先駆的な醸造技術と容器で、日本酒の海外市場を拓く

Complex Bottleの「AWANAMA」を生み出した重松教授と伊藤教授
  • CO2削減
  • 機能性フィルム

大日本印刷株式会社(以下、DNP)が独自に開発した「DNP機能性フィルム複合型ペットボトル Complex Bottle(コンプレックスボトル)(以下、Complex Bottle)」が、相次いで日本酒の容器として採用された。2017年10月に新潟薬科大学を中心とする共同研究プロジェクト「圧力生酒コンソーシアム」で、生酒「AWANAMA」として製品化され、試験販売等で高い評価を受けた。さらに2018年10月から、全国的に人気が高い白瀧酒造株式会社の主力商品「上善如水」の容器としても採用されている。今回は、新潟薬科大学の重松亨教授、伊藤満敏教授に、Complex Bottle がさまざまな社会課題の解決に果たす役割などについて伺った。

  • 高圧力に耐える、スタイリッシュな容器を提案
  • 新しい技術を導入し、日本酒の消費拡大の起爆剤に
  • 日本酒はComplex Bottleで飲む、未来をめざして
新潟薬科大学 応用生命科学部長 重松亨教授

新潟薬科大学 応用生命科学部長 重松 亨教授
東京大学農学生命科学研究科(応用生命科学専攻)博士課程修了後、財団法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究員や熊本大学工学部物質生命化学科の助手などを務める。2005年に新潟薬科大学に助教授として移り、2018年から現職。研究分野は、高圧技術による食品加工・殺菌のほか、食品・環境中の微生物群集の解析や生物機能の遺伝子およびたんぱく質レベルの解析。

新潟薬科大学副学長・応用生命科学部 生命産業創造学科 伊藤満敏教授

新潟薬科大学副学長・応用生命科学部 生命産業創造学科 伊藤 満敏教授
国立長岡工業専門学校工業化学科卒業後、越後製菓株式会社に入社。2011〜2013年に同社の代表取締役社長。2013〜2014年には株式会社越後天風の代表取締役社長を務めた。2014年から現職。農学博士。

新規市場の開拓で、伝統産業に活力を

インタビューに答える重松教授

新潟薬科大学の重松亨教授は、2016年からスタートした農研機構「革新的技術開発・緊急展開事業(地域戦略プロジェクト)」の「圧力生酒コンソーシアム」(以下、コンソーシアム)で、自身が研究開発する「高圧技術を活用し、生酒の常温流通を可能とする技術」に適合する生酒の容器選びに苦慮していた。

しぼりたての生酒は、フルーティーで微炭酸があり、スッキリとした味わいだが、冷蔵しても1カ月しか日持ちがしない。日本酒は通常、加熱処理(火入れ)で酵母を殺菌することにより、流通過程で再発酵してアルコール濃度が上がったり、味が変わったりしてしまうのを防ぐが、この火入れによって生酒のフレッシュさは失われてしまう。火入れの代わりに高圧処理で酵母を殺菌する技術を確立し、生酒の風味のまま商品を流通させ、国内外で需要の拡大をめざすのが、コンソーシアムの目的だ。

テスト用の圧力機の前に立つ重松教授
新潟薬科大学では、重松教授による高圧処理で酵母を殺菌する技術が研究されている。

生酒を容器に入れた状態で、4000気圧もの高圧処理に耐えられるのは、PETやポリプロピレンなどのプラスチック素材しかない。ビンやカンでは割れたり、変形したりしてしまう。重松教授は「コンソーシアムが動き出した1年目に、地元の蔵元さんらと意見交換をした中で、『圧力生酒は高級酒をめざしており、PETボトルの使用は安っぽくなるのでやめてほしい』との要望がでていました。それで、アルミ缶でなんとかできないかと試行錯誤を重ねました」と、頭を悩ませていた当時を振り返る。

「容器問題」解決の糸口が見つかったのは、日本高圧力学会に出席した2016年10月だった。そこに参加していたDNPの開発チームの社員から「DNP機能性フィルム複合型ペットボトル Complex Bottle」が紹介された。開発したばかりのComplex Bottleを市場に出すためのパートナーを探していたのだ。

2017年1月、新潟薬科大学を訪れたComplex Bottleの開発者・DNP包装事業部の須賀勇介と面会し、重松教授は圧力生酒の容器としてComplex Bottleが適していると直感した。Complex Bottle はバリア機能を持つ着色フィルムを、ボトルの形になる試験管のようなプリフォームに被せ、金型に入れて一体成形したものだ。柔軟性や伸縮性があり、圧力生酒の製造時に欠かせない4000気圧の高圧処理にも耐えられる。通常のPETボトルと同様にフィルムを剥がして捨てられるので、リサイクルができるうえに、着色フィルムには日本酒の品質を守る遮光性や酸素バリア性の機能を付与できる。さらに、ボトルの表面に凹凸などの3次元加工もできるので、これまでにない高級感あるデザインを施すことができる。「一気に光明が見えた」と重松教授は当時の心境を語る。

