DNPの5G用フィルム型アンテナを中心に、スポーツ観戦、自動運転、遠隔医療、などのスマートシティが実現しているイメージイラスト

「Society 5.0」の推進力となる『5G用フィルム型アンテナ 』

政府がめざす理想的な未来社会「Society 5.0」の実現に欠かせない5G(第5世代移動通信システム)。DNPは5Gの普及に貢献するため、「5G用フィルム型アンテナ」の2024年 中の量産化に向けて、パートナー企業と実証実験を行っています。円柱や曲面にも対応できるしなやかさがあり、優れたデザイン性をも付加できるため、屋外や屋内の多様な場所に設置できる画期的な5G用アンテナ。その開発の経緯と主な特長や仕組みについて、開発リーダーの石田太郎に聞きました。この新しい製品が切り拓く未来の世界をのぞいてみましょう。

目次

Society 5.0=超スマート社会を実現するための5Gの普及を!

Society 5.0とは、日本政府がめざしている理想的な未来社会像のこと。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ビッグデータ、ロボットといった先進の科学技術を活用して、現実世界と仮想空間を融合させるシステムなどによって、さまざまな社会課題の解決と経済発展を両立させる“人に優しい超スマート社会”のことです。

その実現に欠かせないのが、ネットワークの基盤となる5Gの全国津々浦々への普及です。2020年3月には、大手通信キャリアによる5Gの本格的な商用サービスとともに、企業や自治体が主体となってスポット的に展開するローカル5Gもスタート。自らの建物や敷地内にプライベートなネットワークを構築するローカル5Gは、工場の生産体制のスマート化やテレワークの一層の円滑化、より安全性・信頼性の高い防災システムの構築などへの活用が期待されています。

パブリック5Gとローカル5Gの違いをエリアと利用用途でまとめたイラスト

                           ※特定のエリア内のみで使用するため、セキュリティ性がより高い       

「高速・大容量」「低遅延」「多接続」、5Gがつくる社会とは?

5GのGは“Generation=世代“のこと。国内の移動体通信の世界は、1980年代の自動車電話やショルダーフォンなどアナログ無線による「1G(第1世代)」の通信システムに始まりました。その後、アナログからデジタルに変わり、電子メールやインターネット接続が可能になった1990年代の「2G」、通信が大幅に高速化して国際標準のシステムとなった2000年代の「3G」を経て、2010年代にはさらに通信速度が速まってゲームや動画などをスムーズに楽しめる「4G」へと、およそ10年ごとに大きく進化してきました。ガラケーからスマホへと端末が一気に変貌したのも、4Gの特長でした。そして今、いよいよ5Gの到来が期待されています。

4Gに比べて、5Gが格段に優れているところは大きく3つ。「高速・大容量」「低遅延」「多接続」であるということです。5Gの通信速度は4Gの約20倍、伝送の遅延は約10分の1、接続できる機器の数は約10倍という強みがあります。そんな5Gが、私たちの世界に与えるインパクトについて、石田は次のように解説します。

インタビューに答える石田太郎

研究開発・事業化推進センター基盤技術開発本部 石田 太郎

「身近なところでは、高速・大容量の特長を生かして、2時間の映画を数秒でダウンロードできたり、微妙な遅れを意識せずにオンラインゲームを楽しめたりできます。今まで以上に高精細な映像のライブ配信が可能となり、スポーツ観戦やアミューズメントの世界もがらりと変わります。
ビジネスや社会も、5Gで大きく変わると思います。多接続のメリットによって、家電やさまざまなモノを接続するIoTも一気に進むでしょう。より信頼性・安全性の高いクルマの自動運転や、ロボットの遠隔操作も実現できますね。遠隔医療などの技術も進めて、医療の地域格差の解消など、社会課題の解決につなげていきたいです。
また、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)を包含するXR(Extended Reality)技術と5Gとの融合で、エンターテインメントだけでなく、ヘルスケア関連をはじめとした各種商品開発、工事現場の安全確保や保守点検・警備の負荷軽減など、さまざまなシーンに役立ちます。理想的な未来社会、Society 5.0の実現に大きく近づくことができます。」

より多くのアンテナを設置することが5G普及のカギ!

