やっぺす運営の方々

「石巻復興支援ネットワーク『やっぺす』」に聞く、市民自身の手による復興!に向けた取り組み

宮城県石巻市の特定非営利活動法人『石巻復興支援ネットワーク やっぺす』は、2011年3月の東日本大震災の直後から復興支援活動に取り組み、女性活躍推進や子育て支援などへと、活動の場を広げています。 この10年間、継続して復興支援の活動を推進している『やっぺす』スタッフの皆さんに、主な活動の内容や今後の展望などをうかがいました。

目次

兼子佳恵さん

「復興支援活動」をきっかけに、「女性活躍推進」「子育て支援」などに活動の場を広げる

Q:はじめに『やっぺす』という名称の意味や活動の目的などを教えてください。

兼子さん:「やっぺす」は石巻の方言で「みんなでやりましょう」という意味です。組織としての『やっぺす』は震災をきっかけとして立ち上げた復興支援団体ですが、誰かに対しての「がんばって」という形ではなく、市民一人ひとりが支え合いながら「みんなでやっていきましょう」という意味を込めています。

もともとは仮設住宅の支援など、復興支援活動からスタートしましたが、復興を本当に実現するために必要な他の課題が見えてきました。その結果、活動内容は多岐にわたり、今では「女性活躍推進」「子育て支援」「復興支援活動」の3本を柱として、さまざまな支援活動を行っています。

Q:『やっぺす』ではさまざまな活動をされていますが、具体的な内容を教えてください。

兼子さん:女性たちの「何か仕事をしたいけれど働きに行けない」という悩みを解決するために、企業から委託された内職を行う「おうちしごと」や、関西のハンドメイドアクセサリーショップSONRISAの協力を頂き立ち上げた「アマネセール」(スペイン語で“夜明け”という意味をもち、石巻のママたちが想いを込めて作るハンドメイドのアクセサリーブランド)といった事業を始めるなど、女性の活躍を推進しています。

「アマネセール」の作品

被災地において孤立しやすい状況のなかでは、頑張っているママたちにゆっくりと子どもと向かいあって欲しくて、毎週「ママこども食堂」を開催しています。コロナ禍ではみんなで集まるのは難しいため、予約制で人数制限をしたうえで、広いホールで遊んだり、相談したりできる場を創っています。帰りにはお弁当や企業協賛品、地域のみなさんからの支援品などを持ち帰っていただいて、生活に余白をつくってもらっています。また、DVや離婚を考えている女性たちの生活基盤が整うまで支援する「シェルター事業」なども行っています。

紙ひもづくりのワークショップ作品

兼子さん:復興支援としては、避難所から仮設住宅に移り、復興住宅(公営住宅)へと移るたびに分断が生まれましたので、お茶会やヨガ、農園など、孤立しがちな高齢者の生きがいになるような活動を、住民さんの声を聴きながら開催しています。

しかし、私たちがいつまでも介在することはできないので、「やっぺす隊がやってくる」から「やっぺすカレッジ」と名称も変更し、住民さんの中から紙ひもづくりやパンづくりなどが、得意な方に講師の資格を取得してもらい、講師として関わっていただく活動を2021年から始めています。講師になった方にとっても、人に教えるのがひとつの生きがいになっているようです。

髙橋洋祐さん

髙橋さん:震災直後から、DNPには復興コーディネート事業で関わっていただきました。当初は力仕事が中心でしたが、2013年からは毎年、コロナ禍の2020年と2021年を除いて、復興住宅の掃除で大勢の方に来ていただいています。その際には、地域の人たちと車座になって話をすることもあり、被災者の貴重な経験を伝えられる場にもなっていて、理解を深めることで地域の人々の尊厳を守る活動だと感じています。

多岐にわたる活動がつながって地域を支える

※写真左から、松坂久子さん/戸田香代子さん/近藤槙耶さん/髙橋洋祐さん/柏原としこさん

Q:10年間にわたる『やっぺす』の活動で手応えを感じていることはありますか。

戸田さん:私たちはもともと仮設住宅でコミュニティの構築と引きこもりがちな方々のための活動でした。10~20人程度で集まってお茶会や手芸などをし、参加された方からは「この時間だけは自分の時間だった」「震災のこと、不安などを忘れられ無心になれる時」「一人じゃないと感じる」「人と話ができる場」といった声が多く聞かれました。

作品をほめあい、好きや得意が見つかるという生きがいづくりと皆さんがつながるきっかけ、誰かが自分を気にかけてくれているという実感を感じてもらっていると思っています。

また、DNPによる復興住宅の掃除活動支援を通じて、孤立していた住民さんが、隣人と関わり合うようになり、挨拶やイベントに参加するようになり、支えあいのきっかけとなりました。

