ブロックチェーンを活用したWeb3.0時代のファン体験とは
DNP×Gaudiy対談

ファン活動と聞いて思い浮かべるのは、グッズの購入、イベントへの参加、SNSでのファン同士の交流などが多いかもしれません。Web3.0時代になると、それらの活動がブロックチェーン上に記録され、ファンの熱量を正しく評価・還元することが可能になります。こうした新しいファン体験を生み出そうとしているのが、ブロックチェーン技術を活用したファンプラットフォームを展開する株式会社Gaudiyです。DNPは2022年1月にGaudiyと業務提携し、新たなコンテンツビジネスの創出をめざしています。第一弾の取り組みとして、『約束のネバーランドPOP UP SHOP in東京アニメセンター』と連動した実証実験を2022年1-2月に実施しました。
ブロックチェーン技術の活用によってファン体験やコンテンツビジネスはどう変わっていくのか。大日本印刷株式会社のヤナガワと、株式会社Gaudiy跡部三太氏のお二方に話を伺いました。
2022年9月公開

プロフィール

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株式会社Gaudiy
跡部 三太氏
サポート行政書士法人(法務コンサルタント)、ドローンスタートアップ、株式会社ペイミー(取締役COO)を経て、株式会社Gaudiyに入社。Gaudiyでは事業開発担当としてパートナー企業との共創及びコミュニティマネジメント業務に従事。

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大日本印刷株式会社
ヤナガワ
2009年入社。入社より一貫して海外事業に携わり、海外でのセールスや印刷製造を担当した後、日本のコンテンツを海外へ届けるサービスの開発に携わる。2019年より株式会社オールアバウトへ出向しインバウンド事業を2年間経験した後、2021年よりNFTを活用したビジネス開発に参画。国境を越えてファンとコンテンツが繋がる未来の在り方をテーマに取り組む。

目次

適切な「評価」と「還元」でファンの熱狂を創出

——Gaudiyでは「Gaudiy Fanlink」を展開していますが、まずはこちらの概要をお聞かせください。

跡部氏:「Gaudiy Fanlink」はNFT、DID(分散型ID)などのブロックチェーン技術を活用して、ファンの熱量を最大化するプラットフォームです。

大前提として、企業がコンテンツを生み出し続けるためには、時間とお金を投じてくれるファンの存在が重要です。既存のファンに継続して楽しんでもらいつつ、新規ファンを獲得していかなければなりません。わかりやすい例が、韓国の人気グループBTSのファン「ARMY」です。DAO(分散型自律組織)のような形で、ファンの自律的な活動が大きなムーブメントをおこし、IPを成長させていますよね。

ファンに熱狂し続けてもらうために大事なのが、推しに対する熱量や好きという想いを行動に変えてもらい、それを継続してもらうこと。そのファンエコノミーをつくるために必要なのが、「評価」と「還元」だと考えています。

こうした考えのもと、「Gaudiy Fanlink」ではブロックチェーン技術を活用して、ファン活動のデータを記録して、ファンの熱量が正しく評価・還元できる仕組みを構築しています。従来はひとつのIPにまつわるファン体験がゲームアプリ、マンガアプリ、ファンクラブなど各プラットフォームに分散していましたが、「Gaudiy Fanlink」ではこれらを統合し、コミュニティ起点でこれまでにないクロスメディアでのファン体験を実現します。

——熱量を正しく評価・還元できる仕組みとは、具体的にどういうものでしょうか?

跡部氏:「評価」は、何かのグッズを買ったり、SNSで作品をオススメしたりする行動を記録して、適切に評価していく仕組みです。これを可能にするのが、ブロックチェーン技術です。DID、NFT、トークンなどを活用することで、ファンがどんなアクションをしたのかという履歴を蓄積し、評価することができます。

実際に運用するにあたって重要なのは、柔軟な評価・還元の設計です。

作品にお金を落としてほしいというのはすべてのIPホルダーにとって普遍的な目標ですが、フェーズによっては、購買よりも草の根でオススメしてもらってファンを増やしていきたいタイミングもありますよね。企業のそのときのKPIによってファンに期待する活動は変わってくるため、やりたいことやタイミングにあわせてどの活動をどのように評価するか、柔軟な設計ができることが大切です。

「評価」の延長線上にあるのが「還元」です。ファンとしての特定の行動や消費を評価して、インセンティブを還元します。例えば、TwitterでリツイートしたらそのIPに関するなんらかの商品と交換ができる、限定のNFTがもらえるというような形です。

今でもSNSでリツイートを促してプレゼントを提供するキャンペーンはありますが、ブロックチェーン技術を活用することで、こうした行動もファン活動の履歴として蓄積することが可能になります。

ただし、インセンティブ自体が目的になってはいけません。ファン活動をしていたらイベントの招待券や次回使えるクーポンがもらえるというような、あくまでもIPと絡めたインセンティブの還元が大切です。「ファンではないけどインセンティブ目当てで参加する」という行為ができない仕組みづくりが必要です。

——今の話をふまえ、DNPではファンエコノミーについてどのようにとらえていますか?

