松丸亮吾のMIYASHITA MYSTERY PARK 2022 created by RIDDLERのプロジェクトメンバー

バーチャル空間の活用で、商業施設の価値を拡張。メタバースで挑む、相互送客型まちづくり

2022年7〜9月、東京・渋谷のMIYASHITA PARK(宮下公園)で開催された謎解き体験イベント「松丸亮吾のMIYASHITA MYSTERY PARK 2022 created by RIDDLER」。リアル空間とバーチャル空間を連動させた相互送客型のイベントは、商業施設における集客力向上だけでなく、地域活性化の新たな可能性を示した。同プロジェクトを推進した三井不動産株式会社とDNPの共同チームのメンバーが、メタバースの持つビジネスのポテンシャルを語り合った。

目次

三井不動産株式会社 (左から)藤井彩子氏・吉村圭悟氏

三井不動産株式会社
商業施設本部 アーバン事業部
藤井 彩子 様(左)
商業施設本部 イノベーション推進グループ
吉村 圭悟 様(右)

大日本印刷株式会社 (左から)伊藤大智・田頭桃香・菊池遼

大日本印刷株式会社
ABセンター XRコミュニケーション事業開発ユニット
伊藤 大智(左)、田頭 桃香(中央)
情報イノベーション事業部 第2CXセンター
菊池 遼(右)

メタバース市場の活況と、地域課題解決の可能性

2020年には5,000億ドルだった市場規模が、2024年には8,000億ドルへ。世界的に注目されるメタバース市場の成長を示す数字が、多くのメディア・調査機関により報じられている。ソーシャルメディアやゲームの空間で活況を呈するメタバースだが、ビジネスへの活用にも高い期待が寄せられており、日本でもさまざまな企業が実験的な取り組みを進めているところだ。

  • 出典:Bloomberg Professional Services「Metaverse may be $800 billion market, next tech platform」

文化遺産や生活空間のVRコンテンツ制作などを通じて、高精細な表現技術と大量の情報処理能力を高めてきたDNPは、2021年4月、メタバース市場への参入を果たした。年齢や性別、国籍などによって利用者を分け隔てることなく、リアル空間とバーチャル空間の双方を行き来できる新しい体験と経済圏を創出する「XRコミュニケーション事業」だ。

XR(Extended Reality)はクロスリアリティとも呼ばれ、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)などの総称である。この事業の開発を担当する田頭桃香は、自治体をはじめ、地域の住民や企業と共創しながら“まち”をつくり上げていく「地域共創型XRまちづくり事業」を模索している。
 

DNPが手掛けたバーチャル空間の例

DNPが手掛けたバーチャル空間の例:
渋谷区立宮下公園 Powered by PARALLEL SITE(左上)
札幌市公認のバーチャル空間 「PARALLEL SAPPORO KITA3JO」(右上)
合同会社AKIBA観光協議会とともに開設した「バーチャル秋葉原」(左下)
神田神社公認のバーチャル空間「神田明神CG空間」(右下)
 

 
DNP
・田頭
「『渋谷区立宮下公園 Powered by PARALLEL SITE』は、公共の公園が持つポテンシャルを最大限に活かすことを目的に、宮下公園を忠実に再現したバーチャル空間です。2021年7月のオープン以来、イベントの開催をはじめ、バーチャル空間だからこそ行える事業をさまざまなアプローチで試みています。」

 
この事業の特長は、単純な“場所のバーチャル化”ではなく、新たなコミュニケーションやレクリエーションの創出、渋谷の新しいカルチャー発信、地域の教育の場 などさまざまな視点で注目を集める都市公園の価値拡張をめざしている点にある。地域・企業・クリエイターとの連携を図りながら、新しいまちづくりを実現していく“地域共創型事業 ”である。
 

DNP ・田頭
「宮下公園のようなリアルな公共空間では、イベントの開催にあたり、屋外広告条例や、安全確保のために、実施できないイベントや設置できないものの制約が非常に多く存在します。

これが公共空間の利活用の課題のひとつなのではないかととらえているのですが、渋谷区立宮下公園 Powered by PARALLEL SITE』では、こうした制約に縛られない、バーチャル空間ならではのイベントや、楽しんでもらえる仕掛けを数多く提供してきました。
また、バーチャル空間とリアル空間の連動を高めるべく、隣接した商業施設を管理している三井不動産さんと、共創させていただくことができました。」
 

DNP 田頭桃香

 

リアル空間とバーチャル空間をつなぐ、謎解きイベントを開催

2020年に再整備された渋谷区立宮下公園は「立体都市公園制度」を活用し、三井不動産が運営する商業施設「RAYARD MIYASHITA PARK」の屋上に位置している。同施設は2020年7月の開業以来「一つの課題を抱えていた」と、三井不動産の藤井彩子氏は語る。