10年間で『やっぺす』の活動は多岐にわたるようになりましたが、それぞれが別のものではなく、すべてがつながっています。仮設住宅のコミュニティ支援がきっかけで、学びの場の必要性を感じて「人材育成事業」がはじまり、外で働けない方々のための「おうちしごと」や「アマネセール」という事業が生まれ、仕事づくりの必要性を感じ「起業家支援」がスタートしました。活動を通じて見えてきた新たな課題を解決しようと事業がどんどん派生していきました。

「ママこども食堂」に通われていたママたちや人材育成の講座を受講したひとなど、一般の市民が、『やっぺす』の活動に関わることで活動をはじめ一歩ずつ進んでいって、起業や、個人事業主として、自分のお店を持つなど、夢の実現を叶えています。そして、『やっぺす』でつながり、互いに応援しあうコミュニティの形成も出来上がっています。

2013年から2018年まで実施していた「石巻に恋しちゃった♡事業」では、生業にしている方以外に趣味や特技のある一般の住民の方々を「達人」と呼び、1ヵ月の間、様々なワークショップを石巻圏域いたるところで実施し、地域の魅力を発信するイベントを開催しました。

参加者人数は各回1000名を超え、NPOだけではなく広く一般の方々が地域でどんなことが起きているかを知るきっかけにもなりました。参加した方から次々と達人が生まれ、地域で発掘した達人は250名。誰でもチャレンジできるという希望を提供したと思います。
そして2018年には、コーチング、メンタルヘルス、レジリエンス(折れない心)のスキルを身に付けたこころの講師を育てる事業を始めました。資格を取得した人が今度は講座を開催して、地域の人が地域を育てる形をつくっているところです。

Q:コロナ禍における『やっぺす』の社会的存在意義をどう捉えていますか。

柏原さん:困った時の『やっぺす』として、どこかに相談したい時に頼られる存在でありたいと考えています。地域の方々に『やっぺす』に相談したら多様な選択肢があることを知ってもらえる場所になれたらと思います。『やっぺす』のスタッフも普通の主婦からスタートしていますので、私にもできる、やってみたい!と思ってもらえたら良いですね。

戸田さん:コロナ禍では孤独になりがちですので、一人で悩んでいる人に寄り添える団体になれたらと思っています。例えば「石巻に恋しちゃった♡事業」では、一人では前に進めないところに寄り添って、伴走者としてサポートしてきました。「みなさんといつも一緒だよ」ということを示していきたいです。

自分らしく活躍できる社会の実現をめざして

柏原としこさん

Q:『やっぺす』の活動は、国連が採択したSDGsのさまざまな目標達成に貢献するものですが、持続可能な社会としての復興を実現するには何が必要だとお考えですか。

柏原さん:持続可能な地域社会づくりに向けては「ハードルがない学びの場」が必要だと考えています。例えば、大学を卒業していなければ取得できない資格は学歴が大きなハードルとなります。そのようなハードルがない状態で、それぞれの人が求める知識や技術が習得できる学びあいの場を創り続けることを意識しています。

また、無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)で、女性が自由に発言しにくいケースもまだあります。性別に関わりなく、男性も女性も自分らしく活躍できるように、女性スクールなどを通して、“気づき”が得られる場をつくっていくことが、ジェンダー平等につながっていくと考えています。

Q:今後の『やっぺす』の活動についての展望を教えてください。

柏原さん:復旧が一段落してから復興計画が実施されるまでの期間は、変化が少なく停滞感があるため、「復興の踊り場」と呼ばれています。その期間の地域住民の精神的な負担が懸念されます。そこで『やっぺす』では地域住民を精神面からサポートするため、25名の専門家(コーチング、メンタルヘルス、レジリエンス)を育成しました。学びの場と同様に、これからは育成した講師たちに活躍してもらい「生き抜く力」を地域の人たちと学びを通じて伝えていきたいと思います。10年後はどこよりもしなやかでメンタルが強い石巻をめざしていきたいです。

私たちはミッションとして、「“私らしく生きる”が叶えられるまち」を実現するための活動に邁進しています。~しているから幸せというだけではなく、それぞれが求める幸せを実現できる土壌をつくっていきたいですね。『やっぺす』はこれまでも、これからもずっと地域に寄り添いながら事業を行っていきます。

Q:最後に『やっぺす』への支援・応援の方法をお知らせください。

柏原さん:賛助会員などの形でのご寄付はもちろん、「アマネセール」の商品や、リュックをはじめとした「無事かえる」シリーズの防災グッズなどを購入していただくことも支援につながります。『やっぺす』開催のイベントや講座に参加していただいたり、『やっぺす』の活動や石巻の現状をSNSなどで発信していただいたりすることも大切な支援となりますので、ぜひよろしくお願いします。

