こども国連環境会議推進協会事務局長・井澤友郭氏とDNP大湯慶子

世界を変える方法を楽しく学ぶ。「SDGs100人カイギ」が生まれるまで

東京・市ヶ谷のオープンイノベーション施設「DNPプラザ」で毎月開催されている「SDGs100人カイギ」。さまざまな企業や団体で、SDGsの達成に本気で取り組んでいる方々が、毎月4名ほど登壇するワークショップで、参加者はビジネスパーソンから学生まで幅広い。さらに最近はオンライン開催も実施しており、場所を問わず実施できるという柔軟さも魅力だ。 発起人は、DNPの大湯慶子と、こども国連環境会議推進協会の事務局長を務めるかたわら、「LEGO® SERIOUS PLAY®」のファシリテーターとしてSDGsのワークショップを開催している井澤友郭氏。 なぜDNPがSDGsをテーマにしたイベントをスタートさせたのか。そして、2人が「SDGs100人カイギ」を通して実現を目指す未来とは?(本インタビューは2020年2月に実施、2020年4月のオンライン開催の内容を追加し、再構成しました)

目次

こども国連・井澤友郭氏とDNP大湯慶子

(写真左)井澤友郭氏:
こども国連環境会議推進協会 事務局長
株式会社アエルデザイン 代表取締役
聖心女子大学 グローバル共生研究所 客員研究員
 
(写真右)大湯慶子
大日本印刷株式会社
ABセンター コミュニケーション開発本部

多様な視点からSDGsの今がわかる「SDGs100人カイギ」

「SDGs100人カイギ」は、SDGsに関連した活動をしているゲストに登壇していただき、ジェンダーや環境などの個別テーマにあわせ、自身のユニークな取り組みを発表するというイベント。

登壇者の顔ぶれは、先進的な取り組みをしている企業の担当者や学生団体を立ち上げた中学生など幅広く、参加者は各テーマの“生”の情報を得ることができる。

また、関係者がゆるくつながることをコンセプトにしている「SDGs100人カイギ」では、登壇者の発表が終わったあと、興味をもった人のところに集まってフリートークできる“ネットワーキングタイム”も設けている。

賛否両論のざっくばらんな感想や質問をやり取りする、熱のこもった共創の場となるのも、このワークショップの特徴だ。

こうしたプログラムが評判となり、有料イベントにも関わらず毎回100人前後の参加者が集まっている。DNPからも、事業部門を問わず多くの社員が有志で参加している。
 
なお、2020年5月現在、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況を受け「SDGs100人カイギ」はオンライン開催に切り替えている。2020年4月開催の第6回は、過去最大の150人の参加となった。

2019年10月30日開催の「SDGs100人カイギ Vol.1:なぜSDGsが必要なのか? 」の様子

2020年4月22日開催の「SDGs100人カイギ Vol.6:世界を変える、プラットフォームの挑戦。」の様子

 

すべてのはじまりは、井澤氏の「SDGsを“自分ごと化”するワークショップ」

2015年に国連の「持続可能な開発サミット」で採択された持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)。

2030年までに「誰ひとり取り残さない世界」を実現することを目指した、国際社会共通の17の目標だ。

DNPで、生活者と企業のコミュニケーションを開発することをミッションとしている大湯慶子は、「SDGsをテーマに何かおもしろいことができないか?」と漠然と考えていたという。

企画を考えるヒントになればと参加したのが、持続可能な社会について学ぶ社内研修であり、ここで出会ったのが井澤友郭氏のSDGsのワークショップだった。

カードゲームと「LEGO® SERIOUS PLAY®を活用して世界の課題を“自分ごと化”することで、SDGsと自分たちの組織がどうつながっているのか、どんな新規事業ができるかといったことについて具体的なイメージを持つことができたと大湯は語る。

  • LEGO® SERIOUS PLAY®:
    レゴ®のブロックを使って与えられたテーマの作品を作り、個々人が持つ潜在的なイメージを可視化。その後、作品について解説しあうことでお互いの理解を深め、細部のイメージまで共有していくという課題解決の手法。
    NASA、Google、TOYOTAなど数多くの企業で導入された実績があり、組織形成、新規事業開発、キャリア形成のワークショップとして注目を集めている。

