eKYCのさまざまな利用シーンとは?
導入が進む理由も解説!

オンライン決済サービスや人材マッチングサービスといった会員登録・利用登録が必要なサービスを運営する上で、本人確認をオンラインで完結させて業務効率化やコスト削減を実現したいと考えている方もおられるでしょう。 現在、スマートフォンやタブレットから利用できるeKYC(オンライン本人確認)の利用シーンが増えてきています。eKYCの導入が進む理由にはどのような背景があるのでしょうか。本記事では、さまざまな業界で広がるeKYCの利用シーンをご紹介するとともに、その背景を解説します。eKYCの導入を検討する際の参考にしてください。

2022年9月15日公開

1.さまざまなシーンで利用される「eKYC」とは?

eKYCイメージ

eKYCを一言で表すと、オンラインで本人確認ができる仕組みのことです。対面や郵送での本人確認書類のやり取りを必要とせず、スマートフォンやタブレットで本人確認を完結することができます。

eKYCが取り入れられるようになったのは、犯罪収益移転防止法(犯収法)や古物営業法などの法改正がきっかけです。これらの法律では、特定事業者がサービスを提供する上で本人確認を義務付けしていますが、法改正前はオンラインで本人確認を完結させる方式は認められていませんでした。

しかし、スマートフォンの普及やAI技術の進歩など急速なデジタル化によってオンライン本人確認の環境が整ったこともあり、法改正でオンライン本人確認の方式が追加されました。

2.eKYCの利用シーンが増えている理由

犯罪収益移転防止法(犯収法)などの法改正後、eKYCの利用シーンが増えてきています。サービスを提供する事業者やサービスを利用するユーザー双方にメリットがあり、また非対面でのやり取りが好まれるようになったことからeKYCが普及してきているのです。ここでは、eKYCが使われるシーンが増えている理由を2つ解説します。

事業者と利用者双方にメリットがあるため

メリットイメージ

eKYCを導入する大きなメリットは、本人確認にかかる負担を軽減できる点にあります。事業者にとっては、本人確認書類の目視確認・コピー・保管といった一連の作業にかかる時間と手間を減らすことができます。eKYC導入によって本人確認がオンラインで完結すれば、本人確認にかかる人件費を抑えることができ、書類管理コストを削減することもできるためメリットがあります。また、本人確認の煩わしさによる利用者の離脱もeKYCを導入することで防ぐことができます。

利用者にとっては、店舗に出向く必要がなくいつでもどこでも自分の好きな場所・時間に本人確認ができるというメリットがあります。郵送での本人確認では、書類をコピーし封筒に入れて郵送する必要がありますが、eKYCではこれらの手間がかかりません。

このようにeKYCの導入にはさまざまなメリットがあることから、いろいろなサービスでeKYCの利用が増えてきているのです。

非対面取引の機会が増加したため

新型コロナウイルスイメージ

デジタル化の波による法改正が進んでeKYCが取り入れられるようになる中、2020年に日本でも流行した新型コロナウイルスにより、その流れは加速しました。対面リスクの高まりから、社会は一気にリモートへと舵を切ることとなり、非対面でサービスを提供する機会が増えていきました。

eKYCを導入するシーンも、オンライン上で提供されるサービスに比例する形で増加しており、感染リスクを抑えられることから重要度が増しています。

3.eKYCの具体的な8つの利用シーン

eKYCの導入を検討する際、どのようなサービスで取り入れられているのかを把握することで、そのメリットや利用者への使われ方などがイメージしやすくなるでしょう。数ある中から、ここでは代表的な8つの導入例を紹介します。

銀行口座・証券口座の開設

銀行口座イメージ

金融機関における銀行口座や証券口座の開設は、犯罪収益移転防止法(犯収法)の特定業務となっており、本人確認を行うことが必須となっています。現在、ネット銀行やネット証券といったインターネット上の操作だけで取引が完結するサービスが増えてきたことからもわかるように、これらのサービスではオンラインで完結するeKYCが取り入れられていることがほとんどです。

大手銀行においても、口座開設アプリにeKYCを導入して、店舗に行かないでもオンラインで口座開設ができるようサービスを強化しています。

オンラインでのローン契約

ローンイメージ

銀行が提供するローンの契約手続きにもeKYCが利用されています。口座開設同様、犯罪収益移転防止法(犯収法)によりローン契約時も本人確認が必須です。eKYCを取り入れることにより、利用者は住宅ローンやマイカーローン、教育ローン、フリーローンなどにオンラインから申し込むことができます。

