これがPETボトル? 挑み続ける老舗蔵元が、日本酒に用いた斬新な容器

  • CO2削減
  • 機能性フィルム

大日本印刷株式会社(以下、DNP)が独自に開発した「DNP機能性フィルム複合型ペットボトル Complex Bottle(コンプレックスボトル)(以下、Complex Bottle)」が、相次いで日本酒の容器として採用された。2018年10月から、全国的に人気が高い白瀧酒造株式会社の主力商品「上善如水」に使用されているほか、新潟薬科大学を中心とする共同研究プロジェクト「圧力生酒コンソーシアム」の生酒「AWANAMA」の試験販売に使われ、高い評価を受けている。白瀧酒造株式会社の高橋晋太郎社長に、Complex Bottle がさまざまな社会課題の解決に果たす役割などについて伺った。

  • 伝統産業の存続・発展に資する製品
  • 高級酒のイメージを損なわないPETボトル
  • 「軽い」「割れない」容器でアジアへの輸出促進をめざす
白瀧酒造株式会社 高橋晋太郎氏

白瀧酒造株式会社 7代目社長 高橋 晋太郎氏
慶應義塾大学理工学部(統計学専攻)卒業後、大手生命保険会社に3年間勤務。27歳で家業である白瀧酒造株式会社に入社した後、2009年3月、29歳の若さで代表取締役社長に就任。以降、商品を全て純米酒に移行したり、スパークリング日本酒を発売したりするなど、日本酒業界に新風を吹き込んでいる。

厳しい状況に変革で勝負

「上善如水」――人間の理想的な生き方は、水のように生きること。

万物を利して、他と争わず、器に従って形を変え、自らは低い位置に身を置く――水の性質を最高の生き方に例えた、古代中国の思想家・老子の言葉だ。その金言を冠した日本酒を製造する、新潟県湯沢町の白瀧酒造株式会社(以下、白瀧酒造)も、時代の流れとともに水のように変遷を遂げてきた。安政2年(1855年)創業の歴史ある蔵元だ。

近年の新潟県の日本酒をめぐる状況は厳しい。地酒ブームがあった約30年前のピーク時に比べ、出荷量は4割ほどに落ち込んでいる。若者の日本酒離れも進み、お酒のし好も多様化している。この状況に、「伝統を破壊すること」で伝統産業の存続、発展を図ろうとするのは、白瀧酒造7代目社長の高橋晋太郎氏だ。29歳で社長に就任し、11年になる。

インタビューに答える高橋社長

「先代の父は、伝統は作るものではない、破壊と創造の連続の中で伝統はできると常々言っています。私も社員も、そのDNAを受け継いでいます」と語る高橋社長は、就任後、さまざまな変革に取り組んできた。現在、最も注力するのは、若者に日本酒をたしなんでもらうきっかけを作る商品の開発だ。上善如水は安い価格帯のお酒ではないが、すっきりと飲みやすく、初めて日本酒を飲む方にも受け入れやすい商品なだけに、手に取ってもらうには、やはりデザインが重要。デザインで手にしたくなるお酒にしたい」と、モダンでデザイン性のあるラベルを採用し、容器の形状にもこだわった。

その高橋社長の目に留まったのが、DNPが独自に開発した「DNP機能性フィルム複合型ペットボトル Complex Bottle」だ。「PETボトルはビンより軽いので持ち運びやすい。私より若い年代はPETボトルの飲み物に違和感がないのではないか」と、日本酒では珍しい、PETボトルの採用に踏み切った。通常のPETボトルは酸素や光を透過することで、お酒の品質の長期的な保持に課題があったが、Complex Bottleがそれらの課題をクリアしていたことも決め手となった。

Complex Bottleの上善如水

Complex Bottleは、ふくらませるとボトルの形になる試験管のような「プリフォーム」という部材に、遮光性や酸素バリア性などの機能を持つ着色可能なフィルムを被せて一体成形するものだ。フィルムをはがせば、透明なPETボトルとしてリサイクルできるほか、軽量で使い勝手もよい。成形する際に使用する金型を工夫することで、ボトルの表面に凹凸(おうとつ)など三次元の意匠性を付与することもできる。DNPは数年前から「生活者の利便性を高める『未来の容器』」をテーマに、開発者が自身の専門分野にとらわれることなく発想し、開発を進めてきた。Complex Bottleは、開発者が自由に発想し、挑戦した、まさに「未来の容器」だ。