ヤナガワ:ファンの熱量というのはずっと昔から変わらずにあったもので、それが今インターネットの進化によって自分が好きなものを発信したり、仲間を見つけたりしやすくなっただけだと思っています。好きなものを応援したいというのは人間の普遍的な欲求であり、これからも続いていくはずです。

そのうえで、日頃からさまざまなIPホルダーとお取引があるDNPとしては、インターネットのさらに先、Web3.0が広まっていく時代に、ファンエコノミーやコンテンツビジネスのあり方がどう進化していくかは非常に気になるところです。

ファンエコノミーというと経済のイメージが先行しやすいですが、ファンの中での評価や評判という視点でとらえることもできます。IPへの熱量をどう伝え、どうフィードバックされているのか。いちファンとしての自分の評判を世の中でどう高めていくかなども意識される時代に今後はなっていくと思います。

今だとSNSのいいね数やコメント数が指標になりやすいですが、Web3.0の時代では、例えばマンガの第一話をリリース日に読んだという証がNFTとして残り、そのNFTをいつから、いくつ所持しているかなどがブロックチェーン上に未来永劫残り、閲覧できようになります。

個人情報をどう保護するかも重要になってきますし、今後どう世の中が変わっていくのか、ウォッチしていきたいと思っています。

跡部氏:今のファンの中での評価や評判の視点、「Gaudiy Fanlink」でもすごく意識しています。

通常のSNSだと、フォロワー数が多いほど声が届きやすいですし、フォローしている人によって得られる情報も変わってきます。

これに対して「Gaudiy Fanlink」では、フォロワー数という概念がありません。ひとつのIPが好きな人同士が集まっているので、「Gaudiy Fanlink」で発信するといいねがたくさん集まりやすい。純粋にファン活動を評価する設計を意識しているため、温かいコミュニケーションが生まれやすい特徴があります。

「約ネバ」イベントで購入者にジェネレーティブアートを配布

——2022年1月には両社の共同事業として「東京アニメセンター in DNP PLAZA SHIBUYA」で開催された『約束のネバーランドPOP UP SHOP in東京アニメセンター』と連動した実証実験を実施しました。どんな取り組みだったのでしょうか?

ヤナガワ:Gaudiyさんが『約束のネバーランド』の公式コミュティ『みんなのネバーランド』を運営されており、ちょうど我々もイベントの開催が控えていたことから一緒に何かやってみようとスタートした企画です。

内容としては、ポップアップストアで3000円以上購入してくれた方に、キャラクターの描き下ろし画像を使用したジェネレーティブアート(アルゴリズムによって無作為に生成される画像)を、「世界にひとつしかないあなただけのオリジナルのアイコン画像」としてプレゼントする取り組みでした。

推し活の形は本当にさまざまで、コミュニティで積極的に発信している人もいれば、発信はしていなくてもグッズの購入意欲が高い人、あるいは他のファンの発信を見るだけで十分に楽しんでいる人もいます。どこに熱量をかけているかは本当に人それぞれですが、このような発信をせずに、一個人で楽しんでいる人の場合はその熱量を表現する機会がありませんでした。

その点、今回の施策では、イベントで3000円以上購入したことがブロックチェーン技術によって証明され、コミュニティ内で披露することもできます。これまでにない形でファンとしての熱量を表現する機会を生み出せたことが、すごく面白いと感じましたね。

跡部氏:ジェネレーティブアートの配布は今回のイベントで初めて実施しました。ファンの方からの反応もよく、喜んでもらえたのは大きな結果だと思います。

また、DNPさんと一緒に取り組むことで、リアルの世界とバーチャルの世界の連携がスムーズにできたと感じています。

ファン活動を楽しむためにはバーチャルの世界だけでなく、リアルの世界との連動が重要です。我々の強みはブロックチェーン技術やデジタルの世界でのコミュニティ運営ですが、どうしてもリアルのイベントの部分が弱い。イベントを企画して、場所をおさえるというのもハードルが高いのが正直なところです。

その点でDNPさんの力を借りられたことはすごくありがたかったですし、そこに我々の技術を使ったジェネレーティブアートの配布を掛け合わせて、リアルとバーチャルの融合が実現できました。

リアルと推し活を連動すると、大きなインパクトが生まれる

——今後ファンエコノミーはどのように盛り上がっていくと思いますか? また、コンテンツビジネスはどう変わっていくと思いますか? お二人の見解をお聞かせください。

跡部氏:ファンが数百万人、数千万人いるようなビッグIPがありますよね。その中での消費活動のインパクトは小さな国以上のものだと考えています。例えば、5000万人規模だと韓国の総人口に匹敵します。

