれることが多いです。

―その情報整理や軸づくりにおけるコツは何かありますか?

相馬: やはり一番大切なのは、「誰がいつどのように使うのか」という“人の行動”に添ったプロセスを整備することです。

例えば、お問合わせから契約完了までどんなやり取りがあるのか、対面とテレカンで適切な面談スクリプトやツールが使い分けられているか、新規客と既存客でサービスの手厚さに差が出ていないかなどなど、一連の流れを実際に私たちも体験しながら情報を整理し、課題を洗い出していきます。

—金融や生命保険などの業界は手続きが多い分、なおさらお客様の体験の全体像を把握する必要がありそうですね。

相馬: そうですね。一連のCX(=顧客体験)をふまえた上で、「デジタル化によって企業と顧客の双方がどんなメリットを享受できるか」を思い描き、デジタル化すべき対象を的確につかむことが大切です。

アウトプットを早めに見える化すれば、迷子にならない

―その他にも、DXプロジェクトを進める上で工夫していることはありますか?

相馬: 情報やプロセスの整理を進めていくと、エクセル資料やフロー図などの「中間制作物」と呼べるものが膨大に生じます。こうした資料ばかりを作っていると、クライアントもメンバーも「なんのためにこれをやっているのだろうか」とゴールを見失い、疲弊してしまうケースがとても多いです。

そこで私たちは、これを回避するためアウトプットをできるだけ早い段階で見える化するようにしています。

―この中間作業が最終的にどんなデジタルツールになるのか、完成形に近いモックを作ってしまうということでしょうか?

相馬: その通りです。これは過去にあった某銀行の事例なのですが、紙で行っていた手続きをデジタル化するために、ベンダーさんがプロジェクトを組んで業務フローやシステムの遷移図を緻密に作成していました。それはそれで必要な作業ですが、クライアントにはどんなアウトプットになるのか見えないため、「一向に進んでいない」という不安を感じさせてしまって。それでDNPに声がかかり、プロジェクト自体の見直しとプロセスチェンジを図りました。

私たちがまずやったのは、デジタル版の手続き画面を作ることでした。アウトプット形態が見えたことでメンバー間でのイメージが共有でき、さらに他部署へも「このようなものができます」と説明しやすくなって、社内承認を得るスピードも上がりました。

—コンテンツファーストとCX視点で業務プロセスを整備し、DXの土台をつくる。アウトプットを早めに見える化し、ゴールイメージを共有して進める。
 この2つが、DNPのDXプロジェクトの大きな特長になりますね。


相馬: はい。そして土台づくりやゴール設定ができたら、あとは的確なレビューを実施しながら改善を繰り返し、クリエイティブとしてブラッシュアップしていきます。

これもプロジェクトで作る全ツールを一度にやろうとすると大変なので、重要度の高い1~3点に絞り込んで改善していくことがおすすめですね。ちなみに、そのレビュー方法やクリエイティブにもDNPの知見が活かされているのですが…。それはまた、別の記事でお話したいと思います。

<了>

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