亀田誠治氏が実現した、親子三世代が無料で最高の音楽を楽しめる「日比谷音楽祭」【前編】

音楽プロデューサー・ベーシスト 亀田 誠治さん
  • ダイバーシティ
  • サステナビリティ
  • 社会課題解決

2019年6月1日・2日、皇居や帝国ホテルからほど近く、東京の中心部にある日比谷公園で「日比谷音楽祭」が開催されました。 世代や障がい、経済格差や音楽のジャンルなどを超えて「フリーで誰もが参加できる、ボーダーレスな音楽祭」をテーマに掲げ、石川さゆりや布袋寅泰、JUJU、椎名林檎といった一流アーティストが出演しているにも関わらず、誰もが無料で参加できて楽しめるという画期的なイベントです。 DNPは、“ダイバーシティ”、“持続的成長”、“次世代育成”という「日比谷音楽祭」の趣旨に賛同し、さまざまな形で応援しています。

  • 親子三世代が音楽のジャンルを超えて楽しめるフェスを開催したいという想い
  • 熱い想いが共感を獲得
  • 公園と音楽が一体化する、こだわり抜いた景観
  • 想像を超えた反響
音楽プロデューサー・ベーシスト 亀田 誠治さん

これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツなど数多くのプロデュース、アレンジを手がける。第49回、第57回の日本レコード大賞では編曲賞を受賞。
『亀田音楽専門学校(Eテレ)』などを通じて次世代へ音楽を伝えている。

親子三世代が音楽のジャンルを超えて楽しめるフェスを開催したいという想い

音楽プロデューサー・ベーシスト 亀田 誠治さん

Q:今回なぜ、無料の音楽祭を開催しようと考えられたのでしょうか。

亀田:ここ十数年で、音楽の聴かれ方が変わってきたと切実に感じています。昔はお茶の間のテレビの前に家族が集まり、みんなで一緒に音楽を聴いていましたが、オンラインが当たり前になったネット社会の現代では、一人でスマホやパソコンで音楽を聴く“孤聴化”が進んでいます。

若い子はお父さんやおじいちゃんたちが聴く音楽がわからない、反対にお父さんやおじいちゃんは若い子が聴く音楽がわからないと言います。本来、音楽は世代を超えてみんなで楽しめるものだったはずなのに、その環境が無くなりつつあるのです。

日本ではフジロックやサマーソニックなどたくさんの音楽フェスが開かれていることで、世界的に評価されています。でも、どのフェスも地方の大きな会場で開催されていて、チケット代もそれなりにするため、旅費もあわせて数万円から十数万円といったフェス貯金をして足を運んでいる人が大半です。こうなると一家揃って行くには金銭的に難しいものがあり、数々のロックフェスはロックファンしか行けないものになっています。

そのため、親子三世代がふらりとピクニック気分で、たくさんのお金を準備しなくても楽しめるフェスを開催したいと考えるようになりました。

Q:海外での経験も無料の音楽祭開催へのきっかけになったとお聞きしました。

亀田:ここ数年、ニューヨークに行く機会が多かったのですが、ニューヨークでは毎年セントラルパークなどのいくつかの公園で大規模な野外フェスティバル「サマーステージ」というフリーのコンサートが開かれています。今日は駆け出しのアーティストが出たと思えば、次の日にはエルビス・コステロが出たり、その次の日はクラシックのバイオリニスト、そのまた次の日は往年のソウルシンガー、そして今度はマライア・キャリーが出たり。驚きと感動に満ちたコンサートが毎年夏の間、ほぼ毎晩開かれているんです。そこにはジャンルも年齢も超えたボーダーレスな音楽が集まって、いろんな国の言語が飛び交っています。

特にサマーステージで感動したのは、フリーライブを見るためにニューヨーク中から人々が集まって来ることです。コンサートは夜の8時から開かれるのですが、朝の10時に整理券をもらいに老夫婦が来たり、ジョギングしている人もふらっと整理券を受け取ったり、ピクニックの用意をした家族連れが来て夜まで過ごしたりするんです。本当に音楽が生活の一部として根付いていて、音楽文化ってこういうのを言うんじゃないかなと感じました。演奏する側も聴く側もダイバーシティに富んでいてボーダーレスなんです。

この様子を目の当たりにして「親子三世代の縦軸と、音楽のジャンルや国境・人種といった横軸、この2つの軸をきれいになだらかにつなげられるような音楽祭を日本でやりたい!」という想いを強く抱きました。

熱い想いが共感を獲得

音楽プロデューサー・ベーシスト 亀田 誠治さん

Q:実際に日比谷音楽祭を開催するまでの経緯を教えてください。

亀田:そのような音楽祭を開きたいと5年ほど前から想い描いていたところ、日比谷公園から2年半位前に、「日比谷公園全体を使った音楽祭のプロデュースをしてもらえないか」というオファーが来ました。その話を聞いた瞬間、「日比谷公園って東京のセントラルパークなのでは」と思ったのです。ミュージシャンの聖地である野音で、おじいちゃんやおばあちゃん、お父さんやお母さん、子どもたち、赤ちゃん、ワンちゃんまでみんな集まって、いろいろなジャンルのアーティストが一堂に会して夏の夜を飾る、それが日比谷公園ならできるのではないかと思い、「絶対、僕にやらせてください」と引き受けました。

