熱狂的なファンを生み出す
ヤッホーブルーイングのファンベースの取り組みとは

“ビールに味を!人生に幸せを!”をミッションに掲げるクラフトビールメーカー、ヤッホーブルーイング。オウンドメディアやSNSでの積極的な交流、ビールファンが一堂に会するイベント「超宴」の開催などの施策を数多く打ち出し、熱量の高いファンに支持されています。同社はSNSを活用したオフラインイベントなどのファンコミュニケーションを継続し、ファンの声を最大限に活用する取り組みに挑戦しています。
今回は、出版イノベーション事業部 CLMビジネスセンター CLM企画本部 ファンコミュニティビジネス開発部の山田 洋介が、ヤッホーブルーイング コンシューマー事業部門で事業統括をされている望月氏にお話を伺いしました。
2023年1月公開

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望月拓郎氏
ヤッホーブルーイング

コンシューマー事業部門 事業統括
人材ベンチャーの創業に携わった後、2009年に成長前夜のヤッホーブルーイングに入社。EC店長となり、楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤーで10年連続受賞のほか、多店舗展開、SNSの取り組み、バックヤード改革を進め、EC事業の基盤を作る。2018年より、コンシューマー向け事業全般の事業統括に就任。運営サイト「よなよなの里」は、2021年全国ネットショップグランプリを受賞。

ピンチから生まれたヤッホーブルーイングのファンベース

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山田:ヤッホーブルーイングのファンベースの取り組みについて教えてください。

望月:元々狙ってファンベースを戦略として展開しはじめたわけではありません。昔から経験則的にやっていたことを後付けで振り返ってみるとファンベースだよな、ということです。
私が入社した2009年当時は、地ビールブームが終わった直後ぐらいで、店頭で商品を扱ってくれるお店が、軽井沢以外では一切なくなってしまっていました。ビール会社ですので販売手段は、お客さんの目に触れて手に取って商品を認知していただいくという形なのですが、それが一切できない状態になってしまっていました。販路がないという状況の中で、唯一望みをかけてやったのが、楽天市場への出店でした。

当時、商品数がすごく少なく、プロモーションしたくても売る商品が「よなよなエール」と「軽井沢高原ビール」ぐらいしかありませんでした。お客さんに告知をする場合も、毎回同じビールを告知し続けるのは難しく、苦肉の策として、うちの代表(井手直行氏)が、自分のビールがいかに美味しいか、いかにこのビールが大好きなのかを暑苦しく、面白おかしく伝えるというスタイルでメルマガを送っていました。その中で、楽天市場のショップ・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。手前味噌ですがビールはとっても美味しくて、メルマガをはじめ、お店の運営やプロモーションが面白い。それを楽しむお客さんがついてくれていました。

山田:お客さんとのコミュニケーションの手段はネットが中心だったのでしょうか。

望月:ネット上でのプロモーションをお客さんが熱く支持してくれている。そこから、「もっと楽しんでいただくには一体何をしたらいいのだろう」という発想の転換になりました。そこで、「まずはお客さんに会ってみないと始まらないよね」と行ったのが飲み会です。新製品の発表会にお客さんを招待したところ、これが大変な盛り上がりに。ネットを通じてプロモーションを行うとお客さんの支持がすごく強いというのを感じていましたが、リアルにお客さんと対面してコミュニケーションする取り組みを行うと、ものすごく喜んでくれるということに気づきました。2011年頃のことです。

山田:お客さんとのリアルコミュニケーションがファンベースの基礎となっていくのですね。

望月:基本的に我々の商品はお酒ですので、飲んだ人がちょっとハッピーになる商品です。だから、商品を通じてお客さんと体当たりでコミュニケーションをしようとすると飲み会という場になります。乾杯するとお客さんとの距離もものすごく近くなれます。これがヤッホーの打ち出し方とカチッとはまって、この路線で間違っていないと感じました。そこから「超宴」という巨大な飲み会を何度も開催しているのですが、うちの商品を使って、一緒に楽しみながら、クラフトビール文化を広げていこうというスタイルに、お客さんもシンパシーを感じてくれます。お客さんに楽しんでいただくのが、会社の成長に繋がるのではないかと思い始めた瞬間でした。

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仮説からファンベースの体系化へ

山田:ファンマーケティングが成功したポイントはどこにあるのでしょうか?

