復興庁宮城復興局 ちださん

【復興庁宮城復興局・千田悟さんに聞く】 被災地と全国の企業をマッチングして新規事業開拓をめざす『結(ゆい)の場』とは?

復興庁では被災地域の企業と全国の大手企業等をマッチングさせて、経営課題の解決や地域の復興、新規事業開拓などをめざすプロジェクト『結(ゆい)の場』を2012年度から実施しています。DNPもこの取り組みに賛同し、2012年11月より本プロジェクトに参加しています。 今回、復興庁 宮城復興局の千田悟 政策調査官に、宮城県における『結の場』の概要や活動の成果などについてお聞きしました。

  • 被災地域と全国の企業の「お見合いの場」をセッティング!
  • 支援提案企業にもメリットが大きい『結の場』活動
  • 『結の場』から創出された新たな取り組み
  • 持続可能な地域経済の実現に向けた『結の場』の課題
ちださん

復興庁 宮城復興局 産業支援班
千田 悟(ちだ・さとる)政策調査官

2005年4月にアルプス電気(株)(現在のアルプスアルパイン(株))入社。通信デバイスに関する製品開発・設計を担当。2019年4月まで、同社の古川開発センター 技術本部 M6技術部にて車載用通信モジュールの開発・設計を担当。2019年5月から2021年3月31日まで、復興庁 宮城復興局 産業支援班に政策調査官として出向。2021年4月にアルプスアルパイン(株)古川開発センター技術本部に戻り、車載用通信モジュール設計を担当予定。

被災地域と全国の企業の「お見合いの場」をセッティング!

インタビューに答えるちださん

【取材協力】café malta (宮城県名取市閖上6丁目104-24-5)

Q:復興庁が行っている「地域復興マッチング『結の場』」とは、どのような取り組みなのでしょうか。

千田:ひと言でいうなら、被災地域を拠点とする企業(以下:被災地域企業)と、支援策を提案する全国の企業(以下:支援提案企業)の「お見合いの場」で、仲人役を復興庁が務めています。

被災地域では震災の際、津波で大きな被害を受けた企業が多く、特に沿岸部の水産業は被害が甚大でした。その状況を見て、さまざまな民間企業や省庁から復興庁に出向していた職員が発案して立ち上げた支援活動が『結の場』の始まりです。

『結の場』は、被災地域企業が抱えている経営課題と、支援提案企業が持つヒト・モノ・技術・アイデア・ノウハウといった経営資源をマッチングさせて、販路回復や新たなチャネル構築などに結びつけるきっかけを作るための場です。
具体的には、まず復興庁が被災地域企業に対して経営課題や困りごとをヒアリングし、その情報を事前に支援提案企業へお伝えします。その後、ワークショップを開催して被災地域企業と支援提案企業との接点を作ります。そして、参加企業からの支援提案を受けたら、復興庁が調整・フォローアップして課題解決に向けた実際の活動を開始するといった流れです。

この取り組みでは2012年から現在(2021年3月)までに、岩手・宮城・福島の3県で計31回のワークショップを開催していて、昨年度までのマッチング実績は計436件にのぼります。参加いただいた企業も、延べで被災地域企業が272社、支援提案企業が881社と、非常に多数の企業にご協力をいただいています。

※2020年度は感染防止のためオンラインで実施。

支援提案企業にもメリットが大きい『結の場』活動

インタビューに答えるちださん

Q:『結の場』にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

千田:被災地域企業はもちろんですが、支援提案企業にも十分メリットがあります。

まず、被災地域企業のメリットとしては、大手などの全国の企業のノウハウやアドバイスが得られることに加え、通常の商談会や展示販売会とはまた異なる、全国の企業とのネットワークづくりや新しい販路の開拓も期待でき、短期的な売上アップだけでなく、継続的な取り引きや商品開発を展開するきっかけにもなります。
また、同じ地域にありながら今まで接点や交流がなかった被災地域企業同士のつながりが生まれていて、実際に新事業や商品開発を検討している事例もあります。このように『結の場』がさまざまな形の結びつきを生み、次々に新たな価値が創造されています。

一方、支援提案企業のメリットですが、CSR(企業の社会的責任)活動で被災地の支援をするにしても、自社のみで独自に実行するのは容易なことではありません。復興庁がセッティングする『結の場』であれば、幅広い地域からさまざまな経営課題を抱えた被災地域企業と出会えるため、効率的・効果的な支援活動を行うことができます。被災地域企業と協力して新規事業を開拓する、CSV(共通価値の創造)としてのビジネスにつながる可能性も大いにあります。
加えて、実際に何人もの被災地域企業の経営者と対話ができる機会はそうそうありません。支援提案企業の社員が今までにない新たな視点や考え方を身につける場として、社員教育的な観点からも意義があるものだと感じています。

『結の場』から創出された新たな取り組み

結の場のマッチングの様子

第26回地域復興マッチング「結の場」の様子(2019年)

