毛筆で「限定品」をドンと打ち出すイメージ

独自調査で市場を分析: 日本人は「限定品」がお好き?【前編】

「生活者」「メーカー」「流通」の三者が交差する「売り場」のプロとして、調査〜検証〜コンサルティングを手がけるDNPのフィールドマーケティングチーム。その独自の視点によるマーケティング分析レポートをお届けします。第2回のテーマは、『日本人は「限定品」がお好き?』です。店頭で目にする「限定品」をマーケティング視点で読み解きます。

目次

フィールドマーケティングチーム 打合せの様子

【フィールドマーケティングチームとは】
大日本印刷株式会社 ABセンター コミュニケーション開発本部 SPマーケティング事業推進ユニットのメンバー。

「マーケティング関連で、一般に「SP」といえば「セールス・プロモーション」ですが、「SP=セールス・プロセス」を標榜して、店頭を起点とした情報の収集から、分析、戦略・戦術の立案、施策実行まで、ワンストップで支援する、セールス・プロセス全体に関わる専門チーム。

Chapter1 商品棚に変化が!? 限定品・・・多いですよね!

こんにちは。フィールドマーケティングチーム、駆け出しマーケターのA子です。

最近、コンビニや総合スーパー(GMS:General merchandise store)の店頭を見ていて気になることがあります。それは「●●限定」の商品が多いということ。

以前から気になってはいましたが、その比率が高まっているのでは?と感じています。“関東のりだし味”、”夏みかん味”、”期間限定チーズタッカルビ味”など……。『いつも買っているふつうのコンソメ味』、『いつも買っているふつうのレモン味』はどこにあるの?!と「定番品」を探さなければいけないくらい、売場に「限定品」が溢れているという現実。

―そもそも「限定品」と「定番品」ってどう分けられているのだろう?―

「限定品」と「定番品」の違いを整理してみると、多くの「限定品」が、地理軸・時間軸・数量軸の3つの軸で分類できるように思います。

<限定品を構成する3軸>

時間軸 「季節限定」「期間限定」など、ある一定期間だけ販売している
地理軸 「地域限定」「流通限定」など、ある特定のエリアでのみ販売している
数量軸 「個数限定」「地域限定」「流通限定」など、ある特定のエリアでのみ
販売している

1軸だけでも「限定品」となりますし、複数の軸の掛け合わせで「よりレアな限定品」となりますので、実に多様な「限定品」が存在しています。

逆に、この3軸が限定されていないもの、例えば、時間軸の「通年販売」、地理軸の「全国どこでも販売」、数量軸の「何個でも販売」などの商品は「定番品」です。
具体的な例で考えてみましょう。日頃店頭で見かける商品を、時間軸と地理軸でプロットしてみると、こんな感じでしょうか。

時間軸と地理軸で「限定品」をプロットした図

先日デパ地下で購入した限定スイーツは、「渋谷店限定」で「数量限定」、しかも「春限定いちご味」という激レア品でした。開店時間に行ってなんとかゲットすることができました。

Chapter2 「限定品」は本当に多いの?

私たちの部門には、店頭の調査や、売り場を巡回してクライアントの製品や競合製品の陳列状況をチェックするラウンダー業務などを行う専門のチームがあります。

そのラウンダーチームが保有する調査データの中から、東京近郊のとあるGMS3店舗で、2019年10月の中・下旬に販売されていたスナック菓子の店頭陳列状況を、商品管理の最小単位(SKU:Stock Keeping Unit)ごとにチェックしてみました。

スナック菓子の限定品イメージ

店頭販売されているスナック菓子の中の「限定品」の割合

おぉ! 限定品が全体の3割(SKU単位)を占めています!「限定品」の中でも、プライベートブランド(PB)を含む「チャネル限定商品」(15.6%)と、「期間限定商品」(13.0%)の割合が高いです。

店頭販売されているスナック菓子の中の「限定品」の割合

【DNP調査 概要】
調査期間:2019年10月3日(木)~7日(月)
調査店舗:東京、千葉の大手GMS3店舗
調査方法:専門調査員による覆面調査

定番スナック菓子の「復刻版パッケージ」「キャラクターコラボ」「ハロウィン限定パッケージ」や、焼き芋などの「季節のフレーバー」のほか、お馴染みの「定番品」が無くて「限定品」だけ販売されているブランドもありました。

スナック菓子のほかに限定品が多そうなイメージの商品カテゴリーといえば・・・お酒。特に、最適な味わいに調整されて、フタを空けるだけでそのまま飲めるアルコール飲料(RTD:Ready To Drink)の売場はいつも、季節ごとの味の商品が発売されるなど、楽しそうなイメージです。次に「RTD」の商品ナインナップがどうなっているか見てみましょう。

店頭販売されている「フタを開けるだけでそのまま飲めるアルコール飲料(RTD)」の中の「限定品」の割合

「RTD」では、限定品の比率が2割弱(SKU単位)。その中で16.3%を「チャネル限定商品(プライベートブランド:PB)」が占めています。アルコール飲料会社のPBへの力の入れようがうかがえます。