望月:はじめは実体験に基づいた仮説でしたが、それが徐々に理論的になっていきました。創成期の後に、実際に顧客調査をしたことがあります。はじめは店頭でジャケ買いです。世界観やデザイン、ネーミングに共感したお客さんが1回飲んで、美味しい、味も香りもいいと「機能的価値」で飲み続ける。

ただ、それ以上によなよなエールが好きだと言ってくださるお客さんは、よなよなエールに癒されるというイメージを抱いていたり、よなよなエールが好きという判断に自己確信を持たれていたり、同じビールが好きな仲間を求めていたりという「情緒的価値」を感じてくれていたのです。それがさらに進んでイベントに必ず来てくださるコアなお客さんのような段階になると、商品が好きなのは当たり前で、その商品を作っているメーカーのミッションやスタッフ、顧客対応も評価をしてくれる。こういうことが経験と調査で明らかになってきました。

僕らが今取り組んでいるのは、情緒的価値を感じてくれる方、会社のミッションに共感してくださる方に喜んでいただいたり、納得していただけたりするイベントやECでのコミュニケーションのポイントとしてやり続けているという認識です。

山田:本来であれば酒屋さんに卸してしまえばお終いであったところ、楽天市場で店舗を構えたり、ECをはじめたというのは今で言うBtoCですよね。最初から狙ったわけではなく、背水の陣から生まれた小さな成功が、この話のスタートラインだと感じます。今回、せっかくお伺いするのでよなよなエールを飲んだのですが、295円(税込)とプレミアムビールよりやや高いですよね。結局のところ、情緒的価値や作り手への共感がないと、ユーザーには30円、40円分の価値として認識されないだろうなと思います。逆に世界観や機能的価値は、どこのメーカーでもある程度のところまではもっていけるのではないでしょうか。恐らく、その先の情緒的価値や作り手への共感というところまでいかないと差別化ができないのではないかと感じました。まず世界観やデザイン、ネーミングを評価している人がいないとスタートしない。そういうところが小さな成功の一つだと思います。

望月:その通りだなと思います。商習慣上、基本的にダイレクトにはお客さんに売らない世界です。ただ、お店で売ってくれなくなっちゃったので致し方なくECをはじめましたというのが、楽天市場ができた年。日本国内でECがスタートした元年みたいな段階からずっとECをやってきているというのは、ビール業界の他メーカーさんと比べると、一般のお客さんとの繋がりがはじめから圧倒的にあったわけです。基本的なユーザベースがはじめからそちら寄りだったというのが、ビール業界の中でのヤッホーブルーイングの大きな特徴ですね。

山田:「情緒的価値」や「作り手への共感」を得ようとするって、大手ビールメーカーのマーケティングの弱みや隙を突いているようにも見えるのですが、そうすると逆に販路が狭くなってしまいます。狭くなることでデメリットもあるのでは?

望月:EC単独で見ると、販路も狭くなりますし、できることも限られます。元々、僕らは企業体力自体が低くて、大手メーカーのようにはPRができないです。なのでネットの中でできることをやってきたのですが、ただネットオンリーでやっていると販路が狭くなるという点については、時代の方が変わってきました。店頭で流通させる商品を決めるバイヤーの方は、もちろんそれまでのPOSデータや売れ筋の商品をすごく調べられているのですが、その中の有力な情報源の一つとして、ネットでの売れ筋商品が加わるようになったのです。楽天市場でショップ・オブ・ザ・イヤーが取れるようになった頃で、楽天市場では僕らのビールが一番売れているわけです。リアルなバイヤーの判断に、ネット上の売れ筋商品の需要が影響を及ぼすような変換点が2010年頃にあったなという感覚があります。

SNS普及がファンベースを後押し

山田:SNS普及などもお客さんとの関係に影響があったのでしょうか。

望月:Twitterがはじまり、Facebookがはじまり、個人のお客さんの生の意見がネット上に出回りはじめました。僕らはECをやっていたので、SNSも全部手掛けていて、そうすると、みんながよなよなエールを飲んで楽しんでくれているらしいというのがユーザー発の意見として見える化されてきました。さらにその状態に拍車をかけて、今ではネット上、SNS上にUGC(企業側ではなく、ユーザー側の発信によって成立するコンテンツ。以下UGC)がたくさん広がっていて、それが流通マーケットに何を採用するかを決める大きな要因になっています。こうした転換点もヤッホーのプラスに働きました。流通でご採用いただき、店頭に置いていただけるようになると、ネットとは違った広がりが生まれ、そこで飲んだ方がまたネット上で発信していただけるというようにぐるぐる回りはじめました。きっかけはインターネットですが、そこが流通に波及して、流通に波及したら、またネットの方に波及する。そうした相乗的な効果が2010年代中旬から後半にかけて起こり、今の状態に至った感覚です。

山田:SNSでどれだけ発信されたか、つぶやかれたかというのをKPIにされているのでしょうか?

