トレンド講座、NFTの魅力 DNPのプロフェッショナルが紹介する旨を記載

トレンド講座/コンテンツの可能性を広げる次世代技術「NFT」の魅力

世の中で話題のキーワードをDNPのプロフェッショナルが解説する「トレンド講座」。今回のテーマは「NFT」(Non-Fungible Token:非代替性トークン)です。デジタルコンテンツの所有権の証明などに利用できるもので、2021年3月には、“Twitter創業者の初ツイート”というコンテンツがNFTの証明の元、約3億円で落札されるなど、世界的に大きな盛り上がりをみせています。国内においても大手企業がNFT関連事業に参入しているほか、DNPも複数の企業とパートナーシップを組み、NFTを活かしたコンテンツ関連事業を展開しています。こうした事業に携わるDNPグループの株式会社モバイルブック・ジェーピー(MBJ)の鈴木乾也が、NFTの基礎知識や現状、今後の展開などについて解説します。

目次

正面を向いて立つ鈴木乾也

株式会社モバイルブック・ジェーピー
プラットフォーム事業本部
鈴木乾也


出版社、二輪車メーカーを経て、2006年に大日本印刷(株)入社。2008年、(株)モバイルブック・ジェーピーに在籍出向し、現部署に配属。2020年から、マネージャーとして、NFT付きコンテンツ販売サイト「MasterDig」をはじめとするNFT関連事業を推進している。

コンテンツの唯一性を担保するNFT

代替できないユニークなデータを保持することで、デジタルコンテンツの所有権を示す“電子証明書”などに活用できる「NFT」。個々のデジタルコンテンツがオリジナルかコピーかを区別することも可能で、正当かつ唯一無二の価値を担保できます。NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)という名称にも、「他に代替されることのない唯一のもの」という意味が込められています。

従来のリアルなコンテンツに関して、例えばレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画やプロスポーツ選手のサインは、その唯一性によって資産的な価値が高まっています。NFTを活用することで、デジタルコンテンツに関しても、唯一性や希少価値、保有資産としての価値を証明できるようになるのです。

“Twitter創業者の初ツイート”など、希少なデジタルコンテンツの正当性を証明するほか、アート作品や音楽、プロスポーツ選手の関連グッズ、トレーディングカード、ゲーム内の課金アイテムなど、NFTはさまざまな分野に広がっています。

クリエーターが期待するNFT。その訳は?

NFTでデジタルコンテンツの唯一性が担保されることによって、より多様な企業や個人、コンテンツクリエイター等が、グローバルにさまざまなコンテンツをやり取りしやすくなります。すでに日本では、「鉄腕アトム」を描いたデジタルモザイクアートNFTが高額で落札されたり、小学3年生が自由研究で作ったドット絵のNFTがアメリカの著名なDJに購入されたりした事例もありました。

またNFTは、“クリエーターへの利益還元”にもつながります。これまでは、デジタルコンテンツが購入者から他の人々に渡っていく場合でも、クリエーター自身は最初の販売時点でしか利益を得られませんでした。それに対してNFTでは、記録された情報をもとに、購入者以外への取引の額の一部をクリエーターに還元するように設定できます。これはコンテンツ市場の裾野を広げる大きな進化だと言えるでしょう。

つまりNFTは、コンテンツの売り手と買い手に加え、作り手であるクリエータ―にとっても大きな可能性を秘めたイノベーションなのです。

NFTについて話す鈴木乾也

NFTに不可欠なブロックチェーン技術

NFTがこうした機能を発揮するには、当然ながら、NFT自体がコピーされたり、改ざんされたりできない仕組みが前提となります。

この仕組みを支えるのが、世界中のコンピューター、サーバーにデータを分散させて管理する「ブロックチェーン」と呼ばれる技術です。この技術には、一部の機器が停止しても全体のシステムダウンが起きにくい、データーが改ざんされにくい、たとえ改ざんされてもその記録が共有される、といった特長があり、NFTの唯一性の担保に有効です。

このブロックチェーンは、最近話題の「Web 3.0」を体現した仕組みとも言えます。主に特定のサーバーのWebサイト等を閲覧する一方通行の「Web 1.0」や、SNS・動画共有等のサービスでサーバー側とユーザーや、ユーザー同士の双方向コミュニケーションが活発になった「Web 2.0」に対し、「Web 3.0」は特定のサーバーや管理者も不要で、ユーザー自身が分散管理する非中央集権型となっています。NFTの浸透が加速する背景には、こうしたインターネット環境のトレンドも大きく影響しているわけです。

図1:インターネットの進化の歴史

インターネットの進化とともにデータの流れが変わったことを示した図。Web1.0では一方通行型、Web2.0では双方向型、Web3.0では非中央集権型。

データを分散管理するWeb 3.0は、次世代インターネットのあるべき姿として注目されています。

NFTの利用方法と市場の動向

NFTを購入するには、一般的に、「イーサリアム」という仮想通貨を使って決済をします。具体的な手順は次の通りです。

図2:一般的なNFT購入の流れ

下層通貨の取引所に講座を開き、イーサリアムを購入。電子的なウォレットを作成し、販売サイトに登録。NFTを選びイーサリアムで払う。一連の流れを紹介。

購入したNFTについては、自分のスマートフォンやパソコン等にインストールして使う“ウォレット”アプリで、現在の所有者やクリエーターの情報、取引履歴を閲覧できます。コンテンツ自体を利用するには、ウォレットに表示されるサムネール画像を選択したり、指定サイトからダウンロードして入手するなど、個々の販売事業者・マーケットプレイスの仕様によって異なります。

