AI-OCRによる業務効率化
~不動産・住宅設備業界における導入事例~

近年では、DXの潮流もあり「紙による業務処理」から「デジタル技術を利用した業務」への変革を図る企業が増えています。このような紙による業務の解消に有効なのがAI-OCRです。さまざまな分野で利用が進むAI技術ですが、OCRにAI技術を活用することにより、高い精度で紙書類の読み取りが可能になります。
一方で、AI-OCRという新しい取組みが自社のどのような業務に有効なのか、イメージが湧かない方も多いのではないでしょうか。そこでこのコラムでは、不動産・住宅設備業界における具体的な事例とともに、AI-OCRの活用領域について解説します。

目次

1.AI-OCRの概要
2.不動産・住宅設備業界におけるAI-OCRの導入事例
3.AI-OCR活用のポイント
4.まとめ

1.AI-OCRの概要

AI-OCRとは

OCRにより、手書きや印刷された文字を、スキャナーなどで読み取り、コンピューターが認識できるデジタルデータに変換することができます。近年では、AI技術を利用してOCRの精度を向上させたAI-OCRが普及し始めています。AI技術を利用することで、文字の読み取り精度が向上し、より実用的な活用が可能になります。

※OCR:Optical Character Recognition/Reader(光学的文字認識)

なぜAI-OCRが注目されているのか

ディープラーニングの登場により、特に画像処理におけるAIの処理能力は人間が目視で判断するものと同等の水準まで向上しました。このような背景から、製造・流通・販売・バックオフィスなど領域を問わず、ビジネスにおけるAI技術の利用が進んでいます。
これまでビジネスにおけるOCRの利用は大量・定型的な処理など限定的な範囲にとどまっていました。一方で、AIの活用により読み取り精度が大きく向上したAI-OCRは、幅広いビジネス領域で利用できるようになりました。
折しも、DXの潮流におけるデータ活用や、改正電子帳簿保存法による帳票・書類のデジタルデータ化などのトレンドとあいまって、AI-OCRの活用が注目されています。

※ディープラーニングとは、ニューラルネットという技術を応用したAIを実現するための手法の一つ。従来の手法より大幅に性能が向上したことから注目されている。

2.不動産・住宅設備業界におけるAI-OCRの導入事例

それでは、AI-OCRは具体的にどのように活用できるのでしょうか。不動産・住宅設備業界におけるAI-OCRの導入事例をもとに、その効果についてご紹介いたします。

総合不動産会社A社の事例

課題
総合不動産会社として長い歴史を持つA社では、紙による業務処理に課題を感じ、AI-OCRを導入しました。不動産業界は紙文化が非常に根強く、契約書や請求書などの多くは紙でやり取りされています。具体的には、同社では7〜9名の社員が年間でおよそ3,000枚の契約書と、9,000枚の請求書を入力処理している状況でした。手入力での業務はミスの発生など、効率の悪い業務でした。

AI-OCRによる改善効果
そこでA社では、AI-OCRにより請求書や契約書のデジタルデータ化を行いました。
これにより、例えばこれまでマンション1棟あたり5~6時間をかけて処理していた契約書の入力作業が、わずか30分で可能に。また、毎月2時間かけて入力していた請求書のデータ化処理も20分で完了できるようになり、業務効率化につながりました。

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設備工事会社B社の事例

課題
建築設備をはじめ、さまざまな領域に事業展開を行うB社では、自社の業務分析を実施したところ、膨大な紙の資料を活用できていない課題が明らかになりました。
請求書は人手でデータ入力した上で、すべてファイルに綴じて保管しており、月に100時間もの作業時間が必要でした。また、現場のヒヤリハット報告書や工事完成図書などもすべて紙で保管していたため、ファイルから対象の書類を探すのに時間がかかり、活用が進んでいませんでした。

AI-OCRによる改善効果
そこでAI-OCRの導入を実施し、紙の請求書はAI-OCRでデジタル化した上で、会計システムと社内データベースに登録。あわせてRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)も活用して、システムへの登録作業を効率化しました。
現場でのヒヤリハット報告書については、これまでに蓄積された600枚をデータ化。今後、どのような現場で、どのような事故が発生しているのか、分析を実施していく予定です。

