持続可能な社会づくりのために、企業が取り組むべき「サステナブル経営」とは

2015年のパリ協定や持続可能な開発目標(SDGs)の採択以降、また直近のコロナ禍もきっかけのひとつとして、持続可能な社会づくりのために何ができるのか、世界中で議論や具体的な取り組みが加速しています。企業としてどのように環境問題や社会課題の解決に向き合っていけばいいのか、これからの時代に求められる「サステナブル経営」とは何かについて、企業のCSRやSDGsの施策推進を専門とする株式会社クレアンの薗田綾子氏とDNPのサステナビリティ推進部・鈴木由香が語り合いました。

  • 今は未来の資源を消費している状態。企業が本気で環境問題に取り組むことが必要
  • 未来のあるべき姿から、今すべきことを考える
  • 「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」をめざすDNPの取り組み
  • 技術を強みに、“100年後のより良い地球”をめざす
左に鈴木(立ち)、右に薗田氏(座り)。並んで笑顔の写真。

<プロフィール>
株式会社クレアン 代表取締役
薗田綾子(そのだ あやこ:写真右)

大日本印刷株式会社
サステナビリティ推進部 部長
鈴木由香(すずき ゆか:写真左)

今は未来の資源を消費している状態。企業が本気で環境問題に取り組むことが必要


——企業活動を通じて環境・社会・経済の持続可能性を高めていく「サステナブル経営(※1)」が今、企業には必要とされていますが、その理由などについてお考えをお聞かせください。

  • 1 サステナブル経営 :環境・社会・経済の持続可能性に配慮した事業を展開することでステークホルダーの支持を獲得し、企業自身も持続的な成長をめざす経営戦略。

薗田綾子氏(以下、薗田)
来年2022年は、ローマ・クラブが報告書「成長の限界」(※2)を発表してから50年となります。
その内容は、人口の爆発的増加と経済成長が続くと、資源の枯渇や環境の悪化により、100年以内に地球の成長が限界に達するというものです。

1972年当時の人口は50億人ほどでしたが、今は79億人に迫っています。地球に100億の人間を支えるだけのキャパシティーはないと言われていて、食料、エネルギー、資源、社会格差などのさまざまな課題が吹き出しているのが今の状況です。

  • 2 「成長の限界」 : 環境問題を考える民間組織「ローマ・クラブ」が1972年に発表した委託研究の成果報告書。人口や工業投資等が幾何級数的な増加を続けると、100年以内に成長は限界点に達すると指摘した。

私自身、環境問題に真剣に取り組んでいきたいと思ったのは、1992年のリオデジャネイロでの地球サミットで、セヴァン・スズキ氏が「今すぐ行動を起こして」と呼びかけた伝説のスピーチを聞いた頃からです。

2015年の国連サミットでのSDGs、同じく2015年のCOP21でのパリ協定がそれぞれ採択されてから、企業も社会課題解決の取り組みに本腰を入れてきたように感じていますが、歴史を紐解くと、とっくに行動を起こしていなければ間に合わない時期に来ているのだと思います。

にこやかに話す薗田氏

株式会社クレアン 代表取締役 薗田綾子氏

鈴木由香(以下、鈴木)
セヴァンさんのスピーチは私も印象に残っています。私が環境問題に関心を持ったのは、京都議定書が採択された1997年のCOP3でした。その頃から温暖化や酸性雨などが日本でも注目されるようになりましたが、当時は「将来が危ない」と言いながらも、企業が行動を起こすイメージはまだなくて。ようやく今、企業が動きはじめたと感じています。

薗田
行動を起こさなければいけないし、加速させなければいけないですね。このままの勢いで地球の資源を使っていくと足りなくなるのは明らかです。現在の私たちは次世代の人たちの資源を食いつぶしている状態で、企業でたとえると借金経営の状態です。しかも、資源を追加することもできません。私たちはこの地球でどう生きてくかを本気で考えなければいけないんです。

鈴木
SDGsが広まって企業や人々の意識が大きく変わってきましたよね。

薗田
日本のSDGsに対する取り組みは早いほうですし、世界でも評価されています。経済界が真剣に取り組みはじめたということもありますが、特に変化が大きいのは教育現場です。小中学生はSDGsを授業で学んでいて、1〜17のゴールを説明できますし、自分たちが何をしなければいけないかも知っています。子どもたちにとって2030年は、「自分のこととして考えなければいけない将来」なんです。

企業もSDGsに取り組みはじめていますが、ゴールは認識していても、具体的なアクションはこれからというところも多いですよね。

鈴木
子どもたちのほうが「危機」として感じていますよね。企業も本気にならないといけないですね。

薗田氏にむけて話す鈴木

大日本印刷株式会社 サステナビリティ推進部・部長 鈴木由香

未来のあるべき姿から、今すべきことを考える

薗田
異常気象による災害が毎年起きていますし、気候危機はすでに企業のリスクのうちの1つです。経営の危機を回避するためにも、「サステナビリティ視点」で考えていく必要があります。

