もはや目視は通用しない?「犯収法改正」から見る対面本人確認のリスクと対策

近年、巧妙に偽造された本人確認書類を使った「なりすまし」は、企業活動における重大な脅威となっています。金融庁もフィッシングなどによる不正送金被害の急増に警告を発しており、その手口は巧妙化する一方です。なぜ、こうした不正を防げないのか。その大きな理由が、長年行われてきた「目視による本人確認」です。この脆弱性に対応し、犯罪インフラを断ち切るため、政府は「犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、犯収法)」の改正に踏み切りました。2027年4月(予定)の施行が迫る中、従来の本人確認プロセスは根本的な見直しを迫られています。
本コラムでは、この犯収法改正によってなぜ「目視確認」が通用しなくなるのか、その理由と企業に求められる具体的な対策を紹介します。 (2025年11月時点の情報)

1.巧妙化する身分証偽造の脅威

近年、本人確認書類の偽造はますます巧妙化しています。警察官が偽造運転免許証で銀行口座を開設しようとした事件や、新型コロナウイルスの影響で職を失った外国人が偽造在留カードを密売し、不正就労に関与するケースなどが報告されています。

近年、本人確認書類の偽造は高度化し、従来の目視確認では真偽の判別が困難な状況にあります。実際、偽造された運転免許証を用いて銀行口座を開設しようとする事件や、失業した外国人による偽造在留カードの密売、不正就労への関与といった事例が報告されています。こうした偽造書類は細部まで精巧に作られ、経験豊富な担当者であっても見抜くことが難しいのが現実です。

2024年6月に警察庁が明らかにした分析によれば、特殊詐欺に悪用された携帯電話回線のうち、運転免許証で本人確認を行ったケースでは、約7割が偽造免許証によるものでした。さらに、ICチップを搭載しているマイナンバーカードでさえ、目視確認に依存するサービスを狙った偽造品が流通しており、対面確認の限界が浮き彫りになっています。このような状況下では、金融機関での不正口座開設や高額取引に巻き込まれるリスクが高まり、知らぬ間に犯罪に加担してしまう危険性があります。
本人確認は、犯罪収益移転防止法に基づき、犯罪組織やテロ資金の流入を防ぐために行われる重要なプロセスです。しかし、目視確認だけに頼る現行の仕組みでは、その法目的が揺らぎかねません。

こうした背景から、ICチップの読み取りや専用ツールによる真贋判定など、技術的な裏付けを備えた本人確認の導入が不可欠となっており、政府は犯罪対策を強化しています。

国民を詐欺から守るための総合対策

犯罪対策閣僚会議では、犯罪者のツールを奪うための施策のひとつとして、「マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証などを送信する方法や、顔写真のない本人確認書類などは廃止する。対面でもマイナンバーカードなどのICチップ情報の読み取りを犯罪収益移転防止法及び携帯電話不正利用防止法の本人確認に置いて義務付ける。」としています。

※参考:国民を詐欺から守るための総合施策(犯罪対策閣僚会議 2024年6月18日)
※参考:金融庁ホームページ「金融庁からのお願い・注意喚起」

2.犯収法改正が示す「本人確認」の転換点

2027年4月に施行予定の犯収法改正は、本人確認の在り方に大きな変化をもたらします。今回の改正では、従来の確認手法の一部が廃止される一方で、より信頼性の高い確認方法の導入が義務化されるなど、制度面での大きな転換が図られます。

非対面での本人確認

「書類の画像送信」や「郵送による確認」といった偽造リスクの高い手法が原則廃止され、代わってICチップの読み取りや公的個人認証(JPKI方式)など、より信頼性の高い手法への移行が求められるようになります。

区分 内容 改正後の対応
廃止 ホ方式(身分証撮影+セルフィー) 原則廃止
廃止 リ方式(書類2点+郵送) 原則廃止
義務化 ICチップ読取方式 原則導入
義務化 公的個人認証(JPKI方式) 原則導入

特に公的個人認証(JPKI)は、マイナンバーカードのICチップに搭載された電子証明書を利用する、公的個人認証法にもとづく仕組みです。この方式が信頼される根拠は、「秘密鍵」と呼ばれる暗号化のための重要なデータがICチップ内に安全に格納されており、不正に読み出そうとすると自動的に消去されるなど、高度な改ざん耐性を持っている点にあります。

