責任ある調達
近年、グローバル・サプライチェーンの拡大にともない、人権・労働、汚職・腐敗等の社会問題や、気候変動をはじめとした環境問題など、企業活動が社会と環境に及ぼす影響は一層大きなものになっています。そのなかで、原材料の調達から生産・利用・廃棄・リサイクルまでのサプライチェーン全体を見据え、起こりうるリスクを把握・分析して、適切に課題を解決していくマネジメントの強化がますます重要になっています。
DNPは、グローバルに広がるサプライチェーン全体のリスクを的確に捉え、多様な課題を解決して持続可能な社会に貢献するため、国内外のサプライヤーとともに「責任ある調達」に取り組んでいます。引き続き、調達活動においても社会的責任を果たしていきます。
中長期ビジョン
高い価値創造と高いコンプライアンス意識の両立をめざし、サプライチェーンにおけるステークホルダーとともに、人権や環境等に配慮した調達を行う。
対応するSDGs
達成状況を測る指標および実績
中長期ビジョン達成状況を測る指標 | 目標値 | 実績 |
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マネジメントシステム
社内体制およびマネジメント
DNPは代表取締役社長を委員長とするサステナビリティ推進委員会にて、サプライチェーン全体で人権や環境などに配慮した責任ある調達に取り組むことを確認し、各種ガイドラインの制定やその実効性を高めるさまざまな活動を推進しています。
サプライヤー各社と、「DNPグループCSR調達ガイドライン」に則した取り組みを条項のひとつとして定めた「取引基本契約書」を締結しています。特に重要度が高いテーマについては、「DNPグループ印刷・加工用紙調達ガイドライン」や「DNPグループ化学物質に関するグリーン購入ガイドライン」などを個別に制定し、指導しています。また、定期的なサプライヤー調査とその結果のフィードバック、サプライヤー説明会を通じたサプライチェーンマネジメントの強化も継続的に行っています。社内では、購買業務のスタッフに対し、調達に関する基本的な知識やマネジメント手法の習得を目的とした専門資格取得のフォロー研修を実施するなど、社員の理解と適切な行動を促進しています。
DNPの主な取り組み
サプライチェーンマネジメントの強化
DNPは継続的に、人権や環境に配慮した責任ある調達の取り組みを進めています。「DNPグループCSR調達規準」を2006年に制定し、その後も国際的な動向を鑑みながら段階的にマネジメントの強化を図っています。
これまでの取り組み
2006年 | 「DNPグループCSR調達規準」制定 ※サプライヤーと協働で責任ある調達の取り組みを開始。 |
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2011年 | 「取引基本契約書」改定 ※1次サプライヤーに「CSR調達規準」に則したマネジメントを求める。 |
2012年 | 「DNPグループ印刷・加工用紙調達ガイドライン」制定 |
2013年 | 「DNPグループ化学物質グリーン購入ガイドライン」制定 |
2017年 | 「DNPグループCSR調達規準」を「DNPグループCSR調達ガイドライン」に改定 ※国内での事業活動を念頭においた調達規準から、EICC(現RBA)「EICC行動規範」やJEITA「サプライチェーンCSR推進ガイドブック」をベースに国際社会の要請事項を反映したガイドラインへ改定。 適用範囲を全海外拠点のサプライヤーやエージェントへ拡大 |
2018年 | 適用範囲を独自の購買機能を持つグループ会社に拡大 |
2020年 | 「DNPグループCSR調達ガイドライン」改定 ※1次サプライヤーだけでなく、2次サプライヤー以降を視野に入れた内容に改定。 「取引基本契約書」改定 ※2次サプライヤー以降に「CSR調達ガイドライン」に則したマネジメントを求める。 |
「DNPグループCSR調達ガイドライン」に基づく取り組み
実態調査と結果のフィードバック
DNPは、2020年に改定した「DNPグループCSR調達ガイドライン」の実効性をさらに高めるため、さまざまな具体策を実行しています。主要サプライヤー※や業務委託先等に、本ガイドラインと、そこで定める人権・労働、環境、公正取引・倫理等に関する当社方針を周知するとともに、定期的にその取り組み状況を調査して、結果をフィードバックしています。また、前年度の調査結果を踏まえ、一部のサプライヤーには個別面談を行って課題や改善策を確認し、次年度の活動に反映するといった継続的なマネジメントを行っています。なお、2023年度の調査では、重大なコンプライアンス違反は確認されませんでした。
