転売ヤー問題の深層:「古物商」の責任とは?リユース市場の信頼を守る本人確認の最新防衛策

近年、限定スニーカーやゲーム機、ライブチケットなどを狙った「転売ヤー」による高額な再販が社会的な関心を集めています。こうした行為は、単なる市場の需給バランスを超え、消費者やブランドからの不満を高めています。一方で、中古品の流通を担うリユース市場は、環境保護や循環型社会への貢献という側面から重要な役割を果たしています。この市場のプロフェッショナルである古物商は、「転売・せどり」と一線を画し、古物営業法という明確なルールの下で事業を営んでいます。では、社会問題化する転売行為と、古物商が扱う健全な中古品取引は何が違うのでしょうか?そして、リユースのプロとして、不正品流通のリスクにどう立ち向かうべきなのでしょうか?
本コラムは、古物商・リユース業界の担当者様向けに古物商が厳格な本人確認を徹底する理由とその最新の対策について解説します。(2025年11月時点の情報)

1.古物商とは何か?「転売」と「プロの責任」の境界線

古物商とは、古物営業法にもとづき、中古品の売買や交換を行う事業者のことです。営業には、都道府県公安委員会の許可が必須であり、その最大の目的は「盗品の流通防止と被害回復」にあります。

(1) 古物商と転売・せどりの決定的な違い

「転売ヤー」は営利目的で高額に再販する個人を指すネガティブなニュアンスで使われることが多いのに対し、「せどり」は中古品を安価に仕入れて適正な利幅を付けて再販する行為を指すことがありますが、古物商は法律にもとづき社会的な信用を認められた事業者です。「転売」や「せどり」といった名称に関わらず、中古品を反復継続して仕入れて販売する行為は、その規模や利益に関わらず、原則として古物営業法上の「古物営業」に該当し、古物商許可が必要です。この許可こそが、「違法な盗品流通に関与しない」という社会的な信用の証明となります。
古物商許可を持たずに中古品の継続的な売買を行う場合、法律違反となるリスクがあります。特に、盗品や偽造品の流通に関与すれば、刑事罰の対象にもなり得ます。古物営業法に違反した場合、古物商やその従業員には、古物商市場における古物商間以外の取引に対して1年以下の懲役または50万円以下の罰金が規定されるなど、重い刑事罰が科される可能性があります。事業の透明性確保は、法的リスク回避の観点から必須要件です。

古物営業法における主な違反行為と法定刑(罰則)
違反行為の類型 罰則(懲役/罰金) 法的リスクの根拠
古物商市場以外での古物商間以外の取引(無許可営業等) 1年以下の懲役 または 50万円以下の罰金(併科あり) 古物営業法違反
許可証・行商従業者証の携帯義務違反 6カ月以下の懲役 または 30万円以下の罰金(併科あり) 古物営業法違反
許可標識の不掲示義務違反 30万円以下の罰金 古物営業法違反

参考:古物営業法施行規則 | e-Gov 法令検索

(2) リユース市場拡大の裏側にある「犯罪リスク」

フリマアプリやネットオークションの普及で誰でも簡単に中古品を売買できるようになった結果、古物営業法の規制の網をかいくぐる無許可営業者や、匿名性の高い取引を利用した盗品、偽造品の流通リスクも同時に高まっています。古物商がこれらの不正品を買い取ってしまった場合、それは最大の信用リスクとなり、被害者への補償問題、そして警察からの調査協力など、事業継続に大きな影響を及ぼします。

2.なぜ本人確認が「必須」なのか

リユース事業者が健全な運営を続けるため、法令にもとづく厳格な本人確認は避けて通れません。

(1) 法定帳簿への正確な記録義務

古物商には、取引相手の氏名、住所、職業、年齢、そして取引日時や品目などを帳簿に記録・保存する義務(古物営業法第15条)があります。この記録は、万が一盗品が発見された際に、速やかにその流通経路を特定し、被害者の元へ回復させるために不可欠な情報です。この記録の「正確性」を担保するのが本人確認であり、偽名や架空の住所による取引を水際で防ぐことが、古物商のプロとしての責任です。

(2) 急増する金属盗難と組織犯罪の実態

古物業界が今直面している犯罪リスクは、統計データによって裏付けられています。特に、金属盗難の認知件数は近年劇的に増加しており、盗品が古物・スクラップ市場へ流入している深刻度が定量的に示されています。