また、NFTの価格に加え、購入・出品のいずれの場合もブロックチェーンの利用手数料がかかる点に注意が必要です。これは、取引処理を記録するためにネットワークやそれにつながる端末を占有するレンタル料のようなもので、「ガス代」と呼ばれています。仮想通貨の価格などによって大きく変動するため、その安定化が課題となっています。

また、多くの日本企業の特長とも言えますが、NFTのプラットフォーム事業への着手に当たって、まず利用者の安全・安心に配慮したサービスをめざしています。例えば、楽天グループの「楽天NFT」やLINEグループの「LINE NFT」では、独自のブロックチェーンによる仮想通貨を提供することで、NFTの価格や“ガス代”の安定化を図っています。ブロックチェーンが本来持つ“企業や国の枠組みを越えた非中央集権型の広がり”という「Web 3.0」の考え方には逆行するかもしれませんが、現時点におけるひとつの解でもあると思います。

取組みについて話す鈴木乾也

“コンテンツ視点”でNFTを活用するDNPの挑戦

こうした状況を踏まえ、長年コンテンツビジネスに取り組んできたDNPグループでも、NFTを活用する事業が始まっています。そのひとつが、私たちMBJが2022年4月に開始した「MasterDig(マスターディグ)」です。このサービスは、アート作品とNFTをセットにして生活者に販売するもので、仮想通貨の購入をDNPグループが代行することで、利用者は手軽にクレジット決済することができます。

*NFT付きプリモアート®(高精彩複製画)販売サイト「MasterDig」

現在、「MasterDig」で主に取り扱っているアート作品は、DNPが長年培った色管理(カラーマネジメント)や画像修正のノウハウを生かした高精彩出力技術「プリモアート®」で作成する複製画です。第一弾として、岩崎書店のロングセラー絵本『モチモチの木』と『花さき山』(ともに斎藤隆介作/滝平二郎絵)の滝平二郎さんの「きりえ」の原画6点を「プリモアート」の複製画にして、各20枚限定で販売しました。

NFT付きプリモアート®(高精彩複製画)として販売された滝平次郎さんの作品

「アートでNFTを活用するのに、なぜデジタルコンテンツではなく、リアルな複製画?」と思われるかもしれませんが、それは私たちの出発点が「NFT」ではなく「コンテンツ」にあるからです。2000年代の初めから電子出版の流通プラットフォーム事業に取り組み、草の根のクリエーターや出版社など、さまざまなコンテンツホルダーと二人三脚で歩んできたMBJには、「コンテンツを“モノ”ではなく、“作品”として扱いたい」「国産コンテンツのクオリテイの高さを世界に届けたい」という想いが強くありました。

そこで、作者の意思に沿いながらコンテンツを広める手段として、その作品が正当で唯一無二のものであることを示す「証明書」としてNFTを生かすことが有効ではないかと考えました。リアルなコンテンツとNFTをセットにして販売する今回の「MasterDig」においても、NFTデータに作品の概要やクリエーター、所有者情報を記録して正当性を証明することに加え、二次流通以降も取引価格の10%をクリエーターや出版社に還元する仕組みを盛り込むなど、新しい試みに挑戦しています。

そうした意味で、「MasterDig」は通過点とも言えます。NFTによる国際的なコンテンツ市場が定着していくのに合わせて、今後は対象分野をデジタルコンテンツやイベントなどへと広げていく計画です。コンテンツビジネスとファンのコミュニティの結びつきが強い日本の市場は、そうした事業の起点として最適な環境ではないでしょうか。すでに、直接お付き合いのある出版社やクリエーターの方々はもちろん、DNPグループ内からも問い合わせを受けていて、NFTに集まる期待を日々実感しています。

NFT関連のニュースとして投資目的の高額な取引が目立ちますが、少額で「好きなアートを楽しみたい」「作者を応援したい」といったライトな層も登場しています。作品を応援する“好き”という気持ちを、ブロックチェーンという技術を通して世界中に表明できる点こそ、NFTがコンテンツ市場の可能性を広げる最大の原動力なのではないかと考えています。
例えば、美術館で展示される絵は誰もが見ることができますが、「見るだけでいい」という人だけでなく、「この作品は私が所有している」と言いたい人も少なからずいますので、そうした人たちにこそNFTの意味は大きいと思うんです。

NFTの新しい世界はまだ動き出したばかりです。今こうしている瞬間も、世界中の個人や団体が、NFTをより良い形に進化させるべく知恵を絞っていることでしょう。そうしたスピードがWeb 3.0の醍醐味であり、私たちDNPグループもその集合知を支える一員として、コンテンツ市場の未来に向けて努力していきます。

今回のトレンドのまとめ

今回のNFTの記事のまとめをグラフィックレコードで表現したもの

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