コールドチェーンの確立は社会課題解決への第一歩

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品質保持には、温度管理をした輸送が求められている

生鮮食品や工業品、医薬品を一貫して定温・冷蔵・冷凍で流通する仕組み「コールドチェーン」は、その確立が難しいと言われる。それは出荷から納品までの全ての段階で温度管理が必要だからだ。特に夏場は環境温度がどうしても上昇してしまうため、定温・冷蔵・冷凍状態の維持が難しい。コールドチェーンが断絶すると荷物の品質が劣化し、ロス率も上昇する。世界的な社会課題の一つ、“フードロス”の増加を招くことにもなる。

郵船ロジスティクスの「オープンイノベーション」でDNPと繋がる

郵船ロジティクス株式会社・第一総合開発営業部 佐藤広人氏の写真

「社会課題を解決して他社との差別化を図ることは、我々の至上命題です」と語るのは、郵船ロジスティクス株式会社・第一総合開発営業部の佐藤広人氏だ。同社は「オープンイノベーション」を掲げ、他社の技術を積極的に採用しているが、この社会課題の解決のために注目したのが、大日本印刷株式会社(DNP)独自のハイバリアフィルムを使った真空断熱パネルを応用した「DNP多機能断熱ボックス(以下:断熱ボックス)」だった。

郵船ロジスティクスは、2015年にDNPの断熱ボックスの採用を決定。以来、断熱ボックスをさまざまな案件で活用しており、佐藤氏がその営業を担当している。

「印刷会社と断熱ボックスのイメージが結びつかない」と思っていた佐藤氏だが、断熱ボックスを使った輸送実験でその性能の高さに驚いたという。それは、日本の高級イチゴをシンガポールに空輸する実験だった。配送先で開梱した時、イチゴの香りがあたりに立ちこめ「香りまで運ぶことができる」と、鮮度を維持できるこの輸送方法に確信を持った。

魔法瓶のような断熱ボックスを使った輸送とは

断熱ボックスを積んだトラックの写真

断熱ボックスは、水や空気を遮断するハイバリアフィルムを使った真空断熱パネルをボックス形状にしたもので、高い断熱性能を実現している。輸送時の電源が不用で、保冷剤やドライアイス、蓄熱材を使って荷物の温度を長時間、一定に保てる。いわば「魔法瓶」のような働きをするのが特徴だ。温度管理を必要とする荷物を断熱ボックスに入れて運べば、真夏の環境下での積み替え時や、冷凍・冷蔵機能を持たない常温車を利用した輸送でもコールドチェーンが途切れることはない。

郵船ロジ&DNPのタッグを組んだ営業

断熱ボックスの営業で佐藤氏とタッグを組むのが、DNPの高機能マテリアル事業部で営業を担当する山中剛だ。山中は、断熱ボックスを開発した技術者でもあり、この製品を熟知している。佐藤氏は、「我々だけでは十分説明できないところもあり、輸送方法を断熱ボックスへ切り替えるための荷主との交渉に、山中さんも同席してもらっています」と言い、“郵船ロジスティクスの物流設計”と“DNPの熱設計”のセットでの営業に意欲を見せる。

「特に、輸送温度を指定する医薬品などは、人の健康にも関わるだけに、実際の輸送経路でテストをしてエビデンス(効果的であることの根拠)を示さなければ採用にまで繋がらないのです」。断熱ボックスの採用には、荷主を説得できるだけの事例や実績が求められる。要求される温度で確実に輸送できるかを検証するための試験などにも2社で取り組んでいる。

物流設計のプロ 郵船ロジティクス 佐藤広人氏とタッッグを組む高機能マテリアル事業部 山中剛,輸送方法を荷主に考案

実現の鍵は「物流設計」と「熱設計」によるシミュレーション

近年、温度管理を求める輸送ニーズが高まっており、荷主の出す条件に断熱ボックスが活用できるかどうかの判断には、「物流設計」と「熱設計」を組み合わせたシミュレーションが欠かせない。

輸送中の環境温度、荷物のサイズや量、輸送距離や時間などの「物流設計」を基に、荷物の温度を一定に保つための保冷剤の量を「熱設計」ではじき出す。ここで強みを発揮しているのが、DNPが独自に開発した熱設計用のシミュレーションソフトだ。細かい条件設定をすることができ、精度の高いシミュレーションが行える。

東南アジアでの挑戦

現在、営業の重点を置いているのは、保冷インフラが十分に整備されていない東南アジアだ。フィリピンでは最近、断熱ボックスにアイスキャンディーを入れ、常温車で輸送する実験をした。「四角いアイスが輸送中に溶けて丸くなるような事態は、断熱ボックスを使うと避けられます。実験はうまくいっています」と山中。東南アジアの市場に可能性を見出している。

たくさんのアイスキャンディーが並んでいる写真

効率性と環境保全を両立

郵船ロジスティクスは、国内配送への断熱ボックスの採用も検討している。通常、低温の輸送には保冷コンテナや保冷トラックを使用するが、荷物が少量の場合、満載せずに輸送することが多く、それが輸送料金に影響してしまう。しかし、断熱ボックスを使えば、保冷が必要な100kg程度の少量荷物を常温車に混載して低温輸送することができる。これによって保冷車の手配が不要となり、近年の危機的なドライバー不足の解消にも役立つ。

また、断熱ボックスや保冷剤は繰り返し使用できるため、使用後に廃棄される“ワンウェイ資材”と比べて環境にも優しい。

運送社の中を断熱ボックスを積むことによってチルドと常温に分けている図,普通の運送社を冷蔵社として活用できる,

DNPのさらなる技術を活用し、断熱ボックスの普及を目指す

佐藤氏は、「より多機能な断熱ボックスにしていくために、DNPさんのIoTなどの先端技術を活用し、競合他社との差別化を図りながら、『未来のあたりまえ』を一緒に作っていきたいと思います」と言い、まずは実績を積み上げ、認知度を高めていく予定だ。

山中は、「断熱ボックスを拡販する中で、最初のパートナーとなっていただいたのが郵船ロジスティクスさんです。我々の技術を実際に運用いただくことで、運用で得られる情報とリンクさせて、我々の技術がどのように役立つのかを一緒に考えていきたい」と、断熱ボックスを利用した新サービスの創出に意欲を燃やしている。