※参考:デジタル庁ホームページ「公的個人認証サービス」

対面での本人確認

非対面だけでなく、対面における本人確認についても見直しが進んでいます。

従来、顔写真付きの本人確認書類を提示してもらい、目視で本人と照合する方法が主流でした。しかし、近年の偽造技術の進化により、外見だけでは真偽の判断が難しくなってきています。実際に、偽造された運転免許証やマイナンバーカードが巧妙に作られ、対面であっても見抜けない事例が報告されています。特にマイナンバーカードの場合、券面(カードの見た目)が本物のように見えても、ICチップ自体が偽造されている場合、それを見抜くことは目視だけでは困難です。こうした背景から、今後は対面であってもICチップ情報の読み取りや、本人確認書類の厚みや質感まで確認できる専用ソフトウエアの活用が推奨されるようになります。例えば、デジタル庁は事業者向けに「マイナンバーカード対面確認アプリ」をリリースしています。このアプリは、窓口担当者のスマートフォンで、利用者の暗証番号入力なしにICチップを読み取り、チップ内の情報と券面の情報を照合することで真贋判定を補助するものです。

つまり、「対面だから安心」という時代は終わりを迎えつつあり、対面確認にも技術的な裏付けが不可欠な時代となったのです。これらの変更は、犯収法施行規則および犯収法施行令の見直しによって具体的な運用方法が定められる予定であり、金融機関や不動産業者などの特定事業者にとっては、業務プロセスの抜本的な見直しが急務となっています。

参考:警察庁ホームページ「犯罪収益移転防止法の解説、パブリックコメント」
参考:一般社団法人全国銀行協会(全銀協)ホームページ「犯罪収益移転防止法に関するよくある質問・回答」
関連コラム:【携帯電話契約】対面本人確認でのICチップ読み取りが義務化

3.対面本人確認のリスクと今後求められる対応

対面本人確認には以下のようなリスクが存在します。

●偽造書類の精巧化:高度な印刷技術や素材の模倣により、見た目では本物と区別がつかない偽造書類が増加。
●確認者のスキル依存:本人確認を行うスタッフの経験や知識に依存するため、確認精度にばらつきが生じる。
●人的ミスの可能性:忙しい現場では確認作業が形式的になり、見落としが発生するリスクがある。
●法令違反のリスク:偽造を見抜けずに不正な口座開設などを許可してしまうことは、犯罪組織への資金流入を防ぐという犯収法の目的 を果たせないことを意味し、法令遵守(コンプライアンス)上の重大な問題となります。

これらのリスクは、企業の信用を損なうだけでなく、法令違反による行政処分や損害賠償にもつながりかねません。まさに、こうしたリスクへの対策として、犯収法改正は、本人確認の「真正性」を確保するための制度的な転換点です。今後の対面確認では、以下のような対応が求められるでしょう。

●ICチップの読み取り:運転免許証やマイナンバーカードなど、ICチップ付きの本人確認書類を専用端末で読み取ることで、書類の真正性を確認。
●専用ソフトウエアの導入:本人確認書類の印刷特徴などを検知できるツールを活用し、目視では判別できない偽造を防止。
●確認プロセスの記録化:確認時の操作ログや画像記録を残すことで、後からの検証や監査に対応可能にする。

4.対面による本人確認業務には「ID確認システムPRO」がおすすめ

法令が求める「真正性」の確保(ICチップ読み取り)と、現場が抱える「偽造リスク」への対策は、特定事業者にとって喫緊の課題です。これら双方の課題に対応するソリューションとして、DNPアイディーシステムが提供する「ID確認システムPRO」があります。本システムは、犯収法への厳格な対応が求められる金融機関を中心に導入が進んでおり、累計販売台数は2,000台を突破。そのうち1,000台以上が金融機関における実績です。

改正犯収法・偽造対策に対応「ID確認システムPRO」

ID確認システムPROは、マイナンバーカードや運転免許証のICチップ読み取りに対応し、券面情報が改ざんされていないかといった「真正性」の確認を技術的にサポートします。さらに、券面スキャンによる画像データの解析機能も備えており、目視では困難な精巧な偽造の判定を補助します。マイナンバーカード、運転免許証、運転経歴証明書、在留カード、特別永住者証明書、パスポートの全6種類の顔写真付き本人確認書類に対応可能です。ICチップの読み取りと高精度の券面チェックをひとつのシステムで行うことで、偽造身分証による不正な口座開設 や契約を未然に防ぎ、窓口業務の法令遵守と安全性向上を実現します。

運転免許証・運転経歴証明書の真贋判定フロー動画

動画:ID確認システム PRO 運転免許証編 偽造運転免許証をICの暗証番号を入力しないで見破れることが特徴(1:23)

※関連資料:デジタル庁ホームページ「マイナンバーカード・インフォ(民間事業者向けお役立ち情報)」

5.まとめ

2027年4月に施行される犯収法改正は、本人確認の在り方を根本から問い直す契機となります。非対面手法の見直しだけでなく、対面確認においても「提示だけでは不十分」という認識が広がりつつあります。
今後は、対面・非対面を問わず、本人確認には技術的な裏付けが不可欠な時代となります。企業は、法令対応だけでなく、顧客の安全と信頼を守るためにも、本人確認の精度向上に向けた取り組みを早急に進める必要があります。

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