銀行としてもローン受付の窓口が増えるため、ローンの申込数アップが期待できます。店舗の受付窓口の業務負荷軽減にもつながるでしょう。

クレジットカードの即時発行

クレジットカードイメージ

クレジットカード事業者におけるクレジットカード交付契約の締結は、犯罪収益移転防止法(犯収法)の特定取引に該当するため本人確認が必須です。これまでは住民票の写しなどの公的証書や運転免許証などのコピーを申込者に送付してもらうか、クレジットカード受取時に申込者本人から顔写真付きの本人確認書類を提示してもらうことで本人確認を行うのが通例でした。

上記の方法では、クレジットカードを受け取るまでに時間がかかり申込者はすぐにカードを利用できませんでしたが、eKYCを導入することで、申込受付後すぐにクレジットカード機能を提供するサービスが増えています。クレジットカード自体は今まで通り郵送で届くのを待つ必要はありますが、申込者はスマートフォンからデジタルクレジットカードを利用し、申し込み当日に買い物をすることができるようになります。

携帯電話の回線契約

スマートフォンイメージ

大手携帯電話会社3社やMVNO(格安SIMなどを提供する仮想移動体通信事業者)の回線契約手続きにもeKYCの導入が進んでいます。携帯電話の回線契約では、携帯電話不正利用防止法により本人確認が義務付けられているため、契約をする際に本人確認書類の提示が必須です。

eKYCを導入することで、携帯電話会社は店舗だけでなくオンラインで回線契約を獲得できるようになります。eSIM端末(携帯電話本体とSIMが一体となった端末)であれば、eKYCにより即時に回線契約が成立するためすぐに回線を利用することができ、利便性が高まります。

契約申し込みやサポート対応をオンラインに限定した低価格プランを提供する携帯電話会社の新ブランドでは、eKYCの導入は一般的になっているといえます。

中古品の買い取り

書籍イメージ

中古品の買い取りを行うサービスでは、古物営業法により本人確認が必須です。現在、中古品の買い取りをオンラインで行うサービスが増えてきました。ブランド品や家電製品の買い取りだけでなく、読み終わった本を買い取ってサブスクリプションで本を提供するサービスや、中古スマートフォンの買い取り・再販をオンラインで展開しているサービスなどが挙げられます。

上記のサービスの買い取り手続きにはeKYCが取り入れられており、誰でも簡単にオンラインで中古品の買い取りを申し込むことが可能です。

フリマサイト

フリマサイトイメージ

インターネット上で個人同士が物を売買することができるフリマサイトでもeKYCが取り入れられています。売る側は特に信頼性の確保が重要です。オンラインで本人確認ができるeKYCを導入することで、買う側は安心して商品の購入が可能になります。

大手のフリマサイトでは、eKYCを導入してサービスの利便性を向上させています。本人確認を完了させた利用者は、売上金でサイト内の出品物を買うことができるようになったり、銀行口座を登録してチャージできるようになったりと、さまざまな恩恵が得られる仕組みが作られています。

シェアリングサービス

シェアリングサービスイメージ

移動に使える小型電気自動車や自転車、スクーター、電動キックボードなどのシェアリングサービスにも、eKYCが利用されています。これらの乗り物を貸し出す際、盗難などのリスクを回避するために本人確認は必須です。しかし、本人確認を対面や郵送で行うのは時間がかかってしまうため、eKYCを導入することでサービスの利便性を高めています。

スマートフォンから本人確認ができるeKYCであれば、本人確認にかかる手間と時間を節約できるため便利です。また、スクーターなど運転免許が必要なものを貸し出す際は運転免許証の確認が必要ですが、eKYCの導入により本人確認と同時に運転免許証のチェックができます。このようにシェアリングサービスにおいても、eKYCを取り入れるケースが増えてきています。

公営競技のオンライン投票

オンライン投票イメージ

競馬やオートレースなど公営競技のオンライン投票サイトにおいてもeKYCが導入されています。20歳未満の公営競技への投票は、自転車競技法や小型自動車競技法などにより禁止されているため年齢確認が必要です。

事業者はオンライン投票サービスにeKYCを導入することで、年齢確認をオンラインで完結させられます。本人確認書類などの書面のやり取りや書類管理をする必要もありません。また利用する側は、いつでも自分の好きな時にサービスを利用開始でき、公営競技を楽しむことができます。

4.eKYCの利用シーンはさらに広がる

この記事で紹介しているeKYCのユースケースは、ほんの一例です。オンライン本人確認は、不正を規制するための法的な義務だけで導入が進んでいるわけではありません。シェアリングサービスやマッチングサービスのように、法的義務はないがサービスの特性を鑑みた時に本人確認の必要性があると事業者側が考えるサービスにおいてもeKYCの導入が広まっています。