コンソーシアムが2017年10月に製品化した「AWANAMA」は、遮光性や酸素バリア性を持つ黒い機能性フィルムを被せ、日本伝統の切子の模様が立体的にあしらわれている。一見、PETボトルには見えないほどの高級感が漂っている。国内の試験販売などでは、1本320ml(ミリリットル)、1,000円の商品が飛ぶように売れたという。

Complex Bottleの「AWANAMA」/ボトルのアップ・全体像・発泡したお酒の画像3点を掲載

Complex Bottleの「AWANAMA」

新技術を駆使して、低迷している日本酒業界の起死回生を図る

日本酒の国内出荷量はピーク時(1973年)には170万kl(キロリットル)を超えていたが、他のアルコール飲料との競合やライフスタイルの変化により、近年は50万kl台前半の水準まで減少している(農林水産省調べ)。日本有数の酒どころ、新潟県もその例外ではない。

この状況を打開するために、コンソーシアムは、3カ年の実証型研究開発プロジェクトとしてスタートした。新潟薬科大学に加え、金升酒造株式会社、新潟県醸造試験場、越後製菓株式会社が参加。DNPは翌2017年からコンソーシアムに参加し、容器の提供や市場調査などで重要な役割を果たしてきた。

インタビューに応える伊藤教授

コンソーシアムでマーケティングを担当する、新潟薬科大学副学長の伊藤満敏教授は、当初から新しい市場のターゲットを、日本酒離れが進む「若者」や「女性」、和食の世界的なブームを背景に日本酒の人気が高まる「海外」に絞っていた。「フルーティーで、ピリピリとした微炭酸がある搾(しぼ)りたての生酒は、若者、女性に受け入れられる。海外の消費者も同様だと考えました」と、伊藤教授は語る。

2018年10月初旬にパリで開かれた日本酒交流会「サロン・デュ・サケ」や、11月中旬に香港で開催されたアジア最大級の酒類専門見本市「香港ワイン&スピリッツフェア2018」に出展し、「AWANAMA」をアピールした。米国でも試飲会を行ったりしている。DNPもこれらのイベントに参加し、Complex Bottleを紹介している。

「コンソーシアムでは、ヨーロッパの食の中心であるパリと日本酒市場が広がりつつあるアメリカ、そしてアジアの指標として香港の3カ所に絞ったマーケティング調査を行いました。現地の反応は『こんなに生酒は美味しいのか』と、非常に高いものでした。我々は、生酒を、微炭酸がある『ライスシャンパン』と例え、食前酒として売り出していきたいと思っています。これができるのはComplex Bottle のおかげです」と、伊藤教授は言い切る。

Complex Bottleを使用した「AWANAMA」は非常に軽く、コンパクトで冷蔵庫に入るサイズ。通常のPETボトルと同様にスクリューキャップでそのまま飲むことができる。ガラスよりも軽いため、海外への輸送費も軽減できることから、実証実験が2019年3月に終了した後もさらに研究を進め、圧力生酒を実用化し、輸出拡大に努めたい考えだ。伊藤教授は、「2017年の日本による日本酒の輸出額は約186億円です。イタリアのワインの輸出額は1兆円超、フランスは約9,000億円で、桁が違います。日本酒の美味しさを考えると1,000〜1,500億円まで伸びる可能性はあると思います」と、輸出拡大に期待を込める。

日本酒はComplex Bottleで飲む、未来をめざして

DNP包装事業部の高橋利雄は、越後製菓の社長から教授に転身した伊藤教授とは30年来の付き合いだ。重松教授が学会でComplex Bottleを知ったのと同時期に、伊藤教授から容器について相談を受け、Complex Bottleを紹介していた。「メーカーの方からすれば、軽くて、割れにくいので輸送コストが軽減できる。消費者にとっては、持ち運びが便利なので、行楽の際や、新幹線などの交通手段で移動中に生酒を味わうことができる。また環境配慮の点においても輸送時のCO₂削減につながりますし、国内ではPETボトルのリサイクル環境が整ってますので、リサイクルしやすい。」と、高橋はその良さを語る。「PETボトルのイメージをすぐさま変えていくのは大変ですが、Complex Bottleの海外での評価が高いので、その情報が日本に逆輸入され、日本酒への採用が拡大することを期待しています」。今後は、伊藤教授の日本酒業界への広いネットワークに期待し、Complex Bottleの営業を強化していきたいという。

実験用の圧力機の前に立つ、伊藤教授(左)とDNP包装事業部の高橋さん(右)

重松教授(写真左)と一緒にプロジェクトに取り組むDNP包装事業部の高橋さん(写真右)

重松教授は、今後も圧力生酒の品質の向上や製造コストの削減に資する研究を行う予定だ。「今回のプロジェクトで、日本酒の容器としてのComplex Bottleの利点を思い知りました。DNPさんには、日本酒の容器はComplex Bottleがあたりまえという時代を作っていってほしい。私は、日本酒といえば高圧処理というのがあたりまえの世の中を作れるように、学生さんたちと頑張りたいと思っています」と語り、インタビューを締めくくった。

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