自動車メーカーと二人三脚で築いた“あたりまえの価値”  サイドバイザーのこれまでとこれから

皆さんは、自動車のドアガラスの上に付いていて、窓を開けても雨が入るのを防ぎ、換気を手助けしてくれる小さな庇(ひさし)の名前をご存知ですか? 日本ではすっかり「あたりまえ」になっているそれは「サイドバイザー」という製品で、オプション品でありながら、高い装着率を誇る隠れたヒット商品なのです。今回は、DNP田村プラスチックによるサイドバイザーの誕生秘話や、現在も高いシェアをキープし続けている価値の秘密をご紹介します!

目次

トンボちゃん活じいによる4コマ漫画。車の窓にはなくてはならないサイドバイザーについて語る。

登場人物

活じいのアイコン

活じい…金属活字じいさん。活字としてのキャリアは100年以上。長い経験で培われてきたDNPグループに関する豊富な知識で、いろいろなことを教えてくれる生き字引的な存在。

トンボちゃんのアイコン

トンボちゃん…印刷物の見当合わせトンボから生まれたキャラクター。きっちりした性格で、曲がったことが大嫌い。細かな気遣いで活じいをサポートします。

  • 【印刷用語:見当合わせ】見当とは、多色印刷において各色版の重ね合せる際の位置精度のこと。版面にトンボといわれるレジスターマークを入れて、見当を合わせるようにしている。

ふとした親切から生まれた、車載用品の“未来のあたりまえ”

今や国内の自動車に欠かせない定番品となったサイドバイザーですが、その誕生のきっかけは、DNP田村プラスチックの創業者・田村愼一が体験したある出来事でした。マイカーブーム到来直前の1955年、自動車で走っていた彼は、道端で突然の雨に降られて困っていた母娘3名を見かけ、思わず自分の車に乗せてあげることに。ところが、車載エアコンもない当時、豪雨で窓が開けられず、4名が乗った車内はみるみるうちに湿気が充満し、窓は真っ白になってしまいました。帰宅した彼は「雨の日も窓を開けて換気できるひさしのようなものがあれば、乗っている人も快適だろうに…」と思い立ち、翌1956年のサイドバイザー開発につながったのです。

サイドバイザーの写真

こうして生まれたサイドバイザーは、生活者から高い支持を集め、オプション装備品ながら着実に普及していきました。その過程で常に解決が求められたのは、雨よけや換気といった機能を発揮しつつ、「自動車本来の性能やデザイン性を損なってはいけない」という課題でした。技術の高度な集積物である自動車に“完成後に装着する”という難しさに加え、時代の変化にともなって重視されるポイントも安全性、燃費性能、デザイン性などへと拡大。その都度、自動車メーカーとの入念な打ち合わせやテストを繰り返し、厳しい条件をクリアしていきました。

サイドバイザーが60年以上にわたって高いシェアを維持・拡大してきた背景には、自動車メーカーと二人三脚で歩んできた、モノづくりの真摯な姿勢とノウハウがあるのです。

さまざまな工夫が詰まった“名脇役”

サイドバイザーの製品としての特長を見てみましょう。普段は意識しない、そこにあるのがあたりまえのパーツですが、この製品で国内の高いシェアを持つDNPグループならではの、さまざまな工夫が詰め込まれています。

まず、自動車ごとの形状や使用条件に合わせて自在に成形できることが大事になるため、加工性・耐候性・耐薬品性に優れるアクリル樹脂を素材として選定しています。そこに、自動車用品として欠かせない「視界の確保(透明性)」や「耐熱性と耐衝撃性の両立」といった特性も持たせるため、材料配合に細かな調整を施しています。

また、設計に関しても独自のノウハウを活かし、迅速かつスムーズな空気の流れを促すとともに、風切り音を低減し、燃費性能を保つため、自動車ごとに最も効率的な形状を追求しています。特に近年、ハイブリッド車や電気自動車の増加にともなって、静粛性確保の条件がより厳しくなっており、高い品質での対応に努めています。

さらに製造面では、自動車本体の形状が決まってから発売までの比較的短い期間内に納品する、スピーディな対応が求められます。そこで設計から製造までの一貫した体制を構築。金型づくりや配送といった、これまで社外に委託してきた業務の部門も社内に設置するなど、多くの関係者がサイドバイザーに関するノウハウを共有することで、高品質な製品を低コストかつ短納期で製造しています。

  • 一般的には約1年、短い場合は3〜4か月という納期に対応。

サイドバイザーの製造工程

サイドバイザー製造の流れ
設計から製造まで一貫して行うとともに、部署を横断した改善委員会を設置して日々活動するなど、品質はもちろん、生産性や安全面もコントロールする地道な努力も強みとなっている。

モビリティ全般へと活用領域を広げるサイドバイザーのノウハウ

自動車メーカーと二人三脚で培ってきたサイドバイザー関連の技術や知見は、CASEに代表されるモビリティ関連のトレンドの変化によって、その活用領域を広げつつあります。樹脂加工技術であるため自在な形状に成形できるうえ、モビリティの性能を損なうことなく装着するノウハウも備えていることで、次世代モビリティに求められる多彩な機器に応用できると見られているからです。

  • CASE : Connected(コネクテッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の略で、自動車業界の事業の方向性を示すキーワード

例えば、現在DNPグループでは、今後の増加が見込まれる電気自動車、自動搬送車(AGV)やドローン等の“自走モビリティ”に適用するワイヤレス給電システムの開発や、シェアリングカーや公共交通機関等でのニーズが高まる抗菌・抗ウイルス製品への展開など、さまざまな研究および事業化検討を進めています。

今後展開していく事業イメージイラスト

さらにその先には、リサイクル性を高めて環境負荷の低減に寄与する「単一素材(モノマテリアル)化」や、換気性能の向上に寄与する「透明成型技術」、5G対応部品の高度化に寄与する「センシング部材への流用」といった領域での活用も期待されています。DNPグループは、次世代のモビリティ(移動体)市場全体を見据え、自動車メーカーをはじめとした多くのパートナーとのネットワークも活かし、新しい価値を提供する多彩な事業を展開していきます。

1950年代、自動車の大衆化を見据え、生活者視点のモノづくりを追究して生み出されたサイドバイザー。半世紀を超えたいま、そこで培ってきた技術やノウハウがモビリティ関連の新たな“未来のあたりまえ”を生み出していきます。

トンボちゃんのアイコン

今回は、車のひさしから話が広がってびっくりしちゃったわ。

活じいのアイコン

時代は変われど生活者の視点は欠かせない、というところじゃな。サイドバイザーの遺伝子を受け継いだ新たな製品が、今から楽しみじゃ!

サイドバイザーの生みの親、DNP田村プラスチック

ふとした親切がきっかけで生まれたサイドバイザーは、DNP田村プラスチックの樹脂成型技術や製造ノウハウによって支えられています。同社は2015年にDNPグループに加わり、現在は「オールDNP」の一員として多様な技術・ノウハウを掛け合わせ、高い相乗効果による事業の拡大を進めています。
DNPでは、印刷技術の応用・発展によって、事前に性能をシミュレートする「流動解析技術」や、用途に合わせて自在かつ精密に加工する「微細加工技術」、最適な性能を引き出す「材料配合技術」などを培ってきており、DNP田村プラスチックの強みとの融合によって、さらなる価値創出の可能性を広げていきます。

  • 記載された情報は公開日現在のものです。あらかじめご了承ください。