人生を拡張するXR?

XRコミュニケーション事業開発ユニット 野内みゆき Miyuki Yanai

リアルとバーチャルの境が無くなる

濱田岳さん

数年前から注目度が高まっているXR(Extended Reality)。クロスリアリティとも呼ばれ、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)といった、リアルとバーチャルを掛け合わせて新たな体験をつくり出す先端技術の総称として使われている。DNPはバーチャル空間を構築する「PARALLEL SITE®」と自身のアバターなどを管理する「PARALLEL ME®」という2つのサービスを軸に、XRコミュニケーション®事業を進めている。世界から注目されるXRを通じてDNPが実現をめざす「シームレスワールド」とは何か。XRコミュニケーション事業開発ユニットの野内みゆきが語った。

※「XRコミュニケーション」「PARALLEL SITE」「PARALLEL ME」はDNP大日本印刷の登録商標です。

XRで必要不可欠な「空間」と「人」で生み出される新たなコミュニケーション

XRコミュニケーション事業開発ユニットの「未来創造ラボ」という組織でリーダーを務める野内。

“「未来創造ラボ」の具体的な仕事内容を簡潔に話すのは少し難しいのですが、現在から未来を考えるのではなく、まず理想の未来を描きます。その未来を起点に現時点で何をすべきかを考える「バックキャスト思考」で、どんな事業ができるのかを検討する組織なんです(野内)”

「未来創造ラボ」は専門の異なるさまざまな部署のメンバーで構成された組織だ。DNPが社内横断で力を注ぐXRコミュニケーション事業とはどういったものなのか。

DNPのXRコミュニケーション事業は、「PARALLEL SITE」と「PARALLEL ME」という2つのサービスを軸に展開されている。
「PARALLEL SITE」は空間・場づくりをテーマに設計。実在するリアルな場所をバーチャル空間として“複製”し、自由に表現された空間を同時に幾重にも展開できる。実在の場所では不可能な、バーチャル空間だからこそチャレンジできる場にできたりもする。さらに実在の空間と同期・連動することで、リアルとバーチャルの良さを掛け合わせた新たなコミュニケーションを生み出すことができる。これまでに東京・渋谷区の宮下公園、東京・秋葉原の街並みや神田明神、北海道・札幌市の北3条広場などをバーチャル化してきた。リアルな場が持つ力を活かしながらも、バーチャルな空間特有の表現や活動を並列(パラレル)で展開できることが特長だ。

「バーチャル秋葉原」イメージ

一方の「PARALLEL ME」は、XRを通じて様々な自分の個性を活かした個人同士のつながりを生み出すというコンセプトで設計されている。今後、XRが普及するにつれて、個人の活動に応じて複数のアバターを管理することの重要度が増していく。姿かたちや経験、スキルといったアイデンティティを使い分け、時にリアルな自分とXR上での自分を行き来しながら、新しいコミュニティの在り方や人間関係づくりに役立ててもらうという狙いだ。

野内
野内

“XRは、今まさに黎明期。今までになかったコミュニケーションを新しく生み出せる大きな可能性を秘めているんです。”

XRは単にバーチャル空間を提供するだけのものではない。DNPは、XRで必要不可欠なリアルとバーチャルの「空間」と、そこに存在する「人」の力を掛け合わせることで、人と人とのつながりや新しい体験を生み出していく。そんな想いが“XR”に“コミュニケーション”をつけた「XRコミュニケーション事業」という名称からも強く感じられる。

印刷会社がXRコミュニケーション事業に挑戦する意義

XRコミュニケーション事業は、「まちづくり」という視点からスタートした。自治体をはじめ住民や企業と共創しながら、XRでまちをつくり上げていく「地域共創型XRまちづくり事業」を推進している。なぜ印刷会社がこのような事業へ挑戦するのだろうか。

“これまでもDNPは地域活性化に取り組んできており、地域の魅力を様々な形で発信してきましたが、やはり一番多くの魅力が詰まっているのは、空間そのものだと思います。その空間自体を魅力発信の場として活用しようと考えました。リアルな街や地域の再現には、印刷会社として培った高精細な表現技術や情報処理技術を。安全・安心なコミュニティづくりには重要情報を適切に取り扱ってきたセキュリティ技術を活かせます。今までのDNPのビジネスの延長線上にあって、まったく飛び地ではないんです。”

そのまちづくりと同じくらい注力しているのが「教育」の分野だ。東京都が展開している、不登校や日本語の指導が必要な児童・生徒たちの居場所・学びの場「バーチャル・ラーニング・プラットフォーム」に、レノボジャパンと共に進めている3Dメタバースの取り組みが採択され、2023年9月に試験運用を開始した。生徒が学校に行かなくても、バーチャル空間でアバターを使って勉強したり、バーチャル上での人間関係を構築できたりする場を提供している。

「バーチャル・ラーニング・プラットフォーム」イメージ

“まさに、教育の新たな可能性を開拓しています。教育ビジネスを展開してきたDNPだからこそのアセットを活かせますし、この取り組みを通して、XRコミュニケーションは教育とすごく相性がいいのではないか、と感じているんです。”

例えば、現在の日本が抱える課題のひとつである地域間の教育格差に対して、XRコミュニケーションを活用した教育では、居住環境に関わらず、分け隔てなく教育を受ける環境をつくることができ、今までにない交流や楽しい教育体験が生まれる可能性もある。

「PARALLEL SITE」と「PARALLEL ME」を組み合わせて使えば、例えば、そこで出会った教師が「正真正銘の教師である」ことが証明されたうえで教育を受けることもできる。コミュニケーションの拡張と、子どもたちが安心して学べる環境づくりの両立も期待できるのだ。

リアルとバーチャルが融合するシームレスワールドそれを「未来のあたりまえ」に

XRコミュニケーション事業はまだ始まったばかり。昨今、DNPがビジネスを進める上でも「メタバース」という言葉は頻繁に耳にするようになり、それに取り組みたいと考える企業も多いという。しかし、どういった活用方法がいいのかは、まさに今、試されている状態だ。
DNPでは、リアルとバーチャルの境がなくなり、誰もがもっと自由に行き来できる「シームレスワールド」をめざして、さまざまな工夫をしている。XR環境へのアクセス方法の工夫もそのひとつ。高性能のPCや特殊な機器を必要とするのではなく、誰もが持っているスマートフォンやタブレット端末、PCからもアクセスできるようWebブラウザでの展開を推進。すべての人に開かれた活用方法を日々検討している。

“これからもっともっとXRは浸透していくと思います。使う人が新たな使い方を生み出していく…。既成概念にとらわれない事業の未来を考えるとワクワクしますね。”

働き方や余暇の過ごし方、人と人、地域同士のつながり方など、社会は今後も大きく変化し続ける。その中で、今後XRは普及期へと移行し、今以上に人々の生活に寄り添うことになるだろう。一人ひとりが時間や空間の垣根を越えて自分を自由に“スイッチ(切り替え)”できたり、今までリアルでは体験できなかったものをシームレスに体験できたり。多くの人々の生活をより快適で、より心豊かにして人生を拡張させていきたい、と野内は語る。

野内

“未来に暮らす人々が「PARALLEL SITE」や「PARALLEL ME」を活用して、新たなコミュニケーションをつくりあげる。XRコミュニケーションが日常の中にどんどん浸透していく…。それらを生み出せる会社って、なんだか素敵じゃないですか。”

野内

「未来のあたりまえをつくる。」というブランドステートメントを掲げるDNP。XRコミュニケーションで実現する「シームレスワールド」が“あたりまえ”になる未来も、すぐそこまでやってきている。

2023年11月公開