「社内でComplex Bottleを売り出すことが決定された時、営業先としてまず頭に浮かんだのが白瀧酒造さんでした」と語るのは、DNP包装事業部の波多野文彦だ。「商品のラベルも可愛いし、ボトルも素敵です。常に新しいことに挑戦する風土のある会社ですので、PETボトルに対しても抵抗感がないのではないかと思いました」

高級酒のイメージを損なわないPETボトルを提供

2017年10月、波多野はComplex Bottleを提案するために白瀧酒造を訪れたが、予想通り、すぐに試作品制作の依頼を受けた。高橋社長の指示は、定番の上善如水のガラスボトルの形状を維持し、高級酒ブランドのイメージを崩さないこと、日本酒の着色を防ぐため、遮光性や酸素バリア性の高い白いフィルムをPETボトルに被せることだった。「見た目が最も重要だと考えていましたが、試作品は全く安っぽく見えず、ビンの製品そのままのイメージでした。これならいけると思いました」と、高橋社長は語る。

インタビューに答える高橋社長(左)とDNP包装事業部の波多野さん(右)

Complex Bottleを使用した上善如水(300ml)は、すでに2018年10月から国内での販売が始まっている。評判は上々だ。同年7月末に越後湯沢で開催された「フジロックフェスティバル '18」に合わせて、越後湯沢駅の売店で先行販売されたが、多くの客はボトルの素材を意識することなく手に取っていたという。軽くて割れないPETボトルの日本酒は、野外イベントや花見などの行楽には最適だが、まだまだ認知度は低い。「一朝一夕には広がっていかないと思いますので、紹介する場を増やし、長い時間をかけて提案していきたい」と高橋社長。今後も、イベントなどに蔵元自身が出店して行く計画だ。

今回、白瀧酒造が高級酒にPETボトル容器を採用したことは、同業者からは驚きを持って受け止められているようだ。他の酒造メーカーの追随はあるのだろうか。「PETボトルが普及するためには、多くの銘柄で採用することが不可欠です。スーパーなどの日本酒コーナーでも同様の商品が増えるといいのですが」と、高橋社長は期待を寄せる。

輸出拡大の切り札になる可能性

海外展開について語る高橋社長

高橋社長は、Complex Bottleを使用した商品を海外進出の切り札としても期待している。PETボトル容器はビンに比べて200gほど軽く、海外への輸送費を大幅に削減できるほか、輸送中に容器が割れる心配もない。和食の人気が高まる中、日本全体の日本酒の輸出額は2017年には前年比19.9パーセント増えて約186.8億円に上り、過去最高を更新している。まさに、期待の持てる市場といえる。

白瀧酒造の国内向け出荷は全体の9割、輸出は1割だが、上善如水はネーミングの効果もあり、老子の言葉がよく知られるアジアの国々で売り上げが高く、輸出額の7割を占めている。輸出先の韓国、香港、タイ、シンガポールでは富裕層を中心に買われている。2018年11月に香港で開催されたアジア最大級の酒類専門見本市「香港ワイン&スピリッツフェア2018」にも出展したが、各国の業者から引き合いを受け、輸出拡大への手応えを感じている。

Complex Bottleの良さについて語る包装事業部の波多野さん

DNPの波多野は、「Complex Bottleは軽いし、壊れないし、内容物の品質も保持できる。生活者にとって非常にいいものです。企業にとっても輸送費を安くでき、CO₂の削減につながります。また、資源のリサイクルも容易にできるので、良いことづくめだと思います。世の中に新しい価値を提供するDNPとして、より多くの人に使っていただきたい製品です」と話す。

高橋社長は、「お客さまのメリットにつながることであれば、どんどん新しいことをやりたい。チャレンジするのが、弊社の社風です。DNPさんには、Complex Bottleに限らず、これからもさまざまなご提案をいただきたい」と、今後のDNPとの協働に期待を寄せている。