並んで座っているLifeデザイン事業部の濱田(左)と神尾(右)

製品のライフサイクル全体でCO₂排出量削減に貢献するシステムの魅力

近年、ますます深刻化する地球温暖化の抑制に向けて、温室効果ガス排出量を削減する企業の取り組みが加速している。DNPは、そうした企業活動を後押しするビジネスのひとつとして、「DNPライフサイクルCO₂認証システム」の本格的な運用を2022年4月にスタートさせた。その開発は、長年にわたる環境負荷低減の取り組みを土台としたCO₂排出量算定方法(温室効果ガスをCO₂等量に換算:以下同)の検討とチームワークで実現した。このチームで中心的な役割を果たすLife(ライフ)デザイン事業部の濱田倫(はまだ ひとし)と神尾美幸(かみお みゆき)に、この新システムの魅力を聞いた。

目次

CO₂排出量の見える化は事業の持続可能性に直結

企業が持続可能な環境・社会・経済の実現に貢献し、企業自身も持続的に発展していくためには、全ての土台となる地球環境への負荷の低減が不可欠となっている。特に、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)を重視したいわゆる「ESG経営」が企業に求められるなかで、企業活動の環境等への影響に関する情報開示が重要性を増している。近年は特に、各企業が自社の製品・サービスのサプライチェーン全体における二酸化炭素(CO2)排出量を正確に把握することが求められるようになっており、濱田倫はこうした変化を肌で感じ取っていた。

インタビューに答えるLifeデザイン事業部 濱田 倫

Lifeデザイン事業部 イノベーティブ・パッケージングセンター・ビジネスデザイン本部 濱田 倫

「私が2020年に、環境に配慮した事業の開発をしている今の部署に移って以来、顧客企業から、DNP製パッケージのライフサイクル(LC)全体でのCO2排出量(LC-CO2)の開示を求められるケースが増え続けています。原材料調達から製造・輸送・廃棄・リサイクルまでのパッケージのLC全体でのCO2排出量の算定が業務の大半を占めるようになり、新しい算定システムを構築しようという機運が社内で高まりました。LC-CO2の把握は企業にとってすでに、『望ましいこと』ではなく『必須なこと』になりつつあります。そこで私たちのチームは、LC-CO2排出量のより精度の高い算定に向けて、その認証システムの開発に注力していきました。」

各種パッケージのライフサイクルにおいて排出されるCO₂量の算定範囲(赤枠部分)

図1 各種パッケージのライフサイクルにおいて排出されるCO₂量の算定範囲(赤枠部分)

「開発したシステムは、パッケージのLC-CO2を算定するものです。このシステムにより算定した結果は、全て第三者承認済みとなります。各企業はLC-CO2を可視化して把握することで、具体的な排出量削減の取り組みにつなげることができます。また、この情報を広く社外に開示していくことで、機関投資家や企業・団体・生活者の理解・共感につなげていくこともできます。」

「企業等からLC-CO2の算定を依頼された際、これまでは製品等の算定結果ごとに第三者認証を受ける必要がありました。それに対して『DNPライフサイクルCO2認証システム』は、マネジメント体制とCO2算定の工程が一体で認証されます。そのため個別に認証を受けなくても算定したLC-CO2は、第三者承認済みの公平性・信頼性の高い情報として迅速に提供可能であり、製品のライフサイクル全体に関係する企業・団体等のカーボンニュートラル(※2)の取り組みを支援します。」

「当システムの第三者認証は、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO:さんぽ)にお願いしています。SuMPOは、製品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体における環境負荷の定量的開示を行う『環境ラベルプログラム』を運営するなど、LCA関連の多くの実績を持っています。」

  • 2: 二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの、人為的な「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすること。2050年までに実現をめざすことを、2020年10月に政府が宣言した。

専門性の異なるチームメンバーの強みの掛け合わせが新しい価値に

本システムの構築で、運用側とシステム開発側の「橋渡し」として大きな役割を果たしたのは、同じ事業部で情報システム等を担当する神尾美幸だ。普段はパソコンやサーバーの管理業務を行っているが、入社5年目でこのプロジェクトに抜擢された。