「一緒にやっぺす!」
みんなで支え合い、乗り越えていきましょう。

※写真左から、松坂久子さん/戸田香代子さん/近藤槙耶さん/柏原としこさん

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『やっぺす』の取り組みは、「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち、

・ゴール4「質の高い教育をみんなに」
・ゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」
・ゴール8「働きがいも経済成長も」
・ゴール10「人や国の不平等をなくそう」
・ゴール11「住み続けられるまちづくりを」
・ゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」

といった目標達成に寄与するものであり、地域の社会基盤づくりに加え、特に女性の自立や子育て支援に大きく貢献しています。

『やっぺす』の活動についてはこちらをご覧ください。

SDGsロゴ

DNPは、震災からの10年間、さまざまな復興支援活動を継続して行っています。石巻市でこれまでに10回ほど実施したボランティア活動では、『やっぺす』に現地コーディネートのご協力をいただいています。

被災地域の住民同士で支え合い、課題を解決していく『やっぺす』の活動は素晴らしいものです。被災地域の復興はまだまだ道半ばですので、DNPは今後も引き続き被災地域の復興支援活動に取り組んでいきます。

【復興支援活動に参加したDNPグループ社員の声】

石巻市の仮設住宅で清掃活動に参加する榎戸さん(右)夫婦

東日本大震災復興支援ボランティアには8回ほど参加し、家族参加型になってからは家内と一緒に現地に赴きました。『やっぺす』の方々とともに、被災地の視察、仮設・復興住宅の清掃、造園支援、漁業支援、海岸の整備などさまざまな支援を行いましたが、実際に足を踏み入れなければわからないことがたくさんありました。石巻の防潮堤工事は行くたびに増設されていて、復興が進んでいると感じながらも、景観が様変わりして海が見えなくなっていく状況に複雑な気持ちになりました。そして活動を通して被災地域住民への『心のケア』が重要であることがわかりました。会社主催のボランティア活動では、個人では難しい社会活動を、参加したスタッフとともに協同で成し遂げられることを体験しました。この体験を通し、社会貢献・福祉活動等への関心が高まり、また社会においてはその活動の広がりによってともに支え合い、交流する地域社会づくりが進むのではないかと思いと、大きな意義を持っていると感じました。
なお、私事ではありますが、栃木市は2019年秋に豪雨被害にあい、自宅敷地も浸水被害にあいました。それでも地域の方々と連携し協力しながら災害処理をしました。それもこのボランティア活動に参加してきたからこそ自発的に動けたものだと感じています。

石巻市牡鹿半島で牡蛎養殖筏のブイを清掃する鬼澤さん(左)

これまでに複数回ボランティア活動に参加しました。実際に現地へ行き、被災された方々と一緒に活動しお話をうかがえたことは、とても良い経験になりました。
その一つ目は、さまざまなボランティア活動をきっかけとした、被災された方々との心のふれあいです。たくさんの感謝の言葉や笑顔をいただき、逆に私が元気をいただいたことは忘れられません。二つ目は、活動をより良い形にするために、新しい手法を次々と試して改善し、目に見えて効率が良くなっていく過程を何度も体験できたことです。これは参加者の気持ちが「被災された方々の為」に能動的に重なり合った結果だと感じています。
私は当初、ボランティアは相手の気持ちに寄り添いながら相手のためにするものだと思っていましたが、参加者である私自身も多くのものを得ることができました。ぜひ、より多くの方に経験・体験してもらいたいと思っています。

東松島市大曲地区で防災林の植栽活動に参加する円山さん(右)親子

私は当時小学6年生だった長男を連れてボランティアに参加しました。震災以降、東北の被災地に対して何もできていなかったので役に立てるならという思いと、夏休みということで長男に日常できない経験をさせたかった、震災遺構など現地を見せたかったのが参加した理由です。活動参加後、約2年半が経ち、息子とともに当時を振り返ったところ、「海岸にクロマツ林を再生させるための除草・植栽作業に参加することで、海岸の森が防災に役立つ事を初めて知った」「海岸でプラスチックの粒を拾う作業を通じて、有害なマイクロプラスチックが人体にも影響を及ぼしかねない事を初めて知った」など実体験したことが知見となっていて、良い経験をさせてもらったと思いました。そしてその翌年には、
被災地を訪問することも地域の人のためになると考えて、長女も連れて家族で震災遺構をあらためて見に行きました。
被災地のことを知ることで災害への意識は確実に高まりましたが、一度の経験で終わらせず継続して関わっていくことが、永続的な意識づけには必要と感じています。小さなことでも、子どもたちでもできる防災活動や社会貢献活動について、改めて家族で話す機会を持ちたいと思います。

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