取材中、井澤氏がLEGO® SERIOUS PLAY®のデモとして作成した「SDGsと自分たちの組織のつながりを阻む壁」

取材中、井澤氏がLEGO® SERIOUS PLAY®のデモとして作成した「SDGsと自分たちの組織のつながりを阻む壁」

 
「井澤さんのワークショップに参加して、『これだ!』と思いました。

生活者の中にはSDGsという言葉を聞いたことはあっても、それが何かを理解している人はまだ少ないと感じていました。

それは企業でも同様です。

そこでワークショップ後すぐに、井澤さんに『一緒にやりませんか?』と相談。

井澤さんのワークショップにDNPならではの企画提案力を加えて、企業向けのSDGsワークショップを開発しようと動き始めました」(大湯)。

***

それからわずか2カ月後、DNPの取引先のある協同組合で、このワークショップの採用が決定した。

営利を目的とせず、「共済(保障)を通じて誰もが安心して暮らせる社会をつくる」というこの協同組合の目的は、SDGsの「誰ひとり取り残さない」という理念と一致する。

SDGsの理念をメッセージ化することで、組合の人々、そして生活者への理解促進につながるのではと、大湯らは考えたのだ。

組合内でのワークショップの実施に加え、そのプロセスを動画で撮影し、DNPが運営するデジタルサイネージ(電子看板)での配信まで、ワンパッケージで提案、実施した。


⇒本提案の概要は【こちら】


社内ワークショップでSDGsへの理解を深め、その取り組みをDNPのネットワークを使って社外に広く発信していく。大湯と井澤氏のタッグによって生まれた、 SDGsを切り口としたワークショッププログラム は、その後さまざまな企業や団体からの相談のきっかけになった。
 

「SDGsをもっと知りたい」という声から生まれた「SDGs100人カイギ」

しかし、企業にこのプログラムを提案するなかで、大湯はあることに気がついたという。

「ほとんどの企業から、『他社はどんなことをしていますか?』『どうやって事業化しているんですか?』という質問をされたのです。

どの企業もSDGsに取り組まなければと考えながらも、具体的に何をどうすればいいのか分からず、手探り状態でした。

それならば、SDGsに本気で取り組んでいる人たちを集めて話をしてもらう機会を設け、興味を持つ人たち同士が情報交換できるようなコミュニティを作ろうと思いました」(大湯)

大湯から話を聞いた井澤氏の頭に浮かんだのが、「100人カイギ」という、地域コミュニティを盛り上げるイベントだった。

地域でおもしろい活動をしているプレイヤー100人に話を聞くという手法で、全国各地で展開されている。

井澤氏自身が主催団体の一員であったこともあり、「100人カイギのSDGs版を実現したい」という考えを以前から温めていたという。

「SDGsの達成に真剣に取り組んでいるプレイヤーはたくさんいるのに、それぞれがつながっていないため、SDGsに興味を持つ人が情報を集めにくいと以前から感じていました。

プレイヤー同士のつながりを深めると同時に、誰もが気軽に参加できて、ビジネスパーソンや子どもも含めて、『みんなはどんなことをしているのか?』が分かるような、ゆるくつながる場所があったらいいなと思いました。

そこで、大湯さんと一緒に『SDGs100人カイギ』を始めることにしたんです」(井澤氏)。
 

丸善雄松堂のプラットフォームを活用し、柔軟でスムーズな運営を実現

「SDGs100人カイギ」をスタートさせるにあたって大湯が協力を依頼したのが、「DNPプラザ」で、生活者向けに未来の”まなび”をテーマにしたイベント「知と学びのコミュニティ」を開催していたDNPグループの丸善雄松堂だった。

「他の企業に同様の取り組みで先を越される前に、ぜひとも『SDGs100人カイギ』を始めたいと考えていました。

しかし、場所探しも含めて、ゼロからイベントを企画・制作すると時間がかかってしまいます。

そこで、既に多くの実績がある『知と学びのコミュニティ』の場をプラットフォームとして活用することで、大幅に時間が短縮できるはずと考えたのです。

すぐに丸善雄松堂に相談したところ、毎月1回、計25回の連続講座開催という、これまでにない規模の試みを快諾していただきました」(大湯)。

一般に企業では、“やるリスク”を考えることが求められる。
特に、今までにない取り組みを始める時は、慎重に石橋を叩くケースが多い。

しかし、変化の早い今の時代は、“やらないリスク”を考える必要もあるのではないか。

その大湯の思いが、DNPにとっても新たな挑戦となる「SDGs100人カイギ」として結実したのは、ワークショップなどのイベントの企画やテーマを提供する井澤氏、イベント開催の運営ノウハウ・プラットフォームを提供する丸善雄松堂と、場としての「DNPプラザ」の連動があったからだ。

「今回の取り組みで、とりあえず動いてみることと、さまざまな方の力を借りることの大切さを改めて感じています。

ここまで柔軟かつ臨機応変に進めてこられたのは、井澤さん、丸善雄松堂をはじめ、多くの方がそれぞれの分野の強みを活かしていただき、さらにみんなの強み、ノウハウを融合させてきたからこそだと実感しています」(大湯)