Q:開催までに苦労された点を教えていただけますか。

亀田:同僚や先輩の音楽プロデューサーからは、「亀ちゃん、気持ちはわかる。志は素晴らしいけど大変だよ。無理をしない方がいい」という意見をたくさんいただきました。開催を目指している音楽祭の規模が大きいことと、日比谷公園にはさまざまな規制があって、一つひとつ乗り越えていくのが大変なためです。

初めは広告代理店に資金集めを依頼していました。しかし、協賛をお願いする企業との間に第三者が入ることによって熱量が伝わらずに資金集めが難航しました。そのときも多くの人から、「亀ちゃん、有料開催にしてしまえばすぐできるよ」と声をかけられましたが、無料開催という条件は譲れませんでした。

無料開催にすることで来てくれる人の裾野が大きく広がるんです。

ネット社会の現在、YouTubeなどは音楽に出会うきっかけにはなりますが、最高のアーティストの生演奏・生歌にかなうものはありません。質の高い音楽を無料で提供することで、普段ライブに行くことがない方たちにも、アーティストが人の心を感動させる、音楽の力を実体験してもらいたいという想いを貫き通しました。

Q:その後、どのようにして資金を集め、無料での日比谷音楽祭の実現に至ったのでしょうか。

音楽プロデューサー・ベーシスト 亀田 誠治さん

(C)日比谷音楽祭

亀田:日比谷音楽祭は企業からの協賛金と行政からの助成金のほか、クラウドファンディングで資金を集めました。自ら動かないと熱い想いが伝わらないと感じたため、昨年の夏ごろに企画書をつくり、企業をまわり始めました。初めのうちはなかなかうまくいきませんでしたが、熱意を伝える努力をすることで徐々に扉が開き始め、協賛金が集まるようになってきました。

今回は老舗の企業からのご支援もいただいていますが、30代や40代の社長さんたちから、「椎名林檎さんや東京事変など、亀田さんの音楽を聴いて育ちました。僕らにできることがあったらやらせてください」といった言葉をもらい、積極的に支援していただけたのが本当に嬉しかったですね。

僕は次世代に音楽のバトンを渡さなければならないと考えましたが、こうして応援をしてくれる人にバトンを渡せていたんだと思い、ありがたく感じています。

公園と音楽が一体化する、こだわり抜いた景観

日比谷音楽祭

Q:日比谷音楽祭では、質の高い音楽を無料で提供すること以外にこだわった点はありますか。

亀田:ミュージックとパークをなだらかにつないでいくことにも、すごくこだわりました。公園でのイベント開催では、通常はビジネスの効率性を重視します。飲食店のテントを増やした方が儲かるとも言われましたが、公園を縦に遮るものを置かないようにして、日比谷公会堂から小音楽堂や公園の緑を見渡せるようにするなど、公園のあるがままの風景を大事にすることにこだわりました。それから、通常はテントに水がかからないように噴水を止めるのですが、公園側にお願いして水の出る量を調整し、噴水のまわりにテーブルを置いて食事を楽しめるようにもしました。

日比谷音楽祭を開催されたのは、新緑が眩しい季節で、周辺には帝国ホテルや東京ミッドタウン日比谷があり、ニューヨークのセントラルパークにも匹敵するような景色を望むことができます。東京にもこんなにも素晴らしい景色があり、東京だからこそダイバーシティを受け入れられることを証明する第1回になったと思います。

想像を超えた反響

Q:実際に日比谷音楽祭を開催されて反響はいかがでしたか。

亀田:2日間の開催で足を運んでくれた延べ10万人の方々には、僕が思っていた以上に喜んでいただけたと感じています。公園内のさまざまな場所で音楽を楽しむためのワークショップやトークショー、音楽マーケット、フードコートなどさまざまなプログラムを用意しました。僕のツイッターには、楽器体験でアコーディオンを弾いている写真や、「ふらっと立ち寄った読み聞かせで子どもが喜んだ」「フードが美味しかった」というようなさまざまな声が届きました。

日比谷音楽祭 野音

(C)日比谷音楽祭

野音は混乱を避けるために抽選制にしたため、会場に入れなかった方も漏れ音で楽しめるようにしようと、事前にアーティストとも相談していたんです。音楽祭終了後に、「野音の外で布袋さんのギターが聞こえたときに鳥肌が立った」、「ソーランソーランと聞こえた瞬間に外でも合唱した」といった声をいただけて、こだわり抜いてプロデュースした想いがちゃんと届いていたことに、すごく手応えを感じました。

 

後編では引き続き、「フリーで誰もが参加できる、ボーダーレスな音楽祭」というテーマに込めた想いや音楽文化を育むための活動などをお聞きします。