今回のテーマは、光を拡げる、光を集める 技術で広がる用途。ホログラムについてのタイトルイラスト。

光を自在に操る「ホログラム」技術最前線!

各種カードや金券、ブランド品などでキラリと光るホログラム。これはデザインの効果に加え、簡単には複製できない高度な製造技術を要するため、偽造防止対策として効果を発揮しています。今回は、こうしたデザインやセキュリティの強みにとどまらず、次世代の情報表示技術としても発展しつつあるホログラムの最前線をご紹介します!

目次

カードについているホログラムについて話し合うトンボちゃん活じいの4コマ漫画。

登場人物

活じいのアイコン

活じい…金属活字じいさん。活字としてのキャリアは100年以上。長い経験で培われてきたDNPグループに関する豊富な知識で、いろいろなことを教えてくれる生き字引的な存在。

トンボちゃんのアイコン

トンボちゃん…印刷物の見当合わせ※トンボから生まれたキャラクター。きっちりした性格で、曲がったことが大嫌い。細かな気遣いで活じいをサポートします。

  • 【印刷用語:見当合わせ】見当とは、多色印刷において各色版の重ね合せる際の位置精度のこと。版面にトンボといわれるレジスターマークを入れて、見当を合わせるようにしている。

高度な光学設計と加工技術を駆使する「ホログラム」

「ホログラム」は、ギリシア語の「holos(すべて)」と「gram(記録)」を組み合わせた言葉で、人が対象を視覚で認識するために必要な光を「すべて記録したもの」という意味が込められています。電子顕微鏡の開発が進められるなかで、1947年にホログラムの製造技術であるホログラフィーが誕生しました。

ホログラムの製造には高度な光学設計と微細な加工技術が必要になるため、多様なカードや金券、ブランド品や身分証、化粧品や医薬品等のパッケージ、自動車部品や電子機器等の偽造品防止対策に活用されています。また、ネット通販の普及によって、購入した商品が本物か偽物かを判別するニーズが、生活者一人ひとりにまで広がっています。

ホログラムの利用事例

パスポート(左)やクレジットカード(中央)、セキュリティラベル(右)などで利用されているホログラム

“光”の情報を記録し、立体像などを魅力的に表現

「ホログラム」は、どのように立体像などを記録し、表現しているのでしょうか?

私たちが物を見るときには、光がその対象物に当たり、反射した光が目に入って対象物を認識しています。光の振幅(強さ)や波長(色)の情報をもとに、対象物の形や色を把握するのです。
テレビやパソコンで見る映像は、ディスプレイからの光の振幅と波長で認識していますが、奥行きの情報がないため、二次元の像しか再現することができません。立体物を撮影した映像をディスプレイの斜めや横から見ても、映像はつぶれるだけで立体的には見えないのです。

これに対してホログラムは、光の細かい明暗の縞模様である「干渉縞(かんしょうじま)」を発生させ、光の振幅と波長に加えて「位相(反射してくる方向)」を記録することで、立体的な像(イメージ)を再現できるようにしています。

ホログラムの記録と再生の仕組み

レーザー光を2つの方向に分割し、一方を対象物に反射させた物体光として、一方を参照光として、ホログラムの感光材の上で重ね合わせる。それによって、位相(方向)の情報を含む干渉縞が発生し、ホログラムの感光材がこの干渉縞を記録。そこに光を当てることで、対象物を立体的な像(イメージ)として見ることができる。

このホログラムの干渉縞の記録方法にはいくつかの方式があります。代表的なものが、干渉縞の情報を感光材表面の凹凸構造として記録した「エンボスホログラム」と、感光材料内部の屈折率分布で記録した「リップマンホログラム」です。
エンボスホログラムは輝度が高く、微細な画像の表現が可能で、量産性にも優れています。セキュリティ用途や意匠性の向上のため、幅広い分野で使用されています。
リップマンホログラムは、よりリアルで奥行きのある立体的な画像を記録して、表現することができます。特殊な記録材料や高度な技術が必要で、ホログラムの記録・量産の工程でも専用の設備を使用するため偽造が極めて困難であり、主にセキュリティ用途で強みを発揮しています。DNPは2001年にリップマンホログラムの量産体制を確立しており、現在、国内で唯一リップマンホログラムの各種製品の量産に対応しています。