※主要サプライヤー:年間購入額90%を占めるサプライヤー
「DNPグループCSR調達ガイドライン」取り組み状況調査・面談実績
調査実績 | 2019年度調査 | 2020年度調査 | 2021年度調査 | 2022年度調査 | 2023年度調査 |
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調査回答社数 | 220 | 353 | 164 | 180 | 274 |
国内 平均スコア |
87 | 86 | 87 | 82 | 81 |
海外 平均スコア |
ー | 84 | ー | ー | ー |
面談社数※ ()内は書面による指導 |
18 | 18(4) | 12(2) | 44(24) | 45社予定 |
- ※調査結果を踏まえ、翌年度に、改善に向けた面談・指導を実施。
- ※2022年度から、調査内容とその評価指標を見直し。
「DNPグループCSR調達ガイドライン」取り組み状況調査のテーマ別平均スコア
平均スコア | 総合 ※推奨事項は除く |
要請事項 | 遵守事項 | 推奨事項 | ||||||
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管理体制の構築 | 法令遵守・ 国際規範の尊重 |
人権・労働 | 安全衛生 | 環境 | 公正取引 ・倫理 |
製品の安全性 ・品質 |
情報セキュリティ | 社会貢献 | ||
2023年度実績 (2022年度実績) |
81 (82) |
75 (79) |
82 (85) |
87 (88) |
84 (86) |
74 (74) |
81 (82) |
82 (82) |
83 (84) |
78 (80) |
教育と浸透
DNPは、サプライチェーン全体での人権リスク対応の重要性を認識し、人権尊重の取り組みを一層推進するため、社員やビジネスパートナーに対して、DNPグループの人権方針や環境方針、CSR調達ガイドライン等への理解・賛同を促し、実行につなげています。
また、サステナビリティに関する理解を促進し、行動につなげる教育も社内外で実施しています。社内では毎年、購買業務のスタッフに対し、環境・人権等の社会課題の動向や企業が負う責任、購買を通じたサステナビリティ推進の必要性を学ぶ研修を実施しています。2021年度からは全社員を対象に、「ビジネスと人権」に関する研修も実施しています。社外に向けては、主要サプライヤーを対象とした勉強会を実施しています。「CSR調達ガイドライン」に改定した2017年度以降、延べ239社・273名がこの勉強会に参加したほか、取引先22社とのエンゲージメントも実施しています。また、DNPが責任ある調達のマネジメントの中心に据えている「DNPグループCSR調達ガイドライン」に関する解説書(日本語・英語)を発行・公開し、基準・用語・背景等に関する社内外の理解を促進しています。今後もさらにこうした取り組みを強化し、「責任ある調達」を推進していきます。
持続可能なサプライチェーンの構築に向けた取り組み
DNPは持続可能なサプライチェーンの構築に向け、以下のようなさまざまな取り組みを行っています。
材料調達BCP(事業継続計画)
「有事の際にもサプライチェーンを止めないこと」に主眼を置き、主要製品の原材料の1次~3次サプライヤーを視野に入れ、サプライチェーンの透明化や複線化、代替材の確保等、サプライチェーン強化によるリスクヘッジを行っています。
責任ある鉱物調達への取り組み
欧米を中心に人権デュー・ディリジェンスの法制化が進み、国内外で人権尊重の意識が高まるなか、企業は一層サプライチェーン全体でリスクを管理し、負の影響を軽減していく必要があります。特に鉱物資源については、紛争地域等の高リスク地域における児童労働等の人権侵害、テロリストへの資金供与や紛争への加担、マネーロンダリングや不正取引、環境破壊などの多様なリスクに留意することが重要です。
DNPはこうしたことに加担しないよう、「DNPグループCSR調達ガイドライン」内で「責任ある鉱物調達」を規定し、「OECD紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」に沿ったマネジメントの体制整備と各種施策※1を推進しています。