今後も、オンライン上でサービスを提供するケースはますます増えていくでしょう。信頼性の確保や安心してサービスを利用してもらうためにも、eKYCの導入がひとつのキーとなるはずです。

また、2021年9月1日に設置されたデジタル庁は「誰一人取り残されないデジタル社会」をめざしており、行政サービスの手続きをデジタル化すべく取り組んでいます。行政サービスをDX化するためには、eKYCが必要条件といえます。そのためeKYCは今後も高い需要が見込まれ、導入する企業やサービスは増加していくことでしょう。

5.犯罪収益移転防止法(犯収法)に準じたeKYCの4つの方式

eKYCには4つの方式があります。それぞれ特徴があり、eKYCの導入を検討する際はメリット・デメリットを把握することが大切です。ここでは、犯罪収益移転防止法(犯収法)に準じた4つの手法について詳しく解説します。

「ホ」方式:顔画像+本人確認書類の画像

eKYC「ホ」方式イメージ

「ホ」方式は、現在のeKYCの主流となっている手法です。スマートフォンやタブレットを使用して、本人の顔写真と運転免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類を撮影します。この2つの画像を照合することで本人確認を行います。

「ホ」方式は、スマートフォンにカメラが付いていれば利用できるため、幅広い利用者を対象にできる点が最大のメリットです。デメリットとしては、ICチップを使った他の方式と比べて本人確認の工程が多く、手間がかかる点が挙げられます。また、撮影した顔写真と本人確認書類の顔画像を照合する必要があるため、真贋判定を伴う審査業務が欠かせません。

「ヘ」方式:顔画像+本人確認書類のICチップ情報

eKYC「ヘ」方式イメージ

「ヘ」方式は、顔写真を撮影する点は「ホ」方式と同じです。本人確認書類に関しては撮影する必要がなく、代わりに運転免許証やマイナンバーカードに埋め込まれたICチップを利用します。NFCに対応したスマートフォンで、ICチップ内の個人情報(氏名・住所・顔画像データなど)を読み取り、撮影した顔写真と照らし合わせることで本人確認を行います。

メリットとしては、ICチップを利用しているので運転免許証やマイナンバーカードの偽造による不正がしにくい点があります。デメリットは、「ホ」方式同様に審査業務が発生する点と、ICチップの読み込みに事前に設定した暗証番号が必要になる点が挙げられます。

「ト」方式:本人確認書類の画像もしくはICチップ情報+外部機関からの顧客情報

eKYC「ト」方式イメージ

「ト」方式では、利用者から本人確認書類の画像もしくはICチップの情報を提供してもらいます。情報の照合には、金融機関などの特定事業者から顧客情報を提供してもらうことが必要です。

外部機関との連携が必要なため、eKYCの方式の中では導入しにくい手法です。メリットは、すでに口座開設などで本人確認をしてある外部機関の顧客情報を利用することから、不正に強い点が挙げられます。デメリットは、照会先の外部機関に利用者が登録情報を持っていないと、本人確認が成立しない点です。

「ワ」方式:署名用電子証明書+暗証番号

eKYC「ワ」方式イメージ

「ワ」方式は、マイナンバーカードに記録された署名用電子証明書と、マイナンバーカード発行時の暗証番号(PIN)を利用する手法です。公的個人認証サービス(JPKI)を利用するため、最もセキュアな方式といわれています。

メリットは、審査業務が必要ない点と、本人確認の工程が少なく利用者の負担が少ない点です。デメリットは、そもそもマイナンバーカードを持っていないと利用できない点が挙げられます。また、マイナンバーカード発行時に設定した暗証番号が分からなくなり、戸惑う利用者がいることが想定されます。

6.DNPでは「オンライン本人確認(eKYC)総合サービス」を提供

eKYCの導入を検討する際、どの方式が運営するサービスに合うかどうかを考えることが重要となります。DNPでは、「ホ」方式と「ワ」方式をメインに「オンライン本人確認(eKYC)総合サービス」を提供しています。

DNPの「オンライン本人確認(eKYC)総合サービス」とは?

