オルソボットの活用イメージ

産官学連携で挑むヘルスケア分野のイノベーション。歩行学習支援ロボット「Orthobot(オルソボット)」

脳卒中や事故などの後遺症、病気や加齢といったさまざまな理由で、歩行に何らかの障がいを抱えている方がいます。こうした多くの人々の歩行訓練をサポートするロボットが「Orthobot(オルソボット)」です。DNPもその研究・開発に参加し、産官学連携のオープンイノベーションとして取り組んできました。2020年3月に販売をスタートし、すでにリハビリ現場への導入も始まっています。オルソボットがヘルスケア分野に起こそうとしているイノベーションに今、期待が集まっています。

  • 一般的な長下肢装具に取り付けるだけで、リハビリロボット化が可能
  • 産官学連携だからこそ実現したプロジェクト
  • 誰もが気軽に歩行訓練できる社会をめざす

一般的な長下肢装具に取り付けるだけで、リハビリロボット化が可能

歩行リハビリの多くのケースでは、理学療法士が付き添い、ひざを曲げるタイミングで声をかけたり、手で支えたりして訓練が行われています。このリハビリを支援するロボットも登場していますが、装着時間や起動までに時間がかかるという課題がありました。

こうした課題の解決に向けて、より装着しやすく、より簡単に使えるように、新しい発想で開発されたのが歩行訓練支援ロボット「Orthobot(オルソボット)」です。

オルソボットは、モーターと加速度センサーを内蔵した本体ユニットと操作パネルで構成されており、歩行リハビリ用に装着する長下肢装具(KAFO)に本体ユニットを取り付けて使用します。

  • ※1長下肢装具(ちょうかしそうぐ)とは、リハビリテーションに使用する大腿部から足底に及ぶ装具。

Orthobotの本体ユニットと腰に装着する操作パネルの写真

Orthosis(装具)とRobot(ロボット)を組み合わせて「Orthobot(オルソボット)」。本体ユニットと腰に装着する操作パネル。

一般的に使われている長下肢装具にわずか数分で簡単に装着でき、手軽に歩行リハビリに活用できます。左右どちらの脚にも装着が可能で、リハビリ施設内でオルソボット1台を複数の方が使える点も、従来製品にはない強みです。

人の大腿部は歩く時に周期的な振り子運動をしており、歩幅の大小に関わらず同じような周期になっています。オルソボットはこの動きを加速度センサーで検知し、脚を動かすタイミングに合わせてひざの曲げ伸ばしをアシスト。ひざを後ろに引くと「屈曲」を補助し、ひざを前に出すと「伸展」を補助します。これによって装着者が正しい歩き方を体験・学習し、歩行速度や歩幅の改善につなげることができるのです。一人ひとりのリハビリの進捗状況に合わせて、ひざを曲げ伸ばしする強度や角度、スピードなどを腰に装着する操作パネルで設定・調整することも可能です。

オルソボットのアシストイメージ画像

オルソボットは、加速度センサーによって大腿部の姿勢角を検出し、膝の屈曲・伸展をアシスト。

産官学連携だからこそ実現したプロジェクト

オルソボットの研究開発プロジェクトは文部科学省の「革新的イノベーション創出プログラム(COISTREAM)」の支援を受けて、京都大学のCOI拠点研究推進機構が中心になって進めています。京都大学のほか、佛教大学、京都工芸繊維大学、関西医科大学も参加しており、「長下肢装具に取り付けてリハビリロボットに変身させる」というアイデアは大学側で生まれたものでした。

そのアイデアを社会実装するべく、実際の機器の開発に参加しているのが、精密機器を扱うサンコール株式会社と電子基板設計の技術を持つDNPです。両社は2005年からタッグを組んで歩行訓練支援ロボットの開発に取り組み、ノウハウや経験を蓄積。この知見を活かし、2015年にオルソボットの研究開発グループに参加しました。

DNPが担当したのは、オルソボットのハードウェアとソフトウェアをつなぐ電子基板の設計です。コンピューターの頭脳となるCPU、装着した人の姿勢を感知するセンサー、歩行に応じてひざの動きをサポートするモーター、稼働時間に影響するバッテリーなど、ロボットを構成する多くのパーツを統合し、適切に動かす要となる技術などの開発を担いました。

プロジェクトが進行し、定期的に大学側と意見を交換していくなかで、DNPの役割も広がり、機器全体の制御アルゴリズムやデザインなども含めた研究開発全般に積極的に関わることになりました。

定例会議の写真
月に1回開催される京都大学での定例会議の様子

研究グループのメンバーからは、ハードとソフト、モノづくりとサービスを融合したさまざまな分野の知見を持ち、研究開発にトータルに関わるDNPの姿勢に評価をいただいています。こうした共同研究において、個々の担当者の情熱と経験に、DNPの幅広い事業領域での知見や実績を掛け合わせて開発を進めていけることは、大きな強みとなっています。

オープンイノベーションの良さのひとつに、社内にはない専門的な知見を得ながら製品開発に取り組める点が挙げられます。近年DNPが事業創出に力を入れているヘルスケア領域は、医療に関わる分野であり、1企業だけで実証実験まで進めるのはハードルが高いと言われてきました。そうした状況に対して、オープンイノベーションで大学や研究機関、省庁や自治体等の方々と連携して取り組むことで、医療や介護の専門的な知見を踏まえながら、実際の医療の現場での実証実験にもつなげていくことができます。また、こうした研究グループに企業が参加することで、市場での販売を見据えた製品化と、社会実装に向けた具体的な活動も加速しています。

誰もが気軽に歩行訓練できる社会をめざす

オルソボットは2020年末現在も臨床研究が行われており、集まるデータや寄せられる声を参考に機器自体の改良も進めています。直近の目標は、本体機器のさらなる小型軽量化。実際に使う人のニーズを反映しながら、オルソボットの強みのひとつであるコンパクトさと手軽さに改良を加えていきます。

現在は、リハビリ施設で理学療法士が介助者として付き添った状態での利用に限られていますが、将来的には使用者自身が操作して自宅でも歩行訓練を行えるような製品をめざしています。また、脳卒中の後遺症をかかえる方だけでなく、高齢になるにつれて足腰が弱り日常動作にも苦労するような方の歩行訓練などにも役立てていきます。

歩行の訓練というと、ケガや病気をした後にリハビリとして行うものと思われがちですが、歩行機能が弱まる前から訓練できるようになれば、健康寿命を延ばすことにもつながると期待できます。

歩行機能が低下すると、つまずいたり転倒したりしやすくなるうえ、体を動かすことが億劫になって外出を避けてしまうこともあり、結果として認知機能の低下にもつながりかねません。こうした状況を予防するためにも、血圧計のように誰もが自宅で手軽に使える歩行訓練支援ロボットの開発をめざすととともに、日常的に歩行訓練を行う意義を周知することにも力を入れていきます。

高齢者が健康寿命を保ち、生き生きと屋外で活動しているイメージ図

また、オルソボットで取得した歩行データを解析して、より効果的なリハビリの方法を検証していく「データ活用のビジネスモデル」も検討していきます。

ヘルスケア分野の事業開発に注力するなかでDNPは、オルソボットのプロジェクトでも単なる機器の開発に留まらず、多くの人が歩くことの楽しさを取り戻し、健康寿命を延ばすという社会課題を解決していくために、DNPならでの幅広い領域の技術・ノウハウなどを生かしながら、さらなる研究開発に取り組んでいきます。

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