ここ数年、企業へのESG投資は右肩上がりで増えています。ESG投資は現在の財務状況にすぐに影響するというより、いわば「未来の財務」につながる投資です。なかでも、直近では「S(Social:社会)」に配慮している企業が注目されました。日本企業は、コロナ禍でも社員の雇用と安全を守る企業が多く、ESG投資家からも評価されました。環境や人にやさしい経営をすることは、企業の中長期的な価値創造に直結する時代なんです。

鈴木
ESGを重視した経営は企業が事業を継続するために必要ですし、投資家も関心を持っています。企業は「未来の財務」のために何をすべきかを考えて行動していくことが、一層求められていくと思います。

薗田
直近の3年から5年先のことを考えるのと同時に50年先、100年先を考えなければなりません。「未来の財務」にしっかりと取り組んでいる企業、つまり、人を大切にして、環境を意識した循環型社会を作ろうとしている企業は、今後伸びていく可能性が高いと期待されて、投資の対象になります。そういう意味でも、ESGの情報を開示して積極的にエンゲージメントすることが大切です。

にこやかに話す薗田氏

鈴木
薗田さんは、未来のあるべき姿を考えて、今とのギャップを埋めていくバックキャスティングの手法で環境問題を戦略的に考えるべきだと言われてますね?

薗田
そうです。もうひとつ、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)(※3)が出しているシナリオ分析の考え方も大切です。ビジネスを考えるときに、起こりうるあらゆるリスクを想定し、対応を考えておくという手法で、こうしたシナリオを用意していた企業は今回のコロナ禍においてもすぐに対応できました。

環境問題を例に挙げると、「気候が2℃、4℃上がった場合に何が起きるか?」「SDGsが全世界であたりまえになった場合や、逆にまったく浸透しなかった場合はどうなるか?」「カーボンプライシング(※4)が導入されたら?」「CO₂排出規制がさらに強化されたら?」など、さまざまなリスクとその対策を考えておくことが必要だと思います。

リスクは、見方を変えるとビジネスチャンスになる可能性もあります。将来起こりうるリスクとチャンスを想定しておくことで、事業の安定成長が図れますし、投資家からの高い評価を得ることができます。

  • 3 TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures) : G20の要請を受け、各国の中央銀行などで構成される金融安定理事会により設立された団体。その報告書では、未来の具体的なシナリオに基づき、気候変動が自社に及ぼす影響や、その影響下での事業の継続性などを示すシナリオ分析の手法が使われている。
  • 4 カーボンプライシング : 排出されるCO₂に価格付け(プライシング)を行い、CO₂を排出した企業などに金銭的対価を負担させる環境対策の仕組み。

「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」をめざすDNPの取り組み

——DNPでは持続可能な社会の実現に向けてどのような取り組みをしていますか?

鈴木
DNPでは、サステナブルな社会の実現に向けて、2050年のありたい姿を示した「DNPグループ環境ビジョン2050」を策定し、3つの柱として、「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」の実現を掲げています。

図:DNPグループ環境ビジョン2050

「DNPグループ環境ビジョン2050」のイメージ図

「DNPグループ環境ビジョン2050」詳しくはこちら

具体的には、「脱炭素社会」の構築のために、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、部門間で連携して、自社拠点での事業活動にともなう温室効果ガス(GHG)排出量の実質ゼロをめざして取り組みを進めています。また、「循環型社会」構築のために、製品・サービスのサプライチェーンを通して資源を効率的に利用し、循環させる取り組みを行っています。「自然共生社会」の実現については、地域の生態系との調和をめざす活動に力を入れています。

DNPは製造業ですので、工場を所有して稼働させており、国内で公害問題がクローズアップされた1970年代には早くも環境マネジメントの取り組みをスタートさせました。また、紙を扱っていることもあり、原材料保全のための活動や資源の循環についても早くから取り組んできた歴史があります。


薗田
DNPさんは早くからバイオマスプラスチックを使った「DNP植物由来包材 バイオマテック®」など、環境に配慮した「GREEN PACKAGING」を展開していますし、サーキュラーエコノミー(循環型経済)にも積極的に取り組んでいますよね。

実は、「GREEN PACKAGING」のような製品がさらに増えて、自治体や他の企業との連携が広がることで、もっと大きなインパクトを出す画期的な仕組みができるんじゃないかと期待しているんです。

世の中が大きく変わるのは流通・小売が変わるときだと思います。生活者の意識が変わって手に取る商品が変わると、世の中に与えるインパクトが大きい。DNPさんにはサーキュラーエコノミーを念頭に、環境に配慮した商品やサービスを手に取りやすい仕組みを世の中で作ってもらいたいなと思っています。

GREEN PACKAGINGが並んでいる

「資源の循環」「CO₂の削減」「自然環境の保全」という3つの価値を社会に提供する「DNP環境配慮パッケージング GREEN PACKAGING」。詳しくはこちら

鈴木
世の中をリードする気持ちで取り組んでいきたいですね。サーキュラーエコノミーについては、「Recycling Meets Design™ Project」という活動を進めています。リサイクルプラスチックを使って、繰り返し利用できる製品や仕組みをつくっていく取り組みです。

薗田
ちなみに、生物多様性の保全に積極的に取り組んでいるのは、どんな理由からですか?