不動産管理会社C社の事例

課題
賃貸物件の管理業務を行っているC社では、FAXで届く入居申込書の入力業務に負荷がかかっていました。
特に、入居申込書は手書きであるため、文字がつぶれていたり、読みにくかったりすることが多いという課題も。入力作業は時間的にも精神的にも負担が大きかったといいます。

AI-OCRによる改善効果
そこでAI-OCRのトライアルを実施したところ、人と同等の精度で読み取りができたことから、導入を決定。入居申込書の入力作業をAI-OCRにより自動化しました。
住所や名前は難読漢字が利用されていることも多く、人が実施するとどうしても漢字を探し当てるのに時間がかかります。一方でAI-OCRは、自動で漢字を割り当ててくれる点が大きなメリットでした。
さらに、不動産業界では行政からの指示がFAXで届くケースも多いですが、AI-OCRでデジタル化した上で読むことで、業務を効率化できるという副次的な効果も得られました。

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3.AI-OCR活用のポイント

それぞれの事例を通して、AI-OCRを活用するポイントはどこにあるかを以下で整理します。

人手による最終チェックを実施する

AI-OCRは高い精度でデータの読み取りが可能ではあるものの、その精度はいまだ100%に達するまでには至っていません。いずれの事例においても、最終的に人手で確認しています。
業務フローを設計する際、人手による確認のための工数を設けることも考慮すべき点であります。

RPAなどと組み合わせて利用する

AI-OCRと組み合わせて導入したいのが上述したRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)です。AI-OCRで読み取ったデータはそのままでは利用しにくく、スプレッドシートでの集計やシステムへの登録を実施することが一般です。RPAを用いることで、このような作業も自動化できます。
例えば、データ活用の取組みを進めていく上でも、AI-OCRとRPAの併用が有効でしょう。読み取ったデータをもとに、データ分析・可視化などを実施していく場合、データベースに読み取ったデータを蓄積していくことが望ましいです。データベースへデータを蓄積すれば、時系列分析や情報の検索などもしやすくなります。
この際、AI-OCRで読み取ったデータを、RPAによって自動でデータベースのフォーマットに整形し、登録できるように設計します。データの加工や修正、アップロードなどは手間がかかる作業ですが、RPAによってこれらの負荷を軽減できるでしょう。

トライアルによる精度の確認

AIを利用した取組み全般に言えることですが、AIは実際に対象とするデータの質や量により、その精度が大きく変わる点に注意しなければなりません。
よって、AI-OCRを導入する際には最初にトライアルを実施し、十分な精度が得られるかを確認することがポイントになります。トライアルを実施した上で、十分に実用に耐えられる精度が得られることを確認の上、本番運用を開始することで、失敗するリスクを減らすことができます。

4.まとめ

このコラムは、不動産・住宅設備業界を対象に、具体的な事例を通してAI-OCRの活用方法について紹介しました。AI-OCRを導入することで、紙を用いた手作業での業務を解消し、業務の効率化を実現することができます。
一方で、AI-OCRの導入にあたっては、関連する業務プロセスの見直しも含めて検討することも重要です。業務プロセスの見直しにより、より効果的に業務の効率化を実現することができます。AI-OCRの導入を検討される際には、導入対象とする業務はもちろんのこと、関連する業務についても非効率なプロセスがないか、再点検してみることをおすすめします。

DNPは顧客の真の課題を洗い出し、さまざまなツールやサービスを組み合わせて「個客」にとって最適な解決策をご提案します。

例えば、AI-OCRソリューションとDNPのBPRコンサルティングサービスを組み合わせていただくことで、電帳法(電子帳簿保存法)に対応しつつ業務全体の最適化を実現します。DNPのBPRコンサルティングサービスでは、業務内容、改善ニーズなどに応じて、実施・運用フェーズを見据えたプランニングを行います。業務の再構築やAI-OCR活用により、お客さまの時間資源の創出をご支援いたします。
AI-OCRの導入はもちろん、業務革新を検討される際にはぜひDNPにご相談ください。

※2022年11月時点の内容です。

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