  • 立体都市公園制度:都市公園の区域を立体的に定め、他の施設と都市公園を一体的に効率よく整備することで、土地の有効活用を図る制度
     

RAYARD MIYASHITA PARK外観

RAYARD MIYASHITA PARK外観(写真提供:三井不動産株式会社)

 
三井不動産・藤井
「RAYARD MIYASHITA PARKの開業は、コロナ禍1年目の夏であり、大々的なPRができませんでした。そのため、認知度や集客力、イベントがもたらすインパクトなど、新しいこの施設が持つポテンシャルを測ることができず、その点が当時の課題でした。
これは本施設のみの問題ではなく、ポストコロナのまちづくり全体に関わる大きな課題と認識しています。」

 

三井不動産株式会社 藤井彩子様

 
同社の担当営業として、かねてよりさまざまなソリューションを提案してきたDNPの菊池遼は、商業施設というリアルな空間にバーチャルの力で新たな価値を付与する方法として、『渋谷区立宮下公園 Powered by PARALLEL SITE』を活用したXRコミュニケーションの企画を提案。協業によるプロジェクトの構想をカタチにしていった。
 

DNP ・菊池
「もともと三井不動産さんは、『街づくりを通して、持続可能な社会の構築を実現』することをビジョンの一つとして掲げており、DNPが『地域共創型XRまちづくり』でめざすものと高い親和性がありました。“買い物”以外の価値をどのように生活者に提供していくか。このミッションを共有することから、協業がスタートしました。」

 

DNP 菊池遼

 
そして企画したのが、謎解きイベント「松丸亮吾のMIYASHITA MYSTERY PARK 2022 created by RIDDLER」だ。松丸亮吾氏が代表を務める謎解きクリエイター集団、RIDDLER株式会社が謎解きコンテンツの企画・制作を手掛け、リアルとバーチャルの両方の宮下公園に展開。双方の空間でヒントが連動するなど、参加者はリアルとバーチャルを行き来することで初めて、完全に謎をクリアできるエンターテインメントとなっている。
 

「松丸亮吾のMIYASHITA MYSTERY PARK 2022 created by RIDDLER」キービジュアル

「松丸亮吾のMIYASHITA MYSTERY PARK 2022 created by RIDDLER」キービジュアル

 
DNP
・菊池
「リアルとバーチャルのどちらからでも謎解きを始められるこのコンテンツは、いわゆる“謎解きファン”がリアルな施設に訪れるきっかけにもなります。
DNPは2021年に、バーチャル空間のみで松丸亮吾さんの謎解きコンテンツを実証実験的に展開していまして、今回はそれをリアル空間へと拡張しました。
『RAYARD MIYASHITA PARK』の認知と集客の拡大、価値の向上など、三井不動産さんのさまざまな課題の解決に最適なアプローチだと考えました。
謎解きという既存の人気コンテンツを、リアル空間とバーチャル空間の両方で楽しんでいただく点が、私たちの注力したポイントです。」

 

「松丸亮吾のMIYASHITA MYSTERY PARK 2022 created by RIDDLER」のシーン

「松丸亮吾のMIYASHITA MYSTERY PARK 2022 created by RIDDLER」のシーン(①スタート画面 ②謎解き中のフィールド風景 ③クリア後、リアルの宮下公園に誘導するメッセージ ④クリア画面)

 
カルチャーの発信地である渋谷で、リアル空間とバーチャル空間を連動させた同イベントは、先進的な取り組みとして評価された。企画・制作を担当した三井不動産の吉村圭悟氏は、その相乗効果にひとつの期待を寄せていた。
 

三井不動産・吉村
「リアルの宮下公園は、若い来場者がそこでダンスした動画をTikTokにアップするなど、一定の人気があります。
しかし彼ら・彼女らが『RAYARD MIYASHITA PARK』の店舗を訪れて購買にまでつながっているかというと、必ずしもそうではありませんでした。
顧客層の拡大を狙う上で、“バーチャル空間からの若者の集客”は、もしかするとリアル店舗に対して有効なアプローチになり得るのではないかと考えていました。」

 

三井不動産株式会社 吉村圭悟様

 
実際にイベント終了後のアンケートでは、商業施設「RAYARD MIYASHITA PARK」を初めて訪れた人は、リアル空間でのイベント参加者の約半数を占めるという結果になった。

 
DNP
・田頭
「アンケートでは『リニューアルした宮下公園の存在は知っていたが、イベントがきっかけで今回初めて訪れた』『足を運ぶことでRAYARD MIYASHITA PARKの魅力を感じることができた』といったコメントが寄せられました。
Twitterによる拡散も目立ち、なかにはブログでこのイベントの記事が掲載されるなど、その反響には手応えがありました。」