「SDGs100人カイギ」で登壇者が語った内容は、グラフィックカタリスト 成田富男氏(http://tomios-graphic-dialogue.mystrikingly.com/)によるグラフィック・レコーディングで「見える化」されている。

 
一方、SDGsのワークショップを続けてきた井澤氏にとっても、DNPとのタッグはメリットが大きかったという。

「こども国連環境会議推進協会だけで活動していると、イベントを開催できる数に限界があるため、スケールアップさせるのが難しいと感じていました。

DNPさんと組むことで、より多くの方にワークショップを提案したり、イベントやメディアで情報発信をしたりといったことが可能になり、“出来ること”の幅が広がりました」(井澤氏)

  • 2020年5月現在、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況を受け、「SDGs100人カイギ」はオンラインで開催しています。

SDGsを通して人と人、コミュニティ同士をつなげ、オープンイノベーションへ

2人がワークショップの活動を始めた2017年と比べると、SDGsという言葉を見聞きする機会は確実に増えている。

しかし、本当の意味で理解している人や、自分のこととして何かを実行している人がどれだけいるかといえば、まだそこまで多くはないかもしれない。

そうしたなか、大湯と井澤氏は、ワークショップの提案活動と「SDGs100人カイギ」を今後どのように展開していく考えなのだろうか。

「企業と生活者のコミュニケーションのベースにSDGsがあることは、だいぶ浸透してきたように感じます。

実際、DNPの中でも、SDGsは一部の社員だけがやることという誤解もなくなり、それぞれの立場の人が自分なりの視点で活動するという文化が広まってきたと思います。

私たちが目指しているのは、『SDGs100人カイギ』をきっかけに人と人がゆるやかにつながり、“SDGsについてワイワイ話をしていたら、結果として世の中がよくなった”と感じていただける場を各地に根付かせることです。

さまざまな地域、企業、コミュニティに広げていきたいですね」(大湯)。

「SDGsに対する企業の活動や人々の意識はどんどん変わってきていますし、社会課題が顕在化することで商品選択の基準も変わってきました。

例えば、現在プラスチックの袋やストローがこんなに問題になっているとは、ほんの2年前には多くの人が思っていなかったはずですし、これからも意識や活動が変わり続けなければいけないと思います。

今後ますます、SDGsは単なるスローガンではなく、社会課題を解決するために必ず向き合っていかなければならない、実質的な目標=ゴールになっていくでしょう。

一方、SDGsに取り組んでいる人は、まだ孤軍奮闘しているケースが多い。

そうした人たちをつなげていくためにも、今後は『SDGs100人カイギ』を水平展開していきたいです。

例えば、東京だけでなく地方で開催したり、1つの企業の中で組織横断的に開催したり。『うちの地域、会社に、こんなにおもしろい活動をしている人がいる』ということを参加者同士がお互いに知ってもらうことで、さまざまな場所で新しい取り組みが生まれやすくなるのではと思います」(井澤氏)。
 

2020年4月22日開催の「SDGs100人カイギ Vol.6:世界を変える、プラットフォームの挑戦。」の様子

 
「SDGs100人カイギ」は2020年5月現在、第6回が開催されたばかり。あと20回の開催が予定されており、2人の活動はまだまだ広がっていく。

全25回を終える予定の2021年、企業や生活者の意識と活動はどう変わっているのだろうか。

「SDGsについて深く知りたい」「自分ができることを探している」という方は、まずこのコミュニティに参加し、「SDGs100人カイギ」という場が生み出す熱気を体感してほしい。
 

  • 2020年5月現在、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況を受け、開催予定は変更される可能性があります。最新情報はWebサイトをご確認ください。
     
     

丸善雄松堂「知と学びのコミュニティ」

「SDGs100人カイギ」の運営基盤となっている「知と学びのコミュニティ」(生活者向けの未来の”まなび”をテーマにしたイベント)は、創業以来150年以上にわたり、西洋と日本の文化・知識の架け橋としてさまざまな事業を展開してきた丸善雄松堂が提供している。

その特長は、同社が築いてきた産官学をつなぐネットワーク、書店や教育機関を通じて蓄積してきた生活者ニーズへの理解、知的空間を創出してきたデザイン力を背景に、教える人・学びたい人が相互に補完しあい、知的好奇心が水平展開する“新たな学びの場”を形作っていること。

環境、コミュニケーション、働き方、芸術など多彩なイベントテーマの多くはシリーズ化し、活動の場も東京・市ヶ谷のDNPプラザだけでなく企業や教育機関での実施に及ぶなど、コミュニティとしての輪を着実に広げている。

 
 
 
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