高輝度・高精細の「エンボスホログラム」(左)と、上下左右の立体感を表現できる「リップマンホログラム」(右)

DNPは印刷物の制作プロセスで培った微細な加工技術を発展させて、半導体の回路パターンの原版となるフォトマスクなどを製造しており、同様の技術を生かしてホログラムの設計・製造も行っています。ホログラムに関する豊富な技術・ノウハウをもとに、高品質な製品を数多く開発しており、多種多様な社会実装の実績があります。

例えば、エンボスホログラムと電子線(EB:Electron Beam)描画技術を組み合わせて2003年に開発した「バーチャグラム®」は、対象物にレーザー光を当てて作製するのではなく、3次元CGによる実在しない立体物をホログラムにするものです。この技術を進歩させて、2017年には、3次元CGのデータから高品質なフルカラーのエンボスホログラムを量産できるようにしました。豊かな発色表現とリアルな質感、なめらかな動きと奥行きを実現しています。

フルカラー3DCG「バーチャグラム®」

フルカラー3DCG「バーチャグラム®」

また、従来は特殊な器具が必要だった真贋判定を手軽に行えるように、使い勝手を高めた「LED判定ホログラム」を2016年に発売。ハンディタイプのLEDの光源やスマートフォンのライトをホログラムに当てると、正規品の場合は適切な文字や絵柄が浮かび上がります。このホログラムの真贋判定の状況をスマートフォンなどのカメラで撮影し、その写真データをメールで送ることで、遠隔地にいる関係者とも情報共有できます。

LED判定ホログラム

2021年には、「DNP非接触ホロタッチパネル」を開発。タッチパネルに赤外線などで空中の位置を検出するセンサーを設置し、このセンサーと同じ位置にホログラム像を浮かび上がらせることで、目に見えない検知エリアを視覚的に認識できるようになります。それによってセンサー検知エリアで指を動かしやすくなり、タッチパネルの画面に触れることなく、容易に操作できます。
*Discover DNP:社会ニーズに応える“触れないパネル”「DNP非接触ホロタッチパネル」
https://www.dnp.co.jp/media/detail/10161948_1563.html

“光を拡げる、光を集める” ホログラムの新たな可能性

近年は、“光を拡げる、光を集める”というホログラムの特性を活かし、例えば、車載用ディスプレイ部品やスマートグラス用の光学部品への展開など、新たな視点で社会実装していく研究も進んでいます。AR(拡張現実:Augmented Reality)や透明スクリーンへの投影など、空間に像を映し出すさまざまな技術の開発・実用化が進むなか、有力な技術のひとつとして、ホログラムの可能性が再評価されているのです。

中でもDNPは、フィルム等の基材にさまざまな機能を持った材料を均等かつ精密にコーティングする技術や光学技術などを強みとしており、光を制御するフィルム製品で世界トップシェアを獲得しています。こうした光制御技術とホログラムの掛け合わせによって、新しい価値創出の可能性を広げています。

これまでは主に偽造防止対策やブランド価値向上などで馴染みのあるホログラムですが、人々の生活スタイルの変化やデジタル技術の進展などを受けて、産官学の連携によってさまざまな研究が進んでいます。1972年にホログラムの製品開発に着手し、半世紀にわたる実績を積んできたパイオニアであるDNPは、「P&I」(印刷と情報)の強みを活かして、“未来のあたりまえ”となる新しい価値を創出していきます。

トンボちゃんのアイコン

ホログラムって「キラキラ光ってきれい」ってイメージしかなかったから、こんなにいろんな場所で使われてるなんてびっくりしたわ〜。

活じいのアイコン

すでに社会に普及している上、さらに技術革新の可能性があるのが、ホログラムの奥深さじゃな。人の視覚に関わる技術として、これからもさまざまな活用例を生み出していくじゃろう。

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