インタビューに答えるLifeデザイン事業部 神尾 美幸

Lifeデザイン事業部 プロダクトセンター 技術開発本部 神尾 美幸

「高校時代に授業で触れた表計算ソフトに魅せられたことでパソコンに興味を持ちITリテラシーを身につけました。今回のシステム開発には過去使用していた算定ツールの解析から参画し算定式の引数(※3)確認を行いました。それまでは業務でパッケージの製造工程に関わることがなかったため、最初は、CO2の算出式がどの工程に該当するのか把握することも難しかったです。それでも算定システムを作りたい気持ちはよく分かりましたので、それを中心に考えると、運用とシステム開発の両方のメンバーそれぞれの役割をよく理解できるようになりました。さまざまなパッケージの仕様、製造条件、廃棄条件を反映できたうえで、使い勝手の良い算定システムが欲しい運用側の立場と、さまざまな条件で確実に算定でき、かつ今後の機能拡大の必要性にも対応できる余地のある自動算定システムの開発を求められた情報システム部門の立場の両方が分かりました。
私は日頃、社員が業務に取り組むうえで、一人ひとりに欠かせないパソコンに関わる業務を担いながら、使う側と提供する側の『橋渡し』の役割を自然と果たすようになっていたのですが、こうしたことが評価されたのか、濱田の運用チームと情報システムの開発担当者等が参加するオンライン定例会議でファシリテーター役を務めることになりました。立場がさまざまで、多様な技術・ノウハウを持った多くの人をつなぐために週の目標を設定して進捗状況を確認し、現在抱えているタスクと優先度を共有するなど全員が同じ目的に向かってシステム構築に取り組むことができるように力を注ぎました。ほめてもらえていると知ったときは、うれしかったです。」

  • 3: 関数などに入れる値

インタビューに答えるLifeデザイン事業部 神尾 美幸

神尾は、このプロジェクトを通して、環境問題に向き合う自分の意識にも変化を感じていた。「徐々に、このプロジェクトの社会的意義が心に沁みてきました。以前は、ひとりでいくら頑張っても環境問題の解決にはほど遠いと思っていましたが、今回、環境問題の解決に向けた取り組みに参加して、CO2排出量を削減することに自分も関わることができると実感しました。」

長年のライフサイクルアセスメントでの実績と社内協力が鍵に

DNPは1993年に、パッケージを選ぶ際には見た目の印象だけでなく、原材料調達・製造・輸送・製品製造・廃棄段階におけるエネルギー消費量を基にするなど、ライフサイクル全体で環境負荷が低減できるかどうかに配慮することの重要性を顧客に伝え始めた。1996年以降はライフサイクルアセスメント(LCA)の手法を導入し、環境負荷低減の視点に立って独自の「環境配慮製品の開発ガイドライン」を定め、製品の設計・製造など、実践に活用。さらに2010年には、本システムの土台となる、表計算ソフトによるCO2排出量の計算ツールを開発した。「今回、運用を開始したシステムは、従来の計算ツールをより精緻化したものに第三者認証を取得するもので、開発までの道のりは簡単ではありませんでした」と濱田は語る。

インタビューに答えるLifeデザイン事業部 濱田 倫

「私はCO2排出量を算定するルールの策定と、マネジメント体制の構築を主導しました。確実で無理のない運用には、算定ツール(ソフト)が社内の基幹システムに実装されることが必須と考え、情報システム開発部門に、その重要性と効果を伝えたところ、理解をして開発を引き受けてくれました。開発中は、製造の工程でどのくらい廃棄物が出るかなどの設定や、どの情報をツールに組み入れるかの取捨選択にかなりの時間を費やしたのに加え、多様なパッケージ形態における企業からの依頼を想定した算定条件を正確にアルゴリズムに落とし込むために、システム開発者との打合せを積み重ねました。例えば、算定対象製品によって、受注情報から必要な情報が取得できない、またはすべての条件を加味すると計算が複雑になってしまう場合があるため、製品ごとにどのような計算をさせるか等の議論はツールの実装とテストを繰り返しながら開発を進めました。システム開発者はLCAについて始めは予備知識が少なかったにもかかわらず、情報収集を重ねた上で運用側の意図を的確に反映してくれました。」