今でも大きなお金が動くビッグIPはたくさんありますが、「評価」「還元」の部分、「継続性」という部分ではまだ適切な仕組みはできあがっていません。数百万、数千万人のファンの熱量を可視化して適切にファン活動を評価し、インセンティブを還元する仕組みができあがれば、これまで以上の大きなビジネスを生み出すことができるはずです。

今検討を進めているのは、リアルの世界で使えるファンペイメントのようなものです。例えば、コンビニなどで決済するときに好きなIPのファンペイメントを使うことで、限定のトークンがもらえるといった設計を考えています。「50円割引き」などの特典ではなく、ファンが喜ぶ特典を還元するのです。

自分のリアルの生活で食品や服などを購入することが、推しのIP関連の経済圏を盛り上げることにつながっていく。これは10年後とか遠い未来の話ではなく、近い未来で実現できるのではと思っています。

今でもキャラクターとコラボしたクレジットカードがありますよね。イメージはそれと近いです。決済するときに普通のカードを使うか、推しと関係するカードを使うか。推しと関係する決済手段を使うほどに限定トークンやポイントが貯まって、ファン活動として記録されていく。そんなイメージです。

暮らしに身近なところでIPに関連した経済が拡張していくと、経済的にも国家規模のインパクトがあります。ファンにとっては、時間とお金をかけているファン活動が自分の生活にちゃんと返ってくる。

Gaudiyではこうした「ファン国家」をつくっていきたいと考えています。

ヤナガワ:ファンエコノミーを広げていくという点では、どのくらいの規模感のIPで実施するかは確かに重要だと思います。数百万人規模のファンを抱えるIPでファンエコノミーを形成できると、BTSのように社会的にとても大きなインパクトが出るでしょう。

その一方で、日本にはそれ程の規模感ではないものの、確かに熱量の高いファンがいるコンテンツが非常に多くあります。ファンの数で言えば数万人・数千人という規模のIPが無数にあり、この中にも生きがいを感じている方々がいます。DNPとしては規模感に関わらず、なるべく多くのファンが自分の好きなコンテンツを応援する中で実生活も豊かになる世界を作っていきたく思います。どんなコンテンツにもそのIPが心底好きなファンの方はいて、すばらしいクリエイターの方がいます。誰にとっても居心地がよく、みんなが推し活を楽しめるサービスをつくっていきたいと考えています。

——今後はコンテンツIPの既存プラットフォームからの脱却が進んでいくのでしょうか?

ヤナガワ:本来、コンテンツホルダーには、広くたくさんの人の目に触れてほしいという想いがあると思います。既存のプラットフォームは新しいコンテンツを広く届けるという点では今もまだ非常に大きな存在です。

ただ、そこだけに依存するのも少し違うかなと。多くの人にコンテンツを届けるためにプラットフォームの力を借りる一方で、直接ファンの方とつながり、コミュニティをつくっていくことも今後は重要になってくると思います。

跡部氏:Gaudiyとしては、プラットフォームに依存しないコンテンツIPのあり方を追求していきたいと思っています。

例えば、Appleのアプリを使うにはアプリストアを介さないといけないですよね。だけど、今後はユーザーがどのプラットフォームで、どのコンテンツを消費するかを自由に選べる世界がどんどん広がっていくと思います。

プラットフォームは今後も進化して残っていくでしょうが、それとは別によりよいファン体験を提供するサービスが生まれ、共存していく。そういう未来が近づいていると思います。

ヤナガワ:そうですね。0から1で生み出された一次コンテンツは時代に沿ったプラットフォームを通して世に広く提供されていくと思いますが、1から2、あるいは1から100にする部分、つまり、二次創作やファンによる応援活動などが今後は大きく変わっていくと思いますね。

———最後に、今回の業務提携において両社に期待することをお聞かせください。

ヤナガワ:先ほど話に出た「ファン国家をつくろう」というメッセージはすごくインパクトが大きいですし、Gaudiyさんは実行する技術も持っている。

DNPとしてもぜひ一緒に新しいコンテンツビジネスを生み出していければと思っています。

跡部氏:我々はスタートアップなのでスピードが命です。クオリティが十分でない中でも世に出してブラッシュアップしていくことも多々あります。このスピード感や考え方に対してDNPさんが理解を示してくれているのがすごくありがたいと感じています。

当初、大きな会社なので判断には時間がかかるだろうと思っていたのですが、まったくそんなことはなくて。しかも、印刷技術だけではなく、さまざまな強みを持っているので、思わぬところからシナジーが生まれることもあります。

リアルとオンラインの融合だけに留まらず、これからもいろいろな新しい取り組みをしていければと思います。

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