生分解性プラスチックは環境に良い? 問題点やデメリットに迫る

地球環境問題として、海洋のプラスチックごみ汚染が深刻化しています。1950年以降に生産されたプラスチックは83億トンを超え、63億トンがごみとして廃棄されたと推定されています。特に、捨てられたプラスチック容器が海に流れ込んだ海洋プラスチックごみは、徐々に劣化・微細化してマイクロプラスチックになり、生態系や海洋環境の悪化などの問題を引き起こし世界的に注目されています。

例えば、死んだ海鳥の胃からプラスチックが見つかったり、また投棄された網などの漁具が海洋生物に絡まったりするなど、生態系だけでなく漁業そのものにも悪影響を及ぼしています。

前述のプラスチックごみ問題についての解決策のひとつとして提案されているものに「生分解性プラスチック」があります。

本記事では「生分解性プラスチック」について、その技術とメリット・デメリットを詳しく解説します。

※2023年9月時点の情報です

目次

生分解性プラスチックとは

「生分解性プラスチック」は、製品の使用後に、特定の条件で生分解されるプラスチックです。

通常のプラスチック製品と同じように取扱いできますが、使用後は自然界に存在する微生物の働きにより分子レベルまで分解され、最終的に「二酸化炭素(CO2)」と「水(H2O)」になります。

生分解性プラスチックの種類

「生分解性プラスチック」は原料や製造方法によって3つに分類できます。以下に詳細を説明します。

●微生物産生系:微生物を利用して作られるもの。
●天然物系:植物由来のセルロースや、トウモロコシなどの穀物類、ジャガイモなどのイモ類から抽出されるもの。
●化学合成系:化学合成反応により生産するもの。

上記の分類に従い、「生分解性プラスチック」の区分別代表物質例を以下に示します。

表1:生分解性プラスチック代表例(引用)
(出典:国立研究法人 国立環境研究所ホームページ

区分 代表物質例
微生物産生系 ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)
バクテリアセルロース
天然物系 キトサン/セルロース/デンプン
酢酸セルロース
エステル化デンプン
生分解性プラスチック・デンプン混合系
化学合成系 ポリ乳酸(PLA)
ポリブチレンサクシネート(PBS)
ポリカプロラクトン(PCL)
ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)
変性ポリエチレンテレフタレート
ポリグリコール酸(PGA)
ポリビニルアルコール(PVA)

代表的な物質のうち、特に注目されている4物質(表1の黄色背景部分)についてその概要を解説します。

PHA(ポリヒドロキシアルカノエート)

「ポリヒドロキシアルカノエート」(PHA)は、さまざまな微生物が体内に蓄積する貯蔵物質です。

PHAは、植物油などを原料としてバクテリアによる発酵プロセスにより生成されます。

製品使用後においては、土壌内や海水中で早く分解されて水やCO2になります。このことから、化石燃料由来のプラスチックの置き換えとして期待されています。

なお、PHAはもろいため、強度を上げるためにモノマーと共重合させたポリエステルが開発され、硬質射出成型品やフィルムなどの原料に利用されています。

PLA(ポリ乳酸)PHA(ポリヒドロキシアルカノエート)

デンプンの発酵などで得られるL-乳酸の重合反応で作られるのが「ポリ乳酸」です。

原料にはトウモロコシ由来のデンプンが利用されることが多いようです。このデンプンを酵素で加水分解して発酵させL-乳酸を得ます。そこから化学的な重合反応でポリ乳酸を合成します。

生分解性ですが、通常の環境下ではほとんど分解せず、土壌や水中でも分解速度は早くありません。ただし堆肥装置(コンポスト)中においては、半年程度でほぼ分解されます。

低耐熱性や透明性といった性質をベースに、冷凍食品の包装材やレジ袋、農業用シート、ハウス用フィルムに使用されています。

PBS(ポリブチレンサクシネート)

「ポリブチレンサクシネート」(PBS)は、ポリエチレンに近い優れた性質を持つ高分子化合物です。

バイオマス原料から製造する技術も開発されており、有望な生分解性プラスチックとして注目されています。

使用される製品としては、農業用マルチフィルム、ごみ袋、食品包装材があります。

PCL(ポリカプロラクトン)