●金属盗難の急増: 警察庁の統計によると、金属盗難の認知件数は2020年の5,478件から、2023年には16,276件へと、わずか3年間で約3倍に達しました。
●組織的な犯行と低い検挙率: 2023年において、太陽光発電施設における金属ケーブル窃盗の認知件数は5,361件と高い水準にありますが、それに対する検挙率はわずか5.9%にとどまっています。これは、犯罪が組織化され、盗品の換金ルートが巧妙化していることを強く示唆しています。
●国際的な犯罪グループの関与: 検挙人員の国籍別内訳には、日本人以外に複数の外国籍者が含まれており、国際的な犯罪グループが関与している実態が明確に示されています。

出展:警視庁「第1回金属盗対策に関する検討会資料」

認知件数の爆発的な増加にもかかわらず、検挙率が20%前後で推移している現状は、犯罪グループが盗品の「最終処分(売却)」を容易に行える環境が未だに残存していることを示しています。この組織的な不正を断ち切るために、古物商による厳格な本人確認が社会的に求められています。

3.2025年10月古物営業法改正が突きつける新たな課題

(1) 改正の背景:金属盗難対策と従来の免除規定の悪用

前述の金属盗難の急増を受け、盗品売却の抜け穴を断つため、古物営業法施行規則の改正が行われました。これは、少額取引を頻繁に行うことで従来の本人確認免除規定(取引金額1万円未満)を回避する組織的な手口を断ち切る必要があったためです。

電線、グレーチング(側溝の金属製のふた)、エアコン等の室外機

(2) 取引金額にかかわらず本人確認が義務化される特定品目の詳細

2025年10月1日より施行されたこの改正では、特定の高リスク品目について、取引金額にかかわらず本人確認義務等を免除しないことが定められています。最も注目されるのが、金属盗難対策に焦点を当てた「室外機等」の買取業者に対する規制強化です。さらに、これまで少額取引が多いために本人確認が省略されがちであった以下の品目群も、金額に関わらず本人確認義務免除の対象外とされます。

・自動二輪車
・ゲームソフト
・CD・DVD・BDなどのメディアディスク
・書籍等

この改正は、該当物品を扱う事業者に対し、従来の本人確認体制の抜本的な見直しと、すべての取引における厳格な確認導入を迫るものです。

参考コラム:2025年10月1日より「室外機等の買取業者の本人確認義務化」古物営業法施行規則の改正案が施行

4.従来の本人確認の限界と巧妙化する手口への対応

法令を遵守するため、実店舗では身分証の提示が義務付けられていますが、従来の「目視」による本人確認には限界があります。

(1) 巧妙化する偽造書類を見破れないリスク

不正取引を行う者は、偽造した運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなどの公的証明書を準備し、確認をすり抜けようとします。これらの偽造書類は、精巧さを極めており、現場の担当者による目視では真贋を見分けることが非常に困難です。実際、闇バイトによる強盗事件などの解明に向け、警察庁は捜査員が架空の人物になりすまして犯罪グループに接触する「仮装身分捜査」の導入を進めています。これは、「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」と呼ばれる犯罪組織が高い匿名性を武器にしており、公的捜査機関でさえ、その実態解明や実行役の特定に従来の捜査手法では困難をきたしているという強い危機感を示しています。担当者ごとのチェック基準のばらつきや、窓口業務の忙しさからくる確認漏れは、そのまま盗品の買取という重大なリスクにつながりかねません。

参考:警察庁「仮装身分捜査実施要領の制定について(通達)」
参考:警察庁「匿名・流動型犯罪グループの実態把握と取締りの強化について」

(2) 盗品・偽造品リスクを断つ「最新の防衛策」

古物商のコンプライアンスリスクを低減し、業務の正確性を向上させるために、DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として本人確認業務のデジタル化が今、強く求められています。その決定的な防衛策となるのが、公的身分証明書のICチップを活用した「真贋判定システム」です。

国民を詐欺から守るための総合対策

犯罪対策閣僚会議では、犯罪者のツールを奪うための施策のひとつとして、「マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証などを送信する方法や、顔写真のない本人確認書類などは廃止する。対面でもマイナンバーカードなどのICチップ情報の読み取りを犯罪収益移転防止法及び携帯電話不正利用防止法の本人確認に置いて義務付ける。」としています。
参考:国民を詐欺から守るための総合施策(外部サイト)