「また、マネジメント体制には内部検証員という自動算定ツールの結果を検証する人員を、製品開発部門や技術開発部門の社員を含めて組み込みました。内部検証員となるには、SuMPOによる資格試験を受けてもらう必要がありましたが、『脱炭素社会の実現の役に立てる』と関連部署も快く協力してくれて、ありがたかったです。」

制度初のシステム認証を受け、時間短縮、公平性・信頼性の高い算定を実現

第三者認証機関のSuMPOには、システム認証の構想段階から連携をお願いした。しかし、両者にとって初の試みだったことから、国際標準化機構(ISO)の要求事項を考慮しながら算定のルール作りにおいて手探りの作業が続いたという。菓子のパッケージを例にとると、その菓子のパッケージを構成する原材料の調達段階、パッケージの製造段階、DNPの工場からパッケージに菓子を詰める顧客の工場までの輸送段階、パッケージ使用後の廃棄段階それぞれでのエネルギー消費量や廃棄物量はどこまで詳細に設定するか、自動算定システム運用時を想定した場合にそれらは適正かなど、SuMPOからの指摘事項に1つ1つ対応していった。そして実証実験において課題を洗い出し、改善を図った。2022年に入って作業を急ピッチで進行し、同年4月、SuMPOから制度初のシステム認証の取得にこぎつけた。「2022年に入ってからは、運用側と開発側が詰めの作業を進めているのを私は心の中でひたすら応援していました。認証が取得できたと聞いた瞬間は『やった!』と達成感に満たされました。」と神尾は振り返る。

算定対象は、主にプラスチックや紙等を使った袋状の軟包装、硬質プラスチック容器等の成形品、紙箱等の紙器と呼ばれるパッケージと幅広いのが特徴。また、他社製造品についてもDNPで製造した場合を想定したシミュレーション値の算定が可能だ。

今後は、算定対象を順次増やしていく予定で、濱田は「パッケージ全般の算定ができるシステムの構築、CO2データの提出といった取り組みを通じて、今後も持続可能な社会のためにカーボンニュートラルの達成に向け新しい価値を創り上げていきたい」と意欲を示した。なお、DNPではこのシステムをベースにしてパッケージ以外の品目を算定するシステムの構築も進めている。

インタビューに答えるLifeデザイン事業部 濱田  倫

DNPへの期待

一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO) 専務理事 壁谷 武久氏

LC-CO2排出量を見える化し、「サプライチェーン全体でコミュニケーションする」ことは、カーボンニュートラル社会をめざすうえで重要になります。大日本印刷株式会社様による今回の先駆的な取り組みは、カーボンニュートラルをめざすトップランナー企業として、良好なる炭素循環を実感できる社会を牽引する存在として期待します。

LCAについて

製品・サービスの原材料の採取から、製造、輸送、使用及び廃棄に至るライフサイクルを通しての投入資源や投入エネルギーの環境負荷及び、それらがもたらす地球や生態系への環境影響を定量的に評価する方法。より環境負荷の少ない方向へ生産等を移行するなどの目的において、国際標準化機構(ISO)によりLCAの実践手順が規定されている。
機能が同じ製品AとBがあり、環境負荷の比較をする場合、製造段階のみに着目すると製品Bの環境負荷が少ないものの、ライフサイクル全体を通してみると、製品Aの環境負荷が少ない場合がある。このようにLCAは、製品・サービスのライフサイクル全体での環境負荷を明らかにして、環境調和型の製品開発等に向けてデータを提供する。

ライフサイクルアセスメントに関するフロー図

図2 製品のライフサイクル

  • [「LCAについて」の文章および図2の出典:一般社団法人 サステナブル経営推進機構(SuMPO)研修資料]

Lifeデザイン事業部 濱田 倫

2006年4月 大日本印刷株式会社入社。包装事業部(現Lifeデザイン事業部)で、紙製容器の製造プロセスの開発を担当したあと、2020年から同イノベーティブ・パッケージングセンターで、環境に配慮した事業の開発を担当。産学連携のプロジェクトにも参加している。

Lifeデザイン事業部 神尾 美幸

2018年4月大日本印刷株式会社入社。現在の部署でデジタル機器やサーバーの管理を担当。今回のシステム開発では、運用側と開発側をつなぐファシリテーションを担当。

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