「ポリカプロラクトン」(PCL)は、石油由来の原料から合成され、細菌によって分解される生分解性プラスチックのひとつです。

低融点や熱可塑性プラスチックとしての特性を生かし、農業用マルチフィルムやコンポスト用袋、また塗料や繊維としても使用されています。

生分解性プラスチックが活用されている分野

生分解性プラスチックが活用されている分野とそのメリットを表にまとめました。

表2:生分解性プラスチックが活用される分野(引用)
(出典:グリーンジャパン(資料を一部引用して再構成) )

活用される分野 用途/機能 具体的な製品例
自然環境の中で利用される分野 農林業用資材 農業用マルチフィルム、移植用苗ポット
水産用資材 釣り糸、漁網など
土木・建設資材 断熱材、土木工事の型枠、土のう、保水シート
野外・レジャー用 キャンプ、バーベキュー、花見などの使い捨て用品
製品使用後の回収・再利用が困難な分野、または有機廃棄物の堆肥(肥料)化に有効な分野 食品包装用フィルム・容器 生鮮食品のトレイ、インスタント食品容器、ファストフード容器
衛生用品 紙オムツ、生理用品
事務用品・日用品・文具・雑貨類など ペンケース、ひげそり、歯ブラシ、コップ、ごみ袋
特殊な機能を生かした分野 徐放性(中身が徐々に放出) 医薬品、農薬、肥料などの被覆材
保水性・吸収性 砂漠・荒地などで使用する植林用素材
生体内分解吸収性 手術用縫合糸、骨折固定材、医療用不織布
小さい酸素透過性、非吸着性 食品用包装フィルム、飲用用紙パックの内部コーティング
低融点 包装、製本に用いる接着剤

生分解性プラスチックの問題点・デメリット

分解条件が限定的

生分解性プラスチックは、土壌中や水中のような環境や、コンポスト中で分解が進行します。つまり、プラスチックが分解されるためには、微生物が活動しやすい環境を作ることが重要となります。

分解時間が長い

生分解性プラスチックの農業用マルチフィルムの分解期間は、通常数カ月以上かかるとされています。しかし生分解性プラスチック製ごみ袋ではそれより短い期間で小さな破片まで分解されます。

生分解プラスチックの分解速度は、微生物の活動や周囲環境に大きく依存します。

製造コストが高い

生分解性プラスチックは、通常のプラスチックに比べ一般に製造コストは高くなります。開発/生産というプロセスに手間がかかるためです。また、植物由来の原料を使用した場合は、化石燃料(石油など)に比べて原料費用が増加します。

リサイクルシステムに支障が出る可能性がある

生分解性プラスチックは、自然に分解しやすい性質がありますが、その一方で、再生樹脂として再利用するマテリアルリサイクルは困難になります。

特に将来、海洋生分解性プラスチック*が大半となれば、再利用が困難で埋め立てや焼却に回る割合が高くなり、リサイクルシステムへの影響が懸念されます。

  • *海洋生分解性プラスチック:海洋中において微生物が生成する酵素の働きで分解されるプラスチック

その他の懸念事項(米国での消費者クレーム)

堆肥化可能をうたい文句に採用した生分解性プラスチック製のスナック菓子の包装パッケージは、消費者クレームを引き起こしました。

「100%堆肥化可能なパッケージ」のこの商品は、パッケージからスナックを取り出す時「バックがしわくちゃになって大きな音を立てる」ことがユーザーに不評でした。最終的にはメーカー側が生分解性のある「より静かな」な別の製品を採用し、問題は収束したのです。

このように、生分解性プラスチックを使用する先駆的な試みには、”常に新しい課題が潜んでいることを認識し、消費者の立場に立って発売前に解決すること”を教訓として教えてくれます。

プラスチックごみにおける環境問題に対する打ち手

プラスチックゴミにおける環境問題に対する打ち手としては、「生分解性プラスチックの普及」、「バイオマスプラスチックの普及」、「モノマテリアルによるマテリアルリサイクルの推進」の3つがあります。そのメリットは以下のとおりです。

「生分解性プラスチック」は、自然環境の中で分解し、土壌や海水に戻すことができるという特長があります。一方、「バイオマスプラスチック」は、原料として植物などの再生可能な有機資源を使用するため、石油などの化石燃料の消費を削減することができます。さらに、「モノマテリアルの使用」は、マテリアルリサイクルを効果的に行い、サーキュラーエコノミー(循環経済)を実現する手助けとなります。