Q:『結の場』の主な活動事例をお教えください。

千田:事例は数多くありますが、まず私の出向元の企業であるアルプスアルパインでは、被災地域の食材を採用した復興支援メニューを社員食堂で提供しました。同時に被災地域企業の製品を社内販売することで、売上に加えて被災地域企業のPRにもつなげました。弊社の社員食堂はおよそ1,000人が利用しているため、社員の家族・知人への拡散も考えると、良いプロモーションになったと考えています。

先ほどお話した被災地域企業同士のつながりとしては、宮城県石巻市のわかめ漁を営むマルナカ遠藤水産様と、仙台市にある宿泊業者・仙台ロイヤルパークホテル様の事例があります。ホテルの支配人からレストランメニューのリニューアルに合わせて地元の食材を導入したいという提案があり、『結の場』を利用したマッチングの結果、レストランの朝食にマルナカ遠藤水産様のわかめを採用することになりました。さらにその後、支配人がその味や品質、経営者の熱い想いに感銘を受け、わかめ以外の水産物もマルナカ遠藤水産様に紹介してもらうようになるなど、継続的なビジネス関係に発展しているそうです。

被災地域企業と支援提案企業、そして支援提案企業の取引先という、3つの企業群によるコラボレーションへと発展しています。支援提案企業の取引先も加わるのは『結の場』では初めての事例となります。実際に商品を全国発売するまでに至ったDNPの提案事例も非常に印象的で、素晴らしいマッチングになったと考えています。

被災地域企業の株式会社東松島長寿味噌様と、支援提案企業であるDNP、そしてDNPの取引先である東海漬物株式会社様による3社のコラボレーションで商品を開発。地域で親しまれてきた素材を採用し、手軽に旅行気分が味わえる「おうち旅シリーズ」第一弾として2021年3月に販売開始。パッケージにも『結の場』をきっかけに誕生した商品であることが記載されています。

また、あいにくのコロナ禍で断念することとなりましたが、DNPの皆さんには石巻広域圏全体の各地域・事業者とのコラボレーションで、防災教育を兼ねた社員研修旅行の企画もご提案いただいていました。こちらも状況が落ち着いたらぜひまたご検討いただきたいですね。

持続可能な地域経済の実現に向けた『結の場』の課題

インタビューに答えるちださん

Q:被災地において持続的に発展し続ける地域経済を実現するためには何が必要だと考えますか。

千田:被災地域では震災前から人口減少が課題となっていましたが、それが震災の影響でより顕在化しました。これにより雇用の場となる企業や事業がない地域には人がいなくなってしまいますので、持続可能な地域経済を実現するためにも、産業の再生が不可欠です。

『結の場』でもここ数年は人材育成や新規チャネルの開拓、EC(電子商取引)等に関する相談、プロモーションやマーケティングに関するものなど、継続的な事業展開につながる課題が増えてきていますが、まだ直近の売上を重視した、短期で完結するようなマッチングが多い状況です。被災地域の持続的な発展を実現させるためにも、被災地域企業・支援提案企業の双方がビジネス上のメリットを感じられるマッチング事例のさらなる増加を望みます。
また、宮城県沿岸部といえば、基幹産業である水産業の発展と持続的な成長も外すことはできません。
『結の場』のようなワークショップや、支援機関などが行っている商談会を、地域の雇用創出、地域の活性化につなげていければと考えています。

Q:今後の復興支援についてお気持ちをお聞かせください。

千田:これからは、どのような業種・業態においても、企業一社で事業を完結させるのは難しい時代になるため、企業間の連携がより重要になると考えています。例えば水産業であれば、人口減少や水産資源の減少を踏まえ、漁業者・卸業者・加工業者・販売業者の連携による商品やサービスの新たな提供方法を検討したいところですが、そのためには企業間の接着剤となるコーディネーターがいればスムーズに運ぶと思います。今後は、各企業と同じビジョン・想いを共有し、事業を前に進められる人材の育成や支援にも力を入れていく必要があると感じています。

閖上を背景に立つちださん

復興庁・千田政策調査官へのインタビューを終えて

復興庁の地域復興支援マッチング『結の場』の取り組みは、国連で採択された2030年までに達成すべき「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち
ゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」
ゴール11「住み続けられるまちづくりを」のほか、
企業同士の協力による新規事業開拓によって
ゴール9「産業と技術革新の基盤をつくろう」
にも大きく貢献できる取り組みであるとも理解できます。

DNPは、この『結の場』マッチングプロジェクトに2012年から参加しています。震災から10年が経過してもなお、課題が山積する被災地域の復興の支援に加え、社会課題を解決するとともに人々の期待に応える新しい価値を社会に提供するために、被災地域企業との共創にさらに取り組んでいきます。

復興庁 地域復興マッチング「結の場」の取組みについては、下記をご覧ください。
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat4/sub-cat4-1/yuinoba.html

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