三井不動産・吉村
「年齢層もRAYARD MIYASHITA PARKのターゲットとマッチしており、バーチャルからリアルへの送客について一定の結果は出せたという印象です。
関東圏以外からの参加者も一部いらっしゃって、やや想定を超えてくるところでもありました。」



参加者の行動のより細かい傾向を把握するのは、サービス開発を担当する伊藤大智だ。


DNP ・伊藤
「関東を中心にしながらも、愛知や大阪など、来場者の分布は日本全国に広がっていました。
リアル空間での参加者は2〜3人のグループが多かったのですが、ひとりで参加されるコアなファンもいらっしゃいました。
リアル空間での所要時間を2~4時間と長めに設計しても十分楽しんでいただけた点も注目すべき結果だと思います。」

 
 
三井不動産・吉村
「この謎解きはそこそこ難しめに作成したので、途中で考える時間や休憩をする時間が必要になります。そのため、施設内のカフェやフードコートを利用するといった行動につながりました。
一定の方には、RAYARD MIYASHITA PARKの魅力を知っていただく貴重な機会になったと考えています。」

DNP 伊藤大智

 

パートナーシップの力で、価値ある「地域共創型XRまちづくり事業」を推進する

イベントを通じて見えてきた「XRコミュニケーション」の可能性。今後、どのようにビジネスの拡大に活かしていくのだろうか。
 

三井不動産・吉村
「リアルな店舗だけでなく、ECなどとも連動していくことで、かなり可能性は広がるのではないでしょうか。また、メガネ型のARグラスやMRグラスをはじめ、新たなデバイスが普及することで、エンターテインメントとしての幅も広がると思います。
個人としての意見ですが、将来的には、リアル空間とバーチャル空間が常時接続されている世界で、面白いコンテンツを提供できればと思いました。」
 
 

DNP ・菊池
「メタバースを流行の“バズワード”としてではなく、今後のビジネスとしての価値創出につなげていくことが、協業パートナーの皆さんもDNPも模索しているテーマです。
宮下公園での取り組みで明確になったのは、リアル空間という資産を持っているデベロッパーさんに対して、“送客”という価値を提供できるのは間違いないということ。
こうした価値を共有できるパートナーさんを増やし、ノウハウを蓄積していくことで、その先にある地域創生も実現できると考えています。」

 

DNPはすでに、「XRコミュニケーション」による価値提供を通じて多くの協業を実現し、パートナーシップを拡大させてきた。札幌駅前通まちづくり株式会社との「PARALLEL SAPPORO KITA3JO」、京都市との「京都館PLUS X」など、リアルとバーチャルの空間を融合して新しい体験価値を生活者に提供するビジネスは、全国に広がっている。

その過程で、ブロックチェーン技術を活用した“ファンエコノミー事業”を手掛ける株式会社Gaudiy、バーチャル空間での分身・アバターの完全自動生成アプリを手掛ける株式会社PocketRDなど、技術面での業務提携も推進。

また、スマートシティの実現に向けた「地域DX推進事業」では、実証実験から実装の段階に進んでいる案件も多い。2022年7月にはメタバースを含む先端技術を活用した企業や自治体などの事業推進の支援に強みのあるPwCコンサルティング合同会社と協業。メタバースの導入・活用をワンストップで支援し、より推進を加速していく。

“地域創生”という一つのゴールに向かい、さまざまな企業や自治体等と一体になって実績を重ねながら、DNPは多様な知見を蓄積してきている。
 

XRコミュニケーションを支えるシステム「PARALLEL SITE」の特徴

XRコミュニケーションを支えるシステム「PARALLEL SITE」の特徴

 
DNP
・田頭
「2022年は『渋谷区立宮下公園 Powered by PARALLEL SITE』で、政府が毎年11月に実施している女性への暴力をなくすための『パープル・ライトアップ運動』と連動した取り組みを進めました。
バーチャル空間では、この運動のシンボルカラーであるパープルにライトアップすることに加えて、女性への暴力にまつわる課題について情報を発信し、啓発に取り組みました。
技術の進化や知見の蓄積に合わせて表現の幅はさらに広がっていくと思いますが、こうしたリアル空間だけでは実現できない“拡張性”こそ、メタバースを活用した『XRコミュニケーション事業』の強みです。
ショッピングやエンターテインメントはもちろん、教育、医療、観光など、さまざまな領域に応用していくことで、地域が抱える課題を解決していきたいです。」

 
 
DNP ・菊池
「重要なのは、自治体や地域のパートナー企業との共創を持続することです。その成果として、時間や距離、言語などの壁を越えて世界の人々が安全・安心にコミュニケーションを拡大し、知を交換・継承できる未来があると考えています。
今後も多くの皆さまと並走しながら、メタバースの普及・発展に取り組んでいきます。」

  • 記載された情報は公開日現在のものです。あらかじめご了承ください。