以下では、3つの打ち手について現状の課題と対策について詳しく説明します。

生分解性プラスチックの普及

生分解性プラスチックの普及に当たって大きな4つの課題があります。

1. 生分解性プラスチックを製造するための技術課題
2. 製造した製品を評価・認定する仕組み
3. 堆肥化(コンポスト化)設備の整備
4. 製造コストの低減

実用化されている生分解性プラスチックは7種類ほどしかなく(表1参照)、今後も化石燃料由来のプラスチックの機能・性能に近づく新たなプラスチックの開発が必要です。

生分解性を評価する試験方法や安全性を担保する評価方法の確立は大切ですが、日本における生分解性プラスチックの基準・規格は複数あり注意が必要です。また、消費者の認知度が低いために、通常のプラスチック回収に生分解性プラスチックが混入する、という問題もあります。

日本では生分解性プラスチックの技術確立と実用化を目指し、「日本バイオプラスチック協会(JBPA)」が1989年に設立されました。

JBPAでは生分解性と安全性を認定する「グリーンプラ識別表示制度」を設けています。JBPAの審査基準を満たした製品は「生分解性プラ」マークの使用を認められています。

生分解性プラスチック・識別表示マーク(引用)
(出典:日本バイオプラスチック協会ホームページ )

日本工業規格(JIS)や海外の国際標準化機構(ISO)においては、生分解性プラスチック試験方法の各種規格が制定されています。
その他の普及促進のテーマとして「堆肥化設備の拡充」と、「量産効果によるコスト低減」は今後の改善テーマとなっています。

バイオマスプラスチックの普及

「バイオマスプラスチック」とは、「植物由来の材料から作られるプラスチック」を意味します。もともと、植物由来の材料を使用するためカーボンニュートラル(植物はCO2と水を吸収して成長するため)であり、大気中のCO2濃度を上昇させないと定義されています。

バイオマスプラスチックの普及に当たっては、日本政府は2002年6月の「京都議定書」の批准に続いて、同年「バイオマスニッポン総合戦略」を発表しました。その後2021年「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定し、バイオプラスチック製造業者、利用業者、小売サービス業者などに向け施策の普及を図っています。

なお、バイオマスプラスチックの普及における課題は以下4つです。

1. 化石燃料(石油など)由来の材料に比べ価格が高い
2. バイオマスプラスチックの中には、生分解しないものがある
3. 生分解性のバイオマスプラスチックは地上の微生物で生分解される想定のため、海中では分解されにくいものがある
4. バイオマスプラスチックの原料はサトウキビ、トウモロコシなどの作物であるため、バイオプラスチック用の生産を増加させると食品用農作物販売への影響が発生する

以上の課題について、今後一つひとつ解決策を示す必要があります。

モノマテリアル化によるマテリアルリサイクルの推進

2021年4月27日に日本政府が策定した「マテリアル革新強化戦略」では、サーキュラーエコノミー(循環経済)実現のため、下記の目標が設定されました。

1. 2035年までに使用済プラスチックを100%リユース・リサイクル等により有効利用
2. 2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入
この目標を実現するための具体的な取組みとして、下記の施策推進が明記されています。

●リユース・リサイクルを前提とした材料・製品設計技術(モノマテリアル)の確立、および製品設計指針の策定
●カーボンニュートラルとの両立を図るためのマテリアルリサイクル、ケミカルリサイ クル技術の効率化・高度化を実施

このように、「モノマテリアル化によるマテリアルリサイクル」は、政府方針に合致する施策となっています。

包装パッケージのモノマテリアル化に貢献するDNP

DNPのモノマテリアル技術

「DNPのモノマテリアル技術」には2つの特長があります。そのひとつはリサイクルしやすい素材であることです。モノマテリアルを使用することで再生の負荷を下げリサイクル材としての品質を向上させます。

もうひとつは、製品パッケージ内の中身を守ることです。「DNPモノマテリアル包材」は、独自のコンバーティング技術で従来の複合素材に代わる性能を発揮します。

DNP モノマテリアル包材のラインアップ

「DNPモノマテリアル包材」は、PE(ポリエチレン)仕様とPP(ポリプロピレン)仕様の2タイプを用意しています。使用用途に応じて、パウチ、チューブ容器などの製品への利用が可能です。

DNP モノマテリアル包材のラインアップ

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