店頭販売されている「フタを開けるだけでそのまま飲めるアルコール飲料(RTD)」の中の「限定品」の割合

【DNP調査 概要】
調査期間:2019年10月3日(木)~7日(月)
調査店舗:東京、千葉の大手GMS3店舗
調査方法:専門調査員による覆面調査

期間限定の「みかん味」「ゆず味」など、季節が感じられる「限定品」も販売されています。
季節ごとに限定のフレーバーの「RTD」を出すブランドも多く、人気が出たフレーバーを通年販売に切り替えて「定番品」として販売するようになるなど、1つのブランドで10点以上(SKU単位)のバリエーションがあるシリーズもあります。

「限定品」をテストマーケティングとして活用して、「新商品」を開発しているのですね!

このように、特定カテゴリーの商品のデータを数日分チェックしてみると、2~3割が「限定品」ということがわかりました。
「それって多いの?」と思われるかもしれませんが、世の中に星の数ほどある商品のうち、店頭に並べられるのは、流通の方たちが選び抜いた極々わずかな商品のみです。その熾烈な競争を勝ち抜いた店頭商品において、2~3割を占めるというのはとても凄いことなのです。

ちなみに、企業の新商品発売などのニュースリリースを専門のサイトでチェックしてみると、2019年8月の1カ月間で「限定」と銘打ったものが79本。5年前の2014年8月は、同様のリリースが44本でしたので、この間に「限定」に関するリリースがほぼ倍増していました。

メーカーも積極的に「限定品」を販売するようになってきているようです。

Chapter3 気になる「限定品」の売り上げは?

DNPのパートナー企業であるSegment of One & Only株式会社(SOO社)のデータを用いて、「限定品」の売り上げ状況を見てみました。SOO社は全国各地の地域密着型ドラッグストアの顧客ID付POSデータを統合し、さまざまな企業の経営戦略立案などに貢献するシステムの提供や、会員を対象とした定期的な研究会の開催などを行っています。

スナック菓子や「RTD」とともに、店頭で限定品を見かけることが多い、氷菓(アイス)の売り上げデータをチェックしてみました。

プレミアムアイスの売上・上位20位の中の「限定品」の割合

「プレミアムアイス」カテゴリーの2019年7月の売上を見ると、上位20位までの商品が全体の79.3%を占め、売れ筋商品がカテゴリー全体の売上を牽引していることがわかります。

プレミアムアイスの売上・上位20位の中の「限定品」の割合

【調査概要】
対象店舗:全国で展開する地域密着型ドラッグストア
分析対象店舗:2017年8月~2019年7月既存店売上上位500店舗
分析対象属性:全体(男性・女性 全世代)
分析対象期間:2019年7月
提供:Segment of One & Only 株式会社 http://www.segone.jp /

その上位20位までの中で、「限定品」が占める割合は36.9%と、約4割! 王者「バニラ」が1位を堅守していますが、限定フレーバーや限定ミニパックなどの売上がこれに続いているのです。
メーカーや流通が「限定品」をたくさん作って陳列しているだけでなく、「限定品」は買う側である「生活者」から確かな支持を獲得しているようです。

アイスクリームの限定品イメージ

Chapter4 「限定品」と生活者の気分

私たちのチームでは、生活者の皆さんにモニターになっていただき、模擬店舗で実際に買い物をしてもらい、さまざまな施策を評価・検討する「模擬購買調査」という仕事も行っています。
そこで製品自体やパッケージ、プロモーション施策などの評価を行っていくと、モニターの反応から「生活者のその時の気分」が見えてきます。そうして見えてきた最近の潮流を漢字一文字で表現すると、「新」「旬」「変」がフィットしてきます。

生活者が感じる「新」「旬」「変」のイメージ

「新」は新しいものへの興味や探求、「旬」は流行や季節性への興味追従や迎合、「変」は過去との違いへの興味や刺激、期待を指しています。直近では、これらに加えて「個」(=個性&パーソナライズ)も、強く意識されるようになってきているようです。

私たちは、商品の流通網や保存方法・保存期間の多様化、さまざまなトレーサビリティの仕組みの進化などによって、日本全国どこにいても、季節を問わずに同じ商品を1年中食べたり飲んだりできる……、そんな「いつでも」「どこでも」を実現してきました。それが“あたりまえ”の現代にあって、いつしか誰もが、「“いつでもどこでも”だけじゃつまらない」という欲求を感じてきたのかもしれません。

そんな、“マンネリ”に満足できなくなってきた生活者の“気分”を自在に身にまとい、それを「特別感」という価値へと昇華させたスーパースター。それが「限定品」なのではないでしょうか!?売り場に「限定品」があふれている理由―少しわかってきた気がします。

後編では生活者の限定品への消費マインドにせまります。

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