望月:そうです。ネット上では、日常的にお客さんに楽しんでいただけるようなやり取りや発信を継続しているので、ここぞという時にネット上でプロモーションすると反応が爆発します。これが最近の定番のパターンになっています。日常的にお客さんに楽しんでもらいつつ、いざという時の新製品のプロモーションでネット上の反応が高まる瞬間があります。その時に山田さんがおっしゃった、お客さんの反応がどれだけSNS上やネット上にあるかというのを、今では基本的なKPIとしてやっています。

UGCがどれぐらいあるのかに着目していて、こちらがプロモーションするとどんどんUGCが出ます。UGCが一つ出るだけでそのお客さんのフォロワーに伝わるので、かなり大きな露出効果があると思います。1個出たUGCに対して、ずっとエゴサを行い、その人たちにコミュニケーションを取っていくという活動をしています。

山田:企業の中にはお客さんとのSNS上でのコミュニケーションを避けることも多いと思います。

望月:確かにそれを怖がられる会社さんが多いと思いますが、商品特性や会社特性、経験値があるので、「よなよなエール、美味しいね」というお客さんのUGCに対して、公式アカウントから「ありがとうございます。来月この店でイベントをやりますから、ぜひ来てくださいね」、商品のことが知りたい的な発信をされているお客さんがいらっしゃったら「より詳しい説明はサイトのここにありますから、よろしければ見てくださいね」など、何かしらの提案を含めた反応をするとお客さんが非常に喜んでくれるということがわかっています。

そうやってお客さんに反応することで、「公式さんからリプがありました」とまた投稿してくれたりする場合、もう1UGCになります。僕らがコミュニケーションを取ればとるほど、お客さんにも喜んでいただけて、メルマガの登録会員が増えて、ロイヤルティも上がっていく。これを「絆を深めるコミュニケーション」と呼んでいます。

ファンと継続的な関係性を構築するために

山田:今後、さらにファンを獲得していくために考えている施策はありますか?

望月: ネット上でお客さんとの接触を作るというのは第一段階としてはライトですごく良いものです。しかも何回も接触できて、商品に関する認知が上がっていき、ヤッホーに対する親近感が上がっていったところに、イベントなどリアルな接触があると、お客さんの熱狂度が一気にグッと上がります。なので、イベントはそういう使い方としても非常に効果的で、ヤッホーの得意とするところでした。それがコロナ禍でこの3年間、イベントができない状況に。

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望月:うちが最も得意とするリアルなイベントが封じられてしまったので、オンラインでのイベントを一生懸命やっていたのですが、ついにリアルなイベントが解禁されるような状況になっていくと思うので、今年以降、ヤッホーブルーイングの工場見学、ビアパブを使ったイベントなど、できる範囲のリアルイベントを再開していこうかなと思っています。今までは抑制気味にやっていたところを大きく打ち出してできるようになりつつ、先ほど話に出た対顧客のコミュニケーションをやってけると、狙っていたKPIに効いていくのではと考えています。

山田:オウンドメディアも充実していますね。

望月:自社EC「よなよなの里 」では、記事もたくさん執筆していて、季節に合わせた楽しみ方などさまざまな切り口の読み物があるので、SNSでの発信や読み物からも商品に触れていただけたらうれしいですね。

山田:これも僕らが提供していきたいとサービスや方向です。どんな人がどんな気持ちになって、その後どうしたらいいかということがホームページのコンテンツにダイレクトにリンクしていますよね。それはコンテンツに関して言うと、SNSで掴めている、顕在化しているファンが喜ぶようなものが一つの編集方針になっていくという感じなのでしょうか?

望月:お酒を通じてお客様に楽しんでもらうというと、いろいろな切り口と打ち出し方がありますが、僕らは一つに決めずにいます。よなよなエールが提供する価値として、「個性的で美味しい」「お手軽・気楽である」「気持ちよくなる・癒し」「未知への好奇心」「仲間とのつながり」「異なる趣味との掛け合わせ」というものがあります。

特に異なる趣味との掛け合わせが面白く、いろいろなタイプの記事を出したなかで、「アウトドア×ビール」「料理×ビール」、ビールに合う缶詰やポテトチップスを検証する「ビールペアリング」、「銭湯×ビール」など趣味系コンテンツとの掛け合わせは、お客さんからの反応も良く、今力を入れているところです。

すべての業界に通じる大事な視点

望月:本日お話したのは、ビールという商品特性と、お客さんに楽しんでもらいたい、ビールを通して仲間になりたいという会社のスタンスが呼んでいる特殊な事例だと思うので、当然すべてのメーカーさん、企業様でまねできることではないと思います。ただ一般論で言うと、販売されている商品には、買ってくださっているお客さんがいらっしゃるわけで、「なぜお客さんがうちの商品を買ってくれたのか?」が大事だと思います。それがたとえどんな小さな店舗であれ、ニッチな商品であれ、買ってくれたお客さんがどこにフックして、競合製品がいっぱいあるなか、なぜそれを買ってくれたのか、なぜこの店舗を選んでくれたのか、というところから掘り起こしていくと強みが見つかるものだと思います。

我々の場合は、たまたま商品がビールで、お客さんに楽しんでもらうのがちょっと得意で、しかもまだ世の中的にはニッチなエールビールを広めていきたいという志も含めて、フックしやすかったのだと思います。しかも一緒に広めていきましょうというスタイルで喜んでいただけて、お客さんとの関係を結びやすい状況にありました。そこに気づいて、同じビール好きの仲間を作っていくことを一生懸命やり続ける。ここが突破口だったのでしょう。形は違えども、いろいろな業界で、その会社なりのやり方を見つけようと思えば、何かしら必ず見つかると思います。

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