【役員インタビュー】モビリティ社会へオリジナリティある価値を提供

DNPのモビリティ事業について語る宮崎剛役員

今、大きな変革期にあるモビリティ市場。長年、自動車や鉄道車両向けに多様な製品・サービスを提供してきたDNPは、その強みと実績を活かして、「次世代モビリティ社会」の実現に向けた新しい価値の提供に力を入れている。2017年4月に立ち上げたモビリティ事業部で、このビジネスを執行役員として統括する宮崎剛に、現在までの取り組みや将来の展望を聞いた。

  • 「次世代モビリティ社会」の課題をDNP独自の技術と情報サービスの強みを生かして解決
  • 自ら社会実装まで考えた製品・サービスの開発
  • DNPならではのMaaS事業で「MaaSアワード」優秀賞を受賞
  • 本質的な共通課題を見極め、グローバル展開へ

「次世代モビリティ社会」の課題をDNP独自の技術と情報サービスの強みを生かして解決

DNPのモビリティ製品:左から リチウムイオン電池用バッテリーパウチ、光学フィルム、サイドバイザー、内装用加飾フィルム。

DNPはこれまで、リチウムイオン電池用バッテリーパウチ(写真① )、カーナビ等の画面に使用する光学フィルム(写真②)、ドア窓に装着し、風や雨を防ぎながら快適な換気を可能にするサイドバイザー(写真③)、内装用加飾フィルム(写真④)など、自動車用に数多くの製品を提供してきた。
しかし、こうした個々の製品開発に留まることなく、DNPは「住まいとモビリティ」を成長領域の一つに掲げ、あらゆる技術・ノウハウを掛け合わせてビジネスの拡大に挑んでいる。


それは「クルマの価値が従来と比べて劇的に変わってきたから」だと、モビリティ事業を率いる宮崎は語る。


「数年前、CASE(ケース)*1やMaaS(マース)*2などのキーワードはまだ普及していませんでしたが、従来の『走る/曲がる/止まる』というクルマの価値は、社会の変化、デジタル技術の発展などにともなって大きく変わってきていると感じていました。環境に対する人々の意識やシェアリング経済への期待が高まり、クルマの電動化や自動運転も進み始め、デジタル技術の進展がそうした変化を可能にするなど、『価値』が大きく塗り替えられつつあり、DNPはこの変化を事業拡大の追い風にできると考えたのです。」

  • 1 CASE(ケース):Connected(コネクテッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の略で、自動車業界の事業の方向性を示すキーワード
  • 2 MaaS(マース):Mobility as a Serviceの略で、ICTを活用し、交通手段による移動を「サービス」と捉えた新しい概念

大日本印刷 モビリティ事業担当役員 宮崎剛

大日本印刷 モビリティ事業担当役員 宮崎剛

「DNPには『P&I』、つまり『印刷と情報』の両方の強みがあります。それはモノづくりと情報サービスの強みであり、それら独自の強みを掛け合わせることで事業を広げてきました。だからこそ私たちは、次世代のモビリティ社会に対しても、『安心/安全/快適/環境』というような、常に求められる本質的な価値を提供できると考えたのです。それは『人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する』というDNPの企業理念を実現することでもあります」と、DNPがモビリティ市場に本格参入する意義を語る。

宮崎はまた、「この事業の根幹には、『いかに社会課題を解決するか』というテーマがある」という。モビリティ社会が急速に進展するなかで、大きな課題が浮き上がっているからだ。

例えば、自動運転の技術向上は「安全・安心の確保」につながり、電気自動車(EV)の普及は「環境負荷の低減」という社会課題の解決につながる。

宮崎は、「モノづくりか、情報サービスかのどちらか一方だけでは解決できない課題が多い。その両方の強みを持っているDNPだからこそ、課題解決の可能性も広がり、大きなビジネスチャンスにつなげられると思っています」と、強みを強調する。

自ら社会実装まで考えた製品・サービスの開発

DNPは社会の変化に対応するだけでなく、自らが「次世代モビリティ社会」をつくり出していくため、さまざまな変革に挑んでいる 。

内装材を例に取ると、従来は、クライアントの仕様に基づいて、フィルムなどの材料にデザイン性や機能性を付与してきた。もちろん、こうしたクライアントのニーズをベースに製品をブラッシュアップしていくやり方は、これからも大切にしていくが、「今後は自ら社会課題に向き合い、社会に実装する ところまでしっかりと考えて、人々に『新しい価値』だと実感してもらえるような製品・サービスを提供していきたい」と宮崎は言う。

その一例が、次世代加飾パネルの開発だ。通常は、木目柄や幾何学模様などが見えているパネルに、必要な時だけスピードメーターなどの計器や操作スイッチが浮かび上がる製品で、DNPのデザイン力と光学設計技術の融合によって、先進的な「シームレスデザイン」を実現している。

この製品には、自動運転が進むことで車内の居住空間化が進むという考えのもと、快適性を高めることが大事になり、よりデザイン性が求められるだろうという設計思想が込められている。

DNPが開発した次世代加飾パネル(動画:50秒)