5.不正防止と業務効率を両立する「ID確認システムPRO」

2025年10月古物営業法改正により、本人確認の対象が拡大するなか、従来の目視に頼る手法では、現場の業務負荷増大は避けられません。この「厳格化」と「業務効率」という二律背反を両立させるために、最新の技術を用いたデジタル化、すなわち本人確認補助ツールの導入が不可欠となります。

(1)不正防止・厳格化の実現

DNPアイディーシステムが提供する真贋判定補助システム「ID確認システムPRO」は、従来の人的チェックの限界を、デジタル技術を用いて補完します。

・真贋判定の補助:マイナンバーカードなどのICチップに格納されている情報を読み取り、券面情報と照合することで、偽造・変造された身分証の検出を可能にします。これにより、古物商が最も恐れる盗品や詐欺行為につながる不正行為を未然に防ぐことができます。
・対応する本人確認書類:ひとつのシステムで「マイナンバーカード/運転免許証・運転経歴証明書/在留カード・特別永住者証明書/パスポート(旅券)」の6種類もの本人確認書類の真贋判定補助として使用することができます。

(2)業務効率化・負荷の軽減

厳格な本人確認プロセスを迅速かつ正確に処理することで、窓口業務の負荷を大幅に軽減します。

・手入力の効率化:券面記載情報をOCR(光学的文字認識)機能により自動でデータ化し、手入力の手間や誤入力を排除します。
・コピーの手間を削減:本人確認書類の真贋判定後、スキャンした画像を用いて本人確認帳票(エビデンス)を作成できるので、コピーの手間を削減します。

ID確認システムPROは、古物営業法遵守のリスク管理を徹底しながら、同時に現場の業務効率化を強力にサポートするソリューションです。

(3)偽造運転免許証の見極め方法

運転免許証は、多くの人が所持していますが、ICチップを読み込む際の暗証番号(PIN)忘れにより、顔画像や氏名や住所など券面記載情報をICチップ内データから読み取る方式での本人確認が運用されていないことがほとんどです。ID確認システムPROでは、DNPの独自の真贋判定技術により、免許証の暗証番号(PIN)入力なしで、券面画像データにより、偽造の免許証でないか自動でチェックし、有効性/真正性を確認できます。

動画:ID確認システム PRO 運転免許証編 偽造運転免許証をICの暗証番号を入力しないで見破れることが特徴(1:23)

※暗証番号(PIN):運転免許証の偽造・変造等がないかを確実にチェックする「電子署名検証」を実行する際に、本来必要になる4桁×2の暗証番号

6.ID確認システムPROの効果的な導入事例

導入事例「株式会社ネクストトゥエンティワン JACKROAD&BETTY様」

株式会社ネクストトゥエンティワン JACKROAD&BETTY様は、中野ブロードウェイに実店舗を構える、時計・ジュエリー・バッグ等のブランド商品販売、買取りを行う企業です。古物営業法のもと、商品買取の際は身分証明書をチェックし本人確認を行っていますが、チェック基準が明確化しにくいため確認に時間がかかってしまったり、お客様とのトラブル発生が懸念されるため心理的負担が大きいものでした。ID確認システムPROを導入したことで身分証明書のチェック基準について標準化し、窓口担当者の手間と心理的負担を軽減することができました。

導入事例「株式会社KDN様」

株式会社KDN様は、高級腕時計の買取/販売、委託販売を行う腕時計専門の店舗/ECサイトのTICKを経営している古物商事業者です。KDN様では、売主が身分を偽って持ち込む「盗品」の買取リスクを回避するため、売主の顔写真付身分証明書を確認しております。今回、盗品買取リスク低減のため身分証明書の真贋判定をサポートするID確認システムPROを導入しました。

7.まとめ:信頼性こそがリユース市場の生命線

「転売ヤー問題」が浮き彫りにした市場の課題は、古物商・リユース業界が社会からの信頼を維持する責任の重さを改めて示しています。金属盗難の急増と組織犯罪の巧妙化に直面する古物商にとって、本人確認の徹底は「手間」ではなく、「盗品の流通を許さない」というプロの社会的使命であり、健全な事業を継続するための基盤です。古物商・リユース業界の担当者様には、ID確認システムPROのようなデジタル補助ツールを導入し、人の目と技術を組み合わせることで、法令遵守とリスク管理を高いレベルで両立させ、業界全体の信頼性を高めていくことが求められています。

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