このように大きな利点と可能性を秘めた5Gですが、実はちょっとしたウィークポイントが…。5G用の周波数の電波(Sub6帯とミリ波帯)は、4Gと比べて届く距離が短く、また直進性が強いため、建物や各種設備などで遮られて届きにくくなってしまうという弱点があるのです。そのため、誰もがどこでも5Gのメリットを享受するには、より多くの基地局(スモールセル)とアンテナが必要とされるのです。

「数多くの5G用アンテナを製造して設置すれば、この課題は解決するのではないかと思われるかもしれませんが、そう簡単なことではありません」と、石田は説明します。「従来のアンテナは、可とう性(曲げても折れない柔軟な性質)に乏しく、街灯や電柱に巻き付けにくく、デザイン面でも景観と調和しにくいといった課題があったのです。」

「多くの場所にある街灯や電柱はアンテナの設置場所として適しているので、ならば自分たちで、円柱や曲面に巻き付けられる柔軟なフィルム型のアンテナをつくろうと考えました。優れた意匠性も備えて、耐候性も高めることで、屋内・屋外を問わずさまざまな場所に設置できるアンテナになる!」と、石田らは課題解決に乗り出しました。

フレキシブルで、景観を損ねず、屋内外に設置可能な5Gアンテナを創造する!

5Gの普及と超スマート社会の実現に向けて、既存のアンテナの課題を解決するため、DNPが独自開発した製品が「5G用フィルム型アンテナ」です。

5G用フィルム型アンテナ

この製品の開発構想が浮上したのは、石田が入社した2019年のこと。その頃、社内にはアンテナの設計・評価ができる技術者がおらず、石田は大学の先生や専門機関などの外部有識者を訪ね歩いて、「アンテナとは何か?」「どうすれば開発できるのか?」というファーストステップから始めました。

「入社3年目でこのテーマのリーダーを任されることになりました。アンテナ本体の開発では、材料選びから、設計、試作、構成要素の見直し、性能評価まで何度も繰り返し、5GのSub6帯に使用可能な性能を一つずつ実現していきました。形状や給電線のデザインを工夫することで、Sub6帯アンテナとしての通信性能と直径15cmの細い円柱にも巻き付けられるしなやかさを併せ持ったフィルム型アンテナを生み出しました」と、石田は振り返ります。

そんな石田たちを強力にバックアップしたのが、「オールDNP」の総合力。グループ全体の強みを活かし、基盤技術の一つであるEBテクノロジー※をアンテナの製造に掛け合わせました。フィルム表面に塗工した部材を電子線(Electron Beam)を照射して硬化させ、耐候性・耐汚性・耐傷性などを高めるEB技術によって、屋外での使用も可能になりました。また、設置場所の景観を考慮して、木目調などの表面デザインも施すことで、アーケードや地下街、街灯や電柱、オフィスや住居など、屋内・屋外のあらゆる場所に違和感なく設置できる製品が実現したのです。

フィルム型アンテナを取り付けた壁紙(左)とその拡大写真(右)

しなやかに曲がり、どこにでも設置可能で、さらに高いデザイン性を備えて、景観を損ねることなく周囲の環境に溶け込めるDNPの5G用フィルム型アンテナ。2022年3月には、電気通信事業者の株式会社オプテージと共同で、ローカル5G設備における実証実験を行って成功をおさめたほか、日本最大級の5G関連専門展「第5回5G通信技術展」にも出展して、大きな話題を集めました。
※EBテクノロジーについてはこちら https://www.dnp.co.jp/media/detail/10161147_1563.html

ローカル5Gのその先を見据え、持続可能な社会に貢献

現在、2024年度の量産化に向けて、各種通信関連会社と機能検証などを進めています。

「まずはローカル5G向けの製品として、5G用フィルム型アンテナの優れたデザイン性や利便性を多くの人に実感していただこうと考えています。その後、大手通信キャリアによるパブリック5G用として、街中にこのアンテナが設置されるようにして、5Gのカバーエリアの広がりに貢献したいです。さらに、グローバルマーケットでの展開も視野に入れています」と、石田はこの製品の展望に触れました。

リアルとバーチャルの空間を融合するXRやメタバースも含めて、持続可能なより良い未来を拓くと期待されるSociety 5.0は、「SDGs(持続可能な開発目標)」とも密接に関連しています。日本で多くの企業や団体、生活者がSDGsのゴールを達成する上でも、Society5.0の推進が重要であり、その基盤ネットワークとなる5Gの普及・浸透は欠かすことができません。

あらゆる場所に設置可能なDNPの5G用フィルム型アンテナ。「5Gが真に暮らしに溶け込み、私たち全員が『高速・大容量』『低遅延』『多接続』の世界を実感できるよう、またSociety 5.0の実現とSDGsの達成に向けて、これからもDNPは5G用フィルム型アンテナのさらなる機能開発や量産化を推進していきます」と、石田は力強く語りました。

フィルム型アンテナを取り付けた壁紙の前に立つ石田太郎

【プロフィール】

研究開発・事業化推進センター基盤技術開発本部
石田 太郎(いしだ たろう)


2019年4月 大日本印刷株式会社入社。
大学院では次世代の高速計算機「量子コンピューター」の基礎研究を行う。
研究開発センター(現研究開発・事業化推進センター)で、通信用アンテナの設計・開発リーダーを担当。

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