「かつてはクライアントに言われてから製品を考えることが多かったのですが、今回は自分たちで『未来のニーズ』を考えてアイデアを出し合い、プロトタイプを作って製品化しました。モノづくりの強みにユーザーインターフェイスの設計やタッチセンサーの技術、成形技術やデザインなど、DNPの強みが詰め込まれています。今までの延長線上にある製品ではなく、『ヒューマン・マシン・インターフェイス』のキーになる製品の一つだと捉えています。私たちDNPは、単にモノをつくり出すのではなく、その先にいる生活者の快適さを考え、より良い未来につながるような、全く新しい価値をつくり出していきたいのです」と、意欲的だ。

またDNPは、EVの普及が「環境負荷の低減」という課題の解決に有効だと考え、その普及を促すためにも、ケーブルで接続する作業が不要で、効率的に充電できる薄型・軽量のEV向けワイヤレス給電用シート型コイルを開発した。

印刷用の版づくりで磨いてきたフォトリソグラフィの技術と、コイルパターンの最適化により、コイルの外側に磁界が出にくい構造とすることで、大電力の伝送を可能にしている。これもDNPの強みを活かして「次世代モビリティ社会」の実現を引き寄せる製品の一つだ。

電気自動車向けワイヤレス給電用シート型コイル

電気自動車向けワイヤレス充電用シート型コイル

DNPならではのMaaS事業で「MaaSアワード」優秀賞を受賞

宮崎はまた、「『P&I』をベースにしたDNPオリジナルの『MaaS』を模索し、最適なパートナーと組みながら事業化に取り組んでいます」と語る。DNPは1970年代初めには情報のデジタル化の取り組みをスタートさせ、1980年代からICカード関連の開発を推進するなど、情報セキュリティ等の強みを培ってきた。その強みはこれまで、コンテンツサービスのほか、電子商取引(EC)や決済サービスなどで活かされてきたが、今またMaaSで花開こうとしている。

一例として、フィリピンなどで、与信を得られないために自動車購入ローンを組めない人々に新たなローンの仕組みを提供するGlobal Mobility Service株式会社とパートナーシップを組み、ローンを完済した優良ドライバーと提携し、卸売業者から小売店にタイムリーに商品を運ぶサービスを始めている。

この「物流配送マッチングサービス」では、DNPのICT(情報通信技術)を活かし、配送状況をリアルタイムで把握できるシステムなどを提供している。そこには、新興国における「就労の格差解消」という社会課題の解決につなげたいという思いもある。

「物流配送マッチングサービス」を活用したフィリピンでの配送の様子

「物流配送マッチングサービス」を活用したフィリピンでの配送の様子

このビジネスモデルは、働く意欲のあるドライバーに就業機会を提供するだけではなく、物流が滞りがちなフィリピンの社会課題を解決するモデルとなる。2020年6月には、この取り組みが認められ、「MaaS & Innovative Business Model AWARD(通称:MaaSアワード)2020」のビジネスモデル部門で優秀賞を受賞した。

*詳しくはこちら →ニュースリリース(2020年6月29日)をご覧ください。
*「物流配送マッチングサービス」の取り組みについて、DiscoverDNP「フィリピンの貧困と物流課題に挑む!新たなモビリティ事業」で紹介しています。

本質的な共通課題を見極め、グローバル展開へ

インタビューに答える宮崎役員

また、国内でもリゾート会社等とパートナーシップを組み、車両運行管理システムの開発や車内空間を生かした施設情報の提供などをDNPが担当し、リゾート施設内での低速自動運転車両の運用実証実験を予定している。

ベンチャーやスタートアップを含むパートナーとの連携を強化し、新たな価値の創出を加速させていくため、宮崎は常に「オープンな姿勢」でビジネスに臨む。「思いがけない組み合わせからビジネスのチャンスが生まれる」と、自らパートナーを探し、また、さまざまな提案を受け入れている。

DNPはMaaS関連事業を、物流や観光だけに限定しているわけではない。

「超高齢社会での移動に関する課題の解決や過疎地への対策、都市部のスマートシティ化の実現、自然災害や感染症拡大などの緊急事態発生時の対応など、『モビリティ』に求められることもマルチタスク化し、ますます加速していくと考えています。社会の変化は速いですし、スモールスタートで良いので、スピードを上げて対応することが大事です。最初はニッチなテーマの事業であっても、そこに本質的な課題があるのなら、必ずその後の展開ができると考えています」

DNPのターゲットは世界市場だ。「『次世代モビリティ社会』のあり方は国や地域によって当然異なります。一方で根本的な課題は共通性も高く、『安心/安全/快適/環境』という求められる価値も共通です。DNPがモビリティ関連の市場で事業を拡大していくには、グローバルな展開が欠かせませんし、それができないと、グローバル企業が多いクライアントから認められないこともあるでしょう。私たちがめざすゴールは、『次世代モビリティ社会』で、DNPならではの、オリジナリティがある価値を世界に提供していくことです」と、宮崎は強い言葉で締めくくった。

大日本印刷 執行役員 宮崎剛

プロフィール
大日本印刷 執行役員
宮崎剛(みやざき ごう)


1984年入社。ミクロ製品事業部(当時)で、半導体、ディスプレイ関連商材の営業や企画に長く携わる。2017年、成長領域であるモビリティ分野を統括するモビリティ事業部長に就任。趣味は映画・音楽鑑賞。座右の銘は「日々是好日」。この言葉の持つ多義性が魅力だという。