安心イメージ

現代の社会においては、数えきれないほどのサービスがインターネットを通して提供されています。目に見えない相手と取引や契約をする機会が増え、本人確認の重要性は増すばかりです。DNPは本人確認や本人認証が必要となるさまざまな場面で、最適な認証の仕組みを組み合わせ、セキュアで安心なサービスとして総合的に提供する「認証DX」を推進しています。 その一環として、2019年より「オンライン本人確認(eKYC)総合サービス」を提供しています。

DNPは、本人確認を義務付けている犯罪収益移転防止法(犯収法)に準拠した形で「ホ」方式・「ワ」方式のeKYCを主に提供しています。スマホアプリ版をはじめとして、Webブラウザ版やSDK版、ライブラリ版での提供が可能で、厳格な本人確認を必要とする金融機関を中心に数多くの導入実績がございます。「ホ」方式において重要な審査業務を担うBPO拠点も完備しているため、一括してeKYCをご依頼いただけます。

DNPのeKYC導入事例

ここでは、金融機関におけるDNPのeKYC導入事例を4例ご紹介します。

【導入事例1】横浜銀行様「本人認証アプリ」

横浜銀行様のスマホ決済サービス「はまPay」を利用したキャッシュアウトサービスに、DNPの本人認証アプリを採用いただきました。身分証などから登録した顔写真データと、スマートフォンのカメラで撮影した顔写真を照合して本人確認を行う「ホ」方式のeKYCを導入しており、サービスの利便性を高めています。
●DNPニュースリリース 本人認証アプリが横浜銀行で本採用

【導入事例2】みずほ銀行様「口座開設&マイナンバーお届けアプリ」

口座開設時における本人確認の強化と利便性の向上を目的に、みずほ銀行様の「口座開設&マイナンバーお届けアプリ」にDNPの「ホ」方式のeKYCを導入いただきました。犯罪収益移転防止法(犯収法)に準拠したeKYCを導入することで、サービスの質を向上させています。
●DNPニュースリリース eKYCサービスをみずほ銀行の「口座開設&マイナンバーお届けアプリ」に導入

【導入事例3】りそな銀行様「口座開設&サービス申込アプリ」

りそなグループの「りそな口座開設&サービス申込アプリ」に、「ホ」方式のeKYC機能を搭載したDNPのスマートフォン向け銀行口座開設用アプリを採用いただきました。犯罪収益移転防止法(犯収法)に則した本人確認をオンラインで行うことで、なりすまし防止を強化するとともに口座開設の利便性を高めています。
●DNPニュースリリース りそな銀行の口座開設&サービス申込アプリに「eKYC」機能を追加搭載

【導入事例4】大和証券グループCONNECT様「証券口座開設アプリ」

こちらは、大和証券グループの株式会社CONNECT様の証券口座アプリに、DNPの「ワ」方式のeKYCを導入いただいた事例です。「ワ」方式は、公的個人認証サービス(JPKI)を利用するためeKYCのなかでも信頼性が高い手法で、バックオフィスを含めた本人確認業務の効率化につながっています。
●DNPニュースリリース マイナンバーカードを活用したリアルタイム本人確認サービスを提供開始

7.DNPが提供する「顔認証マルチチャネルプラットフォーム®」とは

DNPは、非接触ニーズで注目を集めている顔認証技術を活用し、「顔パス」で建物への入館や決済、各種申し込みや契約手続きができる、より便利な社会の実現に取り組んでいます。これが実現すれば、ID・パスワードやICカードなしに、顔認証をキーにさまざまなサービスが「手ぶらで」「スピーディに」利用できるようになります。

顔認証マルチチャネルプラットフォームイメージ

DNPでは、このような社会を実現すべく「顔認証マルチチャネルプラットフォーム®」の構築を進めております。本人の承諾を得て登録した顔画像を業界横断で利用することで、利用者の利便性向上につなげたいと考えています。

当プラットフォームを利用する企業においても、一元管理された「顔情報」を利用できるため認証にかかるコストを削減でき、セキュリティリスクを緩和できます。当プラットフォームを利用する事業者間で新たな連携が生まれ、蓄積された情報の相互利用により新規サービスの実現をめざすことが可能です。

8.まとめ

eKYCは金融機関での口座開設だけでなく、オンラインでのローン契約、携帯電話の回線契約、中古品の買い取りなどいろいろなサービスで利用されています。各種マッチングサービスをはじめ本人確認を義務としないサービスにおいても活用されており、今後さらなる利活用が期待されています。

eKYCは本人確認業務にかかる手間や負荷を軽減してくれる仕組みですが、顔写真を含めたデータ保管や目視での審査業務など、利用者の安心・安全を守ることも重要になります。また、導入した後に運用をしていく中で、新たに発生する課題や問題などもあることでしょう。

DNPは、事業者・利用者双方の立場に立ち、最適なサービス提供・運用方法のご提案をしております。本人確認業務を効率化したい、最適な本人確認方法を検討したいなど、何かお困りごとがございましたら、お気軽にお問合せください。



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