鈴木
私たちは常に「事業活動と地球環境との共生」を企業活動の前提としてきました。紙を扱う企業として、事業活動における生物多様性との関りを検討するなかで、自然環境に与える影響が大きい「原材料の調達」と「事業所内の緑化」を重点テーマとしたのが始まりです。

全国にある事業所内の緑地を活用し、地域といきものがつながる活動を進めました。DNPの本社がある東京の市谷地区では現在、社屋建て替えにともなう再開発を進めており、かつての武蔵野の在来種からなる「市谷の杜(もり)」をつくり、育てていく取り組みを行っています。敷地内緑地を活かすことで、個体数が激減している生物種を保全できたり、地域といきものが行き来できる環境を構築できたりと、新たな気づきになったと思います。

市谷の杜の奥にDNP市谷加賀町ビルが見える

木々が青々と茂る市谷の杜

  • DNPの市谷地区再開発の一環として誕生した「市谷の杜」。敷地面積の3分の1に及ぶ約6,000m²が、生物多様性に配慮した緑化面積となっています。

薗田
すごくいい取り組みですよね。環境の基盤や生物多様性が崩れてしまうと、社会は成り立たなくなり、人は生きられないですし、経済活動も成り立たなくなる。そういう意味で、根底にある環境や生物多様性について、あらためて考えなおすことが大切だと思います。

鈴木
「市谷の杜」の取り組みが始まったころ、活動の規模の大きさに驚く声が社内にあったんです。でも、2015年にSDGsが国連で採択されて、自然と共生していくことが企業の活動につながるという考え方に強く納得しました。その後、実際に取り組んでいくうちに、社内の理解も広まってきたと感じています。

技術を強みに、“100年後のより良い地球”をめざす

——DNPは今後どのようにサステナブル経営を進めていくべきだと思いますか? 薗田さんがDNPに期待することなどを教えてください。


鈴木
DNPは「脱炭素社会/循環型社会/自然共生社会の実現」を掲げるなかで、SDGsを「より良い社会づくりのものさし」のひとつと位置づけています。
SDGsは、私たちが事業を継続し、人々の役に立つ価値をつくり続ける基盤をより強化し、企業として存続していく際に必須となる指標のひとつと捉えています。

にこやかに話すDNP・鈴木


薗田
SDGsについては、企業としてあたりまえのこととして取り組んできた、ということですよね。そして、今後はさらに取り組みを強化し、加速させていくということですか?

鈴木
そうですね。「印刷」で培ってきた技術などの強みを活かしながら、人々の暮らしを支え、より良くしていく価値を生み出していくのがDNPの役割です。製造業として、かつては、いかに環境負荷の少ないモノづくりをしていくかという課題が中心でしたが、これからは環境負荷を下げながら、私たちの強みを活かして、世の中をどう変えていくかというポジティブな考えが大切だと思います。

図:DNPの環境関連活動の歩み

  • 画像を押すと別ウィンドウで大きく表示されます。

薗田
未来を考えるときに大事なのは、「より良い社会ってどんな社会なのか」を考えることだと思います。私たちが2050年に生きていたらこんな社会になっていてほしいという期待や希望などありたい姿を形にすることです。そのなかでDNPが、どういう役割で、どんな存在価値があるのかを考えることが必要だと思います。未来の理想形から逆算するバックキャスティングに加えて、グローバルな視点から自社を捉えてみると、自分たちの存在意義がよりクリアに見えてくるはずです。

鈴木
そして、そこに至るロードマップを具体的に提示することも大切ですね。

園田
はい、ロードマップが明確化されていると、社員にも浸透しますし、投資家も投資しやすくなります。特に、10年先・20年先ではなく100年先を見ている機関投資家もいます。145年の歴史があるDNPは、100年以上続いてきたからこそ100年先を見られるはず。投資先として非常に有望な企業だと思いますし、そのDNAが組み込まれた「DNPグループ環境ビジョン2050」も意義深いものだと感じています。


鈴木
ありがとうございます。「DNPグループ環境ビジョン2050」は、社員の気持ちをひとつにして、さまざまな取り組みにつなげるうえでも大いに機能しています。あとは、具体的な行動あるのみですね。


薗田
一方で海外に目を向けると、世界全体の中で自分たちがどういう役割を果たすかを考え、急成長しているベンチャー企業がたくさんあります。もちろん、そこにはサステナブル経営があたりまえのものとして組み込まれています。逆に言えば、国内のことしか見ていないと、狭いマーケットにシュリンクしてしまいます。グローバルな視点で見渡せば、もっとたくさんの解決すべき課題があり、市場としての可能性も大きい。日本はせっかく技術面で大きなアドバンテージを持っているのに、もったいない気がします。ぜひ、DNPさんをはじめとする日本の企業にも、視座を高くもって世界をリードしていく立場になってほしいですね。

笑顔で話す薗田氏

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