2021年度は、主要サプライヤーを対象に、「人権問題ならびに紛争鉱物問題に関するサプライヤー実態調査」を行い、原材料の原産地調査を実施しました。責任ある鉱物調達を主導するRMI※2の適合性検証プログラム・RMAP※3を用いて、原材料に含まれる5つの鉱物(スズ・タンタル・タングステン・金・コバルト)の製錬所・鉱山を特定し、リスク評価を行っています。
2022年度には、上記にマイカ・アルミニウム・リチウム・ニッケル・銅等を加えた23の鉱物について、RMIのパイロット報告テンプレート(PRT)を用いたリスクアセスメントを開始しました。また、当社の事業において重要度が高い鉱物については、鉱山や製錬所を含むサプライチェーン全体の詳細なリスク評価を行うため、サプライヤーとの個別協議を行っています。
- ※1本ガイダンスの5つのステップに関するDNPの取り組みについては、「DNPグループCSR調達ガイドライン」の解説書の「DNPの責任ある鉱物調達フレームワーク」に記載しています。
- ※2RMI(Responsible Minerals Initiative):責任ある鉱物調達の取り組みを主導している団体。世界で400以上の企業・団体が加盟。
- ※3RMAP(Responsible Minerals Assurance Process):独立した第三者機関の評価を使用して、製錬所・精製所の管理システムと調達慣行について、責任ある鉱物調達への適合性を検証するプログラム。
鉱物調査結果
2021年度調査 *スズ、タンタル、 タングステン、金、 コバルトを対象 |
2022年度調査 *スズ、タンタル、 タングステン、金、 コバルト、マイカを対象 |
2023年度調査 *スズ、タンタル、 タングステン、金、 コバルト、マイカを対象 |
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調査回答社数 | 186社 | 171社 | 253社 |
特定した製錬所数 | 391か所 | 414か所 | 393か所 |
RMAP適合製錬所数 *Conformant認証取得 |
261か所 | 260か所 | 255か所 |
「DNPグループ印刷・加工用紙調達ガイドライン」について
2012年にDNPは、持続可能な森林資源の利用に寄与するため、印刷物の主要原材料である印刷・加工用紙の調達で遵守すべき事項に関して、本ガイドラインを制定しました。また、製紙メーカーや販売会社等のサプライヤーとの連携を強化し、本ガイドラインに基づいて合法性が確認された木材の調達、トレーサビリティの確保、森林資源に配慮した用紙の購入比率の向上などに努めています。なお、2023年度も、すべての用紙サプライヤーの合法性を確認しました。
「DNPグループ化学物質に関するグリーン購入ガイドライン」について
DNPは2004年に「DNPグループ化学物質管理基準」を制定し、環境負荷等の最小化をめざすグリーン購入を化学物質に関して推進してきました。また、化学物質が人の健康と環境にもたらすリスクを低減するための国内外の規制強化を受け、2013年には化学物質の在り方などを新たに定義付けて、「化学物質に関するグリーン購入ガイドライン」に改定しました。あわせて「サプライヤー説明会」を開催し、化学物質のリスクやサプライチェーン全体での対応の大切さなどを関係者に伝えています。2021年11月には管理対象物質の対象を拡大するなど、継続的にマネジメントの強化に努めています。
イニシアティブへの参加
DNPは、2003年に日本で発足した国連グローバル・コンパクトのローカル組織、一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の取り組みに共感し、さまざまな分科会に参加しています。特に、サプライチェーン分科会には2008年度の発足時から参加し、「サプライチェーンにおける望ましいCSR活動のあり方-サプライチェーン分科会からの提案-」(2013年発行)や「CSR調達入門書-サプライチェーンへのCSR浸透」(2016年発行)の編纂、「CSR調達研修用ツール・セット(講義&ゲーム)」(2020年発行)の日英版の作成などに参画しました。2023年度には、「CSR調達入門書に関する理解度チェックツール」の作成にも携わり、CSR調達の普及に貢献しています。