boxstaの店舗を紹介する浅野さん

新しい店舗のあり方を提案! 次世代型ショールーミング店舗「boxsta(ボクスタ)」

2019年11月28日(木)~12月25日(水)、話題のスポット、渋谷スクランブルスクエア(東京都渋谷区)にDNPが期間限定店舗「boxsta(ボクスタ)」を出店。国内外のスタートアップ企業が手掛ける“未来のプロダクト”を生活者が体験できる場所であると同時に、店内に設置したカメラとマイクで「画像&音声」を取得し、来店客の購買行動や商品に対する反応などを出品企業にフィードバックする次世代型ショールーミング店舗として、大いに注目を集めている。このビジネスのプロジェクトメンバーである浅野陽介と粟井皓介に、「boxsta」の狙いについて聞いた。

目次

大日本印刷株式会社 
情報イノベーション事業部 C&Iセンター
浅野陽介 
(写真左)
「boxsta」の発案者であり、このプロジェクトを推し進めるリーダー。

大日本印刷株式会社 
情報イノベーション事業部 C&Iセンター

粟井皓介(写真右)
顧客の体験設計からクリエイティブまでを担う、プロジェクトの中心メンバー。

現場目線で見えてきた、DNPができること・すべきこと

ショッピングのデジタル化で変わったのは、オンラインの世界だけではない。リアルな店舗でも、確実にその影響が現れている。つまり、生活者は、いつでもどこでも購入できる高い利便性を得られた反面、実際に商品に触れ、店員の説明を受け、自分の生活をどのように変えるのかを体感する機会が減っている。企業の側でも、どんな人が、どんな気持ちで、何を評価して購入したのかが分からず、“生活者の顔が見えない”という課題を抱えているということだ。メーカー等のマーケティングやプロモーション戦略の策定・実行・効果検証をミッションとする浅野と粟井は、多くの店舗で販促支援を手掛けるなか、そんな感覚を抱いていたという。

インタビューに答える浅野陽介

そして具体的なアクションの契機となったのが、事業部内で行われた新規ビジネスの公募イベント「イノベーションチャレンジ」だった。2018年末、浅野はこのイベントで、「boxsta」につながるスタートアップ企業とのパートナーシップ構築をめざした「次世代型ショールーミング店舗」のアイデアを提出した。

「スタートアップ企業にフォーカスしたのは、彼らと新しいビジネスや市場を開拓したいという思いと、DNPならではのオープンイノベーションを実現できる手ごたえがあったからです。スタートアップ企業の皆さんのアイデア、技術、熱量は非常に高く、生み出されたプロダクトも素晴らしいのに、市場に展開する手段やノウハウを持っていないため、埋もれてしまうケースが少なくない。その部分にこそ、DNPが長年にわたって蓄積してきたマーケティングやプロモーションの知見を活かせると考えました」と浅野は話す。

リアルな店舗での販売機会が少ないスタートアップ企業にとって、「boxsta」は、店舗で生活者が商品を知り、体験する機会を提供するだけなく、店舗からのマーケティングデータも得られる場となる。

浅野と一緒にこのプロジェクトを進めてきた粟井は、「個人的に、今回の取り組みでは、見るだけで買ってもらえないという、ネガティブなものとして捉えられがちな『ショールーミング』という言葉を、ポジティブに変えたいという思いもありました。日頃お付き合いのある企業の方々にとって、店舗は、生活者のリアルな反応を見られる貴重な場。現場だからこそ得られる情報の原石はまだまだあります」と話す。

インタビューに答える粟田皓介

しかし、プロジェクトの本格始動後に課題となったのは、「未来のプロダクト」をテーマにした最新のIoT機器を集める出品交渉の部分。

粟井「コンセプトに賛同はいただけるのですが、実際に出品するとなると慎重になるのは当然です。そこで、企業それぞれの課題やビジネスの局面をしっかりとヒアリングし、メーカーが求める商品の認知〜体験〜購入というステップごとに、一つひとつ定量的な情報を提示していく地道な作業を繰り返しました。この作業を『アタラシイものや体験の応援購入サービス Makuake』を運営する株式会社マクアケ(※1)と協業し、商品の選定・手配を行いました」

浅野「DNPならではの強みである豊富な取引先企業のネットワークを活かし、スタートアップ企業以外の商品を扱っているのもポイントです。グーグルや資生堂ジャパン、日本マイクロソフトといった企業にも参加いただけたことで、次世代型店舗に対する企業ニーズを改めて実感できました」

  • 1 株式会社マクアケ:『アタラシイものや体験の応援購入サービス Makuake』」を中心とした各種支援サービスの運営や、研究開発技術を活かした製品プロデュース支援事業を行う。
    参考URL → https://www.makuake.co.jp/

デジタルとリアルが高いレベルで融合した「店舗の新しいカタチ」

渋谷スクランブルスクエアは、2019年11月1日に開業した注目の商業施設。「boxsta」はその2階にあり、多くの来館者が行き交う。店内は壁を極力廃したオープンな雰囲気で、ウィンドウショッピングのついでにふらりと足を踏み入れる人も多く見られる。

「boxsta」の店舗

「初日はオープンとともにお客様がなだれ込んでくるなど、想像以上に大勢の方が来てくださいました。お店自体のコンセプトや、苦心した未来のプロダクトのチョイスは間違っていなかったと、感慨深かったです」と粟井は話す。

完成した「boxsta」の店舗空間としての最大の特徴は、来店客の画像データと音声データの両方をセンシング(計測~数値化)し、AIで分析してマーケティングデータを収集するところにある。商品ごとにカメラとマイクを設置するだけでなく、販売員もマイクを装着し、その会話も記録することで、個々の商品に対する反応を捉えることに重点を置いている。

これらのデバイスから取得された情報は、個人を特定する顔情報や声紋情報を即座に破棄し、個人を特定できないよう統計化され、AI(人工知能)とDNPの専門スタッフが分析するマーケティングレポートに活用していく。この顧客の購買行動データの取得・解析に関しては、ラトナ株式会社(※2)と協業し、同社のソフトウェア・ハードウェア技術およびインフラ基盤を活用している。

浅野「従来のカメラで取得する購買行動データにマイクで取得する音声データを組み合わせることで、商品ごとに『なぜ買ったのか』『買わなかった理由は何か』『どういうことがあれば買ったのか』など、メーカーの次の一手につながる、踏み込んだ分析ができるはずです。また、これまでアナログの手作業で行っていたメーカー向けの課題抽出作業を、一括して自動化できるという、効率化の効果も大きいと思います」

  • 2 ラトナ株式会社:IoT/エッジコンピューティング、エッジAI分野での事業・技術開発推進、クラウドコンピューティング事業等を行うスタートアップ企業(2018年4月に設立)。 DNP が 2018年12月に開設したコミュニティ型ワークスペースWeWork Iceberg(東京都渋谷区)を起点に協業。
    参考URL → https://latona.io

商品ごとに設置されたカメラとマイク(壁際の黒い機器)。商品奥の目立つ場所にあえて置かれている。

「boxsta」にはまた、多くの店頭販促を手掛けてきたDNPならではのノウハウが活かされている。

粟井「店舗空間というものは、単にデジタルサイネージやタブレット端末で飾ればよいわけではありません。お客様に快適なショッピング体験をしていただくために、最適な動線設計やナビゲーション、空間デザインや什器の配置といった施策が必要です。この『boxsta』では、そうしたことはもちろん、トレーニングを受けた専門のスタッフが接客するなど、DNPのノウハウやリソースを活かし、綿密に計算して構成しています」

店舗に掲示しているデータの取り扱いに関する説明書き

中でも特に注意を払ったのが、個人情報保護の視点に立った店舗設計だ。「店舗でのデータ収集は、生活者にはまだまだ抵抗がある」と浅野は話す。そのため「boxsta」では、取得する情報の種類や用途、取り扱いの方法などの説明を入口付近に大きく掲示しているほか、カメラやマイクをあえて隠さず、目に付く位置に配置している。

浅野「今回の実証実験では、これらの機器に対してお客様が実際にどのように反応するのかということについても、注意深く観察していきたいと思っています」

粟井「実際の店舗の状況を見ていると、カメラやマイクの存在が、お客様に不快感を与えてはいない印象を受けました。それ以上に、“未来のプロダクトに対するワクワク感”や“実際に商品に触れられる楽しさ”といった体験価値のほうが大きいようです」と安堵を見せる。

“未来をつくる”DNPの原動力

オープン後の一週間で、すでに多くの企業から「boxsta」についてさまざまな問い合わせが入っている。浅野は、「小売やメーカーはもちろん、旅行や自動車、マーケティング関連など、さまざまな業種の方からお問い合わせをいただいています。想定以上に、今回の取り組みに対する企業の注目度は高いと感じています」と語る。

店舗の様子

最後に、本プロジェクトの手応えや今後の展望について、二人に聞いた。

粟井「今回の『boxsta』は第1回目の実証実験という形でしたが、今後、当取り組みのマーケティング効果を立証して常設化していきたいと考えています。スタートアップ企業との協業に軸を置いていきますが、仕組みとしてパッケージ化して水平展開できれば、展示会やイベント、企業のショールーム等のさまざまな場所で、つまり生活者と企業のあらゆる接点で応用できると思います。人と対面する場だからこその、デジタルだけでは見えない新たな視点を必ずご提供できると思いますので、ぜひご期待ください」

浅野「『DNPが主体となって新しい事業を生み出していく』ことにチャレンジしたいという思いがありました。スタートアップ企業の皆さんと組ませていただいたことで学ぶことも多かった一方で、DNPのノウハウやリソースにも確かな価値があることが分かりました。私一人では対応しきれない難しい局面も多々ありましたが、その都度、このプロジェクトのメンバーはもちろん、スペースデザインやPR、スタッフの育成・管理、システム設計、販促物制作など多彩な分野の社内のプロフェッショナルたちがサポートしてくれることで、乗り越えることができました。あらためてデジタルとリアルをハイブリッドにカバーするDNPの力に手応えを感じています」

オープンイノベーションによる、デジタルとリアルをつなぐ接点として店舗の価値を再定義した次世代型ショールーミング店舗「boxsta」。自らが主体的に動き、新たな社会的価値を生み出すDNPの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

「boxsta」のステッカーを手に持つ、プロジェクトメンバー(一部)。
左から:和田晃輔、山田有成、田嶋春菜、渡瀬梨